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贖いのユグドラシル  作者: 熊猫パンダ
第二章 兵士養成学校編

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小鳥が囀り、カーテンの隙間から漏れる細い日光が瞼を貫通して刺激する。

朝のラッパが寮内に鳴り響いた。


ラッパが鳴って直ぐに起きなければならない訳では無いが、ラッパが鳴るという事は、学園の朝礼が近いという事を示す。


「おーい、2人共!遅刻しちゃうよー!」


既に準備を終えたフィリアは二人を急がせようと焦るが、上下の二段ベッドでガルとルーフの二人は未だに寝間着のまま、鼻提灯を膨らませていた。


「鐘が俺の起きる時間を決めんじゃねぇ...」


「ぐがー、ぐがー...後2時間だけぇ...」


一向に起きる気配の無い二人。寝起きが悪いのはいつもの事だが、今日は流石に待っていられる程の時間が無い。


「...誰が一番早く教室に着くか勝負ーーー」


勝負という言葉を発した瞬間、ガルとルーフが包まって離れなかった毛布が浮き、超高速で身支度を済ませた。



「フィリアおせーぞー!!あってめぇ、待ちやがれ!!」


既に玄関で靴紐を結んでいるガルがドアを肩で開けるとその隙にルーフが先に飛び出た。

栄養スティックを口に詰め込み、紙パックの牛乳を押し潰しながら直接胃に流し込み、駆け出た。


「はやっ!」




通学路とはいえ、寮の為非常に近い。

寮の敷地から出てすぐに学園の正門へ続く、春になると東の国の桃色の美しい花の咲く並木道に出るが、人通りは少ない。


「全然人いないよ!?急げー!」


「おお!走りやすくて助かるな!?」


「多分そういう事じゃねぇ...!」


三人が走ると、道の両脇に生えた木々が突風に吹かれたように揺れる。


「いやっ!」


女子生徒のスカートが三人の生む風の影響でふわっと浮いた。


「むっ!青の水玉!」


ガルが思わず静止して呟いた。


「ちょっと見てんじゃないよ!!何なのよアンタら!」


「あ!!先輩朝からあざしたぁ!!このまま歩いてたら遅刻するっすよ!?二人ともずりーぞ、待てぇ!!」


90度に深い礼をした後、再びスカートを浮かす程の突風を生みながら走り出した。




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「ガル・ヴァイツ!!遅刻!!廊下に立ってろォ!!」


ボンちゃんことオスカー・ボントラー先生。

普段は見た目に反した温厚かつユーモアな筋骨隆々の大人気教師だが、クラスの輪を乱す行為は断じて許さない、教師としての一面も併せ持つ。


「さーせん...」


半泣きでしょぼくれながら教室のドアを閉じた。




「怒られてやんのー。にしてもいっつもアンタらギリギリで間に合うのに、ガルだけ遅刻なんて珍しいね?起きなかったの?」


ルーフとガルの教室での席は、生活態度が悪い為、いつも最前列。その後ろの席からルーフの肩を突いて話しかけてきた女子生徒。名をジャネット・バンカー。


「ん?ああ、あいつ先輩のパンツ覗いて遅れたんだ」


「はぁ?何その理由!?アイツホントサイコー!さいってー。」


ガルが答えると、その女子生徒は笑ったかと思うと肩を窄めてしかめっ面をする。


「どっちだよ...そういえばジャネット。お前何出るんだ?」


「最高で最低だよ!奉納祭のコト?アタシは隠と疾かなー?いちおまだ変更間に合うんだっけ?アンタら全種目入れてたよね?さっすがー。」


ジャネット・バンカーの顔には大量のピアスが開いている。


「おう、当たり前だ...お前、また耳のそれ増やしたのか?見てて痛々しくなってくるぞ...」


「はー!?センスねー!アンタの感性おっさんかよー!?お仲間のフィリアくんも開けてるだろー!」


ゲラゲラと笑いながらルーフの分厚い背中を叩くジャネット。



「フィリアのはお前みたいにジャラジャラしてるタイプじゃねーし、なんか大事そうだろ...?俺が思うにアレは、親の形見とかそういうんだと思う...から、あんま詮索する気にはなれねぇ」


