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贖いのユグドラシル  作者: 熊猫パンダ
第二章 兵士養成学校編

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10/11

10 特別訓練

ガルとルーフの父親は騎士団時代の親友同士で、生まれた時から自然に競い合うように育てられた2人は、まるで兄弟のようだった。


「うおおおおおお!!フンフンフンフン!」


土の上で汗を飛び散らせながら休みなく1000回の腕立てを行うガル。背中に括り付けた重りが、動きに合わせてガシャガシャと音を立てる。

途中何度も自分が垂らした汗で腕を滑らせて顎を打っては血を流しても止まらない。


「ハァッ...!!はぁ、はぁ...1分休憩...!」


筋肥大を目的とした重量器具を使ってトレーニングを行うルーフ。動きは緩やかだが、引き締まった筋繊維の一つ一つが脈打つ様に強ばっては、身体から発せられる熱気が周囲の空気を揺らす。

滴る汗をタオルで拭き、失ったぶんの水分を直ぐに補給する。


効率を重んじるルーフと、気合と根性のガル。ルーティン化されたトレーニングは互いを映す鏡だった。


この兵士養成学校は剣術や体術、座学などの授業時間を終え、昼食を挟んでから放課後までは自由時間とされている。


自由とは言うものの、遊んでいい時間という訳ではなく、各々が自己を高める為に用意された時間の為皆が鍛錬に励んだり、自己学習に努めたりして過ごしている。






時折、ガァン、ゴォォンと重い金属が爆ぜるような鈍く響く音が空気を伝って震える。


「この音...」


「フィリアだな」


転入生、フィリア・ヘルトルーディスが学内で鬼教官と有名なヘンセル・ベンゼマに出された課題をクリアする為、フィリアが訓練しているのだ。


フィリアの特別訓練は周囲に危険を及ぼす可能性がある為、隔離された特別な建物で修行している。


「ハァ...あいつ、やっぱり普通じゃねーよな」


「フンフンフン!!ああ、だけどすぐ追い付いてやるぜ...!俺らだって()()じゃねえ!!待ってろよフィリア!1000回スクワットオオオオッ!!」


「...お前もおかしい」





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ホロイの一件や本格的な「竜種」の被害増大を受けて、国も()()についてを下級兵士や一般人にも公表する事となった。


勿論始めは混乱も想定されていたが、元々不思議な力を用いる兵士の目撃情報や噂などが回っていた事や、人望の厚いカラシン副団長や国王からの丁寧な説明もあってか想像以上に丸く収まった。


契約は強制では無かったが、人智を超えた力を得られるというのは、強さを求めてこの学校に訪れた者たちにとって願ってもない事だったのだ。


契約者が一気に増えた事によってそれについての研究も必然的に進み、悪魔の声に応えてしまうと、数日経ってから行方不明になってしまう事も分かった。


その多くは行方不明になるまでの数日間、まるで何かに取り憑かれたかのように、誰にも気づかれずに居なくなっている。




不老不死の体を願った者は、生以外を失った。

永遠の幸せを願った者は、永遠の夢に閉ざされた。





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「貴様の覚悟はそんなものか、ヘルトルーディス!!」


「ハァ、ハァ、まだまだぁーっ!」




まるで要塞のような見た目の建造物。

内装は何も無く、ただ広い空間に光が差し込む隙間もない。厚さ10センチ以上の鋼鉄の壁が何重にもなって強固な防御力を誇る。壁と床の表面には「影が生まれない」という特徴を持つ楽園(エデン)の素材が練り込まれており、これにより光無しでも全く暗くならない。


ここは異能持ち、つまり契約者がより実践的な訓練を行うために造られた場所だ。


フィリアは契約者ではないが、その境遇と人間離れした身体能力、そして近く行われるであろう調査団への入団試験等を加味し、個人訓練が実施されていた。


現在フィリアの実戦演習の相手になっているへンセル教官もまた契約者であり、その能力はヘンセルの持つ「教育道具」を大幅に強化するというもの。大きな代償は無いが、その力を行使するにはヘンセル自身が相手を「敵」ではなく「教育対象」だと認識することが必要となる。真名を「知恵比べ(ヴァフスルーズニル)