頬杖を突きながらそう呟くルーフ。


「...!!かーっ!良い奴だねールーフ!皆聞いた今の!?泣かせるぜー!」


更に強く背中を叩いたジャネット。余りにも声が大きい為後ろを振り向くと、何人ものクラスメイト達が身を乗り出して聞いていた。


「なっ...!?テメェ、嵌めやがったな!?フィリア、今のは...!?」


後ろを見ると、フィリアも一緒に聞いていたようだった。


「大事にしてるのはホントだけど、何でつけてるのか正直よく覚えてないんだよねー!」


純粋無垢な、正直かつ明白な回答に、気遣ったつもりだったルーフの面子は丸潰れだった。

どんどんと顔が赤く染まっていき、ぎこちなく顔を前に戻した。


「...そ、そうなんだな...ジャネット、テメェ覚えてろよ...」


「アハハ!!乙女のファッションに口出した天罰だよ!そうだよねーフィリアきゅん!ファッションに意味なんて必要ないの!可愛いからやる!それでいいのー!!」


顔を熱くして前を向いたままのルーフの頬をペチペチと叩くジャネット。


「でも、ルーフ君ありがとう!僕の事考えてくれて嬉しいよ!」


「「はうっ!!」」


それまでルーフを笑っていた全員がそれを恥じる程に、ただただ綺麗で純粋な感謝だった。


「はは...ま、まあルーフ、アンタがサイコーなのは間違いないよ」


「...俺達男もお洒落してるわけじゃないのに笑うのは違うよな、ルーフ、あんま気にすんなよ...すまん」


ルーフの肩に手を乗せる男子生徒。


「...もうやめてくれ朝から散々だ...」


嘲笑と感謝と同情に同時に揉みくちゃにされ、顔を両手で塞いで俯いた。



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「...偉大なる世界樹の意志とはそれ即ち約束の林檎の事であり、それを身体に宿す事で、天変地異をを起こす竜種の持つ力を得られるのではないかと考えられている。つまり竜種とは偉大なる世界樹の意志に基づいて行動しているのではないかという説が近年では最も有力な説とされており、これまでの人類史で神と同等に崇められてきた世界樹が果たして人類の味方なのか、それとも人類の宿敵なのか...なんか今日めっちゃ楽しいな授業」



「...こいつ朝からこんなんなんだけどおめーらなんか知ってる?」


移動教室ではガルとルーフは後ろの席の為、余程騒がない限りは教師に注意される事はない。


「あー...わかんない、トレーニングで疲れたんじゃない...?」


ジャネットは少し気まづそうにそっぽを向きながら言う。


「ほーん...?」



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四時限の座学授業が終わると、奉納祭へ向けての個人鍛錬が始まった。




「うらああああ!!奉納祭期間はトクベツに普段1000回ずつのメニューを10000回にパワーアップだぁ!!フンフンフンフン!!」


学園の裏山を回る走り込みを既に終え、筋力トレーニングを始めようとするガル。


「いつもギリギリ終わる位の時間なのに、どうやって10000もする気なんだあのバカは...」


「おっルーフ君、調子は戻ったかね??」


運動前のストレッチをしながらルーフの横に現れたジャネット。


「あ?なんの事だ?」


「いや、なにって...ハァ、アンタの引き摺らない精神、呆れ通り越してもはや尊敬に値するよ、ホント。...なんかあっちに人集りできてない?対人訓練でもするのかな??」


ジャネットが目を細め、手を双眼鏡のようにジェスチャーしながら言う。


そう言われて校庭の方へ目をやると、校庭の四分の一程が区切られるように人がいなくなり、またその周辺に人が集まり出していた。


「...よっと」


ルーフとガルは互いに意思疎通するまでもなく、無意識に戦いの嗅覚に身を委ねていた。


「あ、ちょっと待ってよ!見に行くの!?」





人混みをかき分けながら中へ進むと、それぞれ赤と緑の模様の靴を履いた生徒達がその中心にいた。


この学園は四年制であり、学年を一目で分けられるよう生徒たちの外靴、上靴に学年ごとの色が決まっている。


今年の場合は一年生から四年生までで青、黄色、赤、緑の順だった。年次が変わる毎に新たな色が割り振られる訳ではなく、青、黄色、赤、緑の靴がそれぞれローテーションされる仕組みのため、来年の1年生は今の四年生が履いている緑色の模様の入った靴を履くことになる。


つまり、赤、緑の靴を履いている生徒ということは彼らが三、四年生という訳だ。



「なにやんの?」

「先輩方が対人戦するらしいぜ」

「あれ、生徒会の人だよね?」


ざわざわと纏まらないく空気の中、一声がそれを止めた。


「ゔ ん ! ! !」


銃声かとも思うほどの咳払いが校庭中に轟いた。


「...皆さんこんにちは!!生徒会会長のロイス・ヴェンジェンスです!!皆さんも既に励まれているご様子ですが、13日後に控えた奉納祭に向けて校庭の四分の一を生徒会でお借りし、対人の組手を行う事となりました!!参加は受付の生徒会役員に申し付けてください!!学年を問わず皆さんで高めあいましょう!!」


横にいたガルが間髪入れず手を挙げた。


「はい!はい!俺やる!やりまーっす!!」


「バッお前、俺らがいきなり出るようなもんじゃ...」


「むっ?一年生か...結構!!熱のある後輩が居てくれると頼もしいね!!さあ他に我こそはという者はー!?」


ガルを皮切りに他の生徒達も次々に参加受付を始めた。





「ん?なんだろうあの人混み...?」


特別訓練の為の建物へ向かうのに、校庭を跨ぐのが近道のフィリアが校庭を通りがかると、大量の生徒達がまるで校庭を区切るように集まっているのに目が着いた。





「それではお互いに向き合って礼!...始め!!」


狭い空間に100人ほどが集まっているようで、なにやらこの円の中心部分でなにかが行われている様だった。


「通れない...」


あまりの人の密集具合で、目的の建物へ行くための階段が封鎖されている。


この学園の校庭は毎日大量の生徒達がごった返す為非常に広大な敷地を有している為、今から引き返すのも億劫だった。


どうにか階段まで辿り着けないかと人混みをかき分け中心部分に向かうと、ガルが腕章を付けた、赤の靴、即ち三年生の先輩と激しい肉弾戦を繰り広げていた。


「え?!ガル君!?」


思わずガルに声をかけると、声のした方へガルが咄嗟に振り返った。


「んおっ?フィリーーー」


「...戦闘中に余所見とは!!」


こっちを向いていたガルの顎を打ち抜く正確なパンチ。


そのままガルの身体はこちらへと吹っ飛び、フィリアが受け止める形となった。


「ガル君!?大丈夫!?」


「フン、弱い癖に調子に乗るからこうなるのだ」


相手も相当なダメージを負っている様だが、顔には出さずに服に着いた砂を払う。



唇が切れたようで、血を吐き出すガル。


「イテテ...クソッ、油断した...」


「やめっ!!...勝者ゲイン!」


入学式の時に登壇して挨拶していた四年生が戦闘を止めると、歓声が沸いた。



「...あ?」


ゲインが目にしたのは、白銀の髪の美少女に抱えられるガルの姿。


「...な、なんと...こんな、地面に転がる石ころに、こんなにも可憐な睡蓮の花が...!?」


「おー、悪ぃな、フィリア。イテッ、唇切れた...」


「えっ?!どこ?見せて...」


そういってガルの口元に顔を近づけるフィリア。


「フィリア...尊き名前だ。友愛を唱えるに相応しい容姿...素晴らしい!ごほん。フィリア...いえ、フィリア嬢。そんな野蛮な獣など捨て置き、私めと共に愛の逃避行と参りませんか...?」


フィリアの髪を耳にかけ、その小さな顎をくいとこちらへ寄せる。


「は、はい...?」


目の前の先輩は一体何を言っているのだろうかとフィリアが呆気に取られていると、ガルがついに我慢できずに吹き出した。


「...プッ!せ、先輩...そいつ、男っす...」




「は?...っ!?き、貴様、男なのか!?」


「え、あ、はい...」


生徒会役員は基本的に上流家庭の育ちな事が多く、容姿も優れている人ばかり。生徒会長であるロイスは勿論、会計のゲインも例外ではなかった。


一学年内では母性をくすぐると強い人気を集めているフィリアだが、外見も家も良いゲインもまた女子人気を集めていた。薔薇的展開に恍惚とした表情を集める女子からそのフィリアが男(衝撃の事実)である事を確信したゲイン。


「ちっ、ちがぁーう!私は断じて男に惚れてなどいなぁい!!」


慌てて手を振り、弁明しようとするゲイン。


「...立てぃ貴様ァ!その容姿を利用し我がギルバート家に近付こうとする不埒者め!!我が正義を以て貴様と相対するっ!!」


かかって来いと言わんばかりに手をジェスチャーするゲイン。後に模擬戦を控えている者たちがブーイングを飛ばすが、生徒会長の声で直ぐにそれは止まる。


「むむ!?血気盛んでいいねぇ、そこ!やりなさい!!えぇ!なんで順番飛ばすのかって!?」


ロイスは深く息を吸って叫んだ。


「面 白 そ う だ か ら ッ !!」


「...良いぞ、やれーっ!」

「ゲイン様負けないでーっ!」


「なんだコレ、気色悪ぃ...」


同じく後に控えていたルーフがその異常性に気が付く。これが会長の器とでも言うのだろうか。


先程でブーイングの嵐だった集団が、何らかの魔力にでもあてられたかのように豹変して野次を飛ばし出した。



「それでは互いに向き合って礼!...始めッ!」





























































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