「目の前の偶像に恐れるな!敵は己が内にありッ!休まず行くぞぉ!!」


教官服を着て、巨大な教科書を両手に持つヘンセル。


「はいっ!」


応じるフィリアの制服はナイフで切られたようにボロボロで、白い粉が掛けられたようだった。


巨大な教科書をパラパラとめくり、音読(詠唱)を始める。


「契約の力には第一種【強化】第二種【変化】第三種【操作】第四種【生成】の型が存在すると言われており、一般的にその力は第一種から第四種に増すとされている!本校を卒業した時点で与えられる兵階級は卒業時の成績から判断され、下から【鉄】、【銅】、【銀】、【金】と割り当てられるが、現在の私の兵階級は何か答えよ!!解答は10秒以内、カンニングは禁止とする!!」


「えっ!?え、えーと...教官の力は多分第一種かな...?嫌、第二種か...?四種ある力が順番に強いならきっと強い力の方が有利になるはず...でも教師ということは...【金】!【金】でーーー」


答えようとした瞬間、雷鳴のような爆音と共にまるで柱のような大きさのチョークに押し潰され、壁にめり込んでいた。


「不正解ーーっ!!私は【金】の更に上、【白金】だ!まあ能力的に実際前線に立つ機会こそ皆無だがッ!!真に優秀な兵士は戦場よりも未来を育てるのだ!!勉強不足ッ!自主学習を怠るなァ!」


「んなっ!当たる訳無...」


「私語厳禁ーーっ!!」


ドゴーン!!


「ぐへぇっ!」


再びチョークが追加投入される。


巨大だがあくまでもチョークの硬さの為、常人より遥かに頑丈なフィリアには深刻なダメージが入る心配は無い。そのためかいつもより多く、軽率にチョークが撃ち出されているようだ。


「二問目ぇ!私は第二種【変化型】の契約者の為、高成績で卒業したものの貴様の言う通り卒業時点の兵階級は【銀】だった!!しかし現在では【白金】の兵士という訳だが、それは何故か簡潔に説明せよ!!解答は20秒以内!カンニングは勿論禁止だァ!!」


「えっと...卒業時点で与えられる階級はあくまでもその時点の話で、その者の功績が貯まれば、階級は昇降する可能性があるからです!」


目を閉じて構えるも、今度は壁にめり込まされることはなかった。


「正解ッ!!卒業時点で与えられる兵階級はあくまでも初期の指標!!私は卒業後、数多くの優秀な異能兵士を輩出した教官として表彰された事で、【銀】には到底そぐわない功績と判断されて昇級した!!因みに気になる年収だが、階級が1つ上がるにつれ倍増えると言われているッ!」


金貨3枚で一月暮らせると言われている。命の危険のある兵士の給料としては多くて当然だが、高い階級の兵士の給料は青天井と言われている。

噂では上位の兵士の中では兵階級以外にも順位が存在するそうだが、その中でもまた上位、最低でも【白金】に君臨する兵士の給料は一般人には想像もつかない金額になるだろう。


「正解した褒美に今日の訓練はこれで終了ッ!!明日も励めよ!!」



「はいっ!気を付け、休め、気を付け!!ありがとうございました!!」


「授業」を受けたのは自分一人だが、深々と頭を下げて礼をする。すると、ヘンセルが右手に持つ巨大な教科書が徐々に縮小して通常の大きさに戻った。


ただのケジメという訳ではなく、ヘンセル教官の能力を止める為に必要な過程なのだ。




「ふぅ...お疲れ様、フィリア。疲れただろう?どれ、今日は遅くなってしまったし、夕食は私が奢ろう。何がいい?...ああ、フィリアはシチューが好きなんだったか。」


声が変わった。語尾の鋭さ、語気の強さが無くなり、人が変わったように柔らかく、お淑やかな振る舞いになったヘンセル。


力の副作用なのかは不明だが、ヘンセル教官には「教官モード」と「淑女モード」が存在すると言われている。決して二重人格という訳ではなく、本人にはどちらの記憶もあるそうだが立ち振る舞いを意識して変えたつもりはしていないとの事。


彼女の究極のメリハリが生んだ賜物なのだ。


そんなギャップが学内では大人気であり、「教官モード」時の鬼のような形相からは気付けなかったその美貌に多くの生徒が心奪われる。



「はっ、はひっ!!」



フィリア・ヘルトルーディスもまた、例外ではなかった。





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