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贖いのユグドラシル  作者: 熊猫パンダ
第二章 兵士養成学校編

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兵士養成学校と言えど、剣術や武道、体力鍛錬の体育授業ばかりという訳ではなく、座学の時間も当然存在する。週5日、平均4時間の座学授業では、皆が集中して学習している。



...三階の一年生フロア、その端にある「1−E」と書かれた教室のそのまたただ三人を除いて。




「ヘルトルーディス、ヴァイツ、サロッタ!お前達、授業中の私語をやめろと何度言ったら分かる!?...授業を続ける」


「え、僕も...?ちょっと二人共...」


「ハァ!?だからあの猿はお前が面倒見るって話で...!!」


夜叉猿と相対し、ガルがヒバナから【森の主】の譲渡の儀を受け(仮定)てから半月程が経った。


成長すればAレートにも匹敵する力を持つ夜叉猿が人に懐くという異例の事態を受け、竜種研究会(竜研)が特例により、夜叉猿を研究対象として討伐を保留とする運びとなった。


しかし、万が一に備えるため、実際に夜叉猿が友好的な反応を見せた3人、ヒバナ・オキタ、ルーフ・サロッタ、ガル・ヴァイツの三名のみが夜叉猿と接触する事を許されている。


フィリアも例に違わず、夜叉猿との接触は禁止されていた。


「オマエにも懐いてんだからオマエも面倒見んだよルーフ!今日はオマエの当番!ここ一週間全部俺の当番だったから一週間はオマエの番な!」


「"竜種"と命名された生物は世界樹の根から生まれていると考えられているが、誕生の瞬間が正式に目撃された例は未だ報告されておらず...」



「森行くの今日から面倒臭くなっただけだろこの野郎!」


「...の実を用いて竜種に対抗する力を得る"方法"に関しては通常、三年に昇級したタイミングで本格的に学んだり交わすことになる訳だが...」


「ちげーし!!」


ガルとルーフがいつものように取っ組み合いの喧嘩になりかけ、立ち上がった拍子に机が倒れて大きな音が鳴る。



「...!」


先生の握るチョークが黒板へ押し付けられ、擦り折れた。




「ガルのせいで授業まともに受けられねぇじゃねえか。なあフィリア?なんか言ってやれ」


廊下に立たされた三人。このような事は日常茶飯事であり、三人の授業態度面の内申点は常に最低ラインだった。


「...」


フィリアはいつも通り扉の隙間から黒板と授業を覗き見て授業を受ける。


ガルとルーフは廊下に立ち、教師達の目に晒されて漸く喧嘩を辞めた。



「お前達またか...フィリア、お前は優秀なんだからつるむ相手は考えた方が良いぞ?...全く...両端むさ苦しい男に挟まれるとより女のように見えるな?」


気色の悪い笑みを浮かべながら、全身を舐め回すように言う男。


アズバルドル・マイラワー。数学の授業と竜種研究を担うこの学校の教師。

学校の規律を乱しがちなガルとルーフを普段から疎ましく思っているようで、フィリアの事も裏口入学を疑っているのか、普段から三人はアズバルドルに目をつけられていた。


「あはは...」


苦笑いするフィリア。


「せんせー、男好きなんすかァ?フィリア意外とでかいっすよー?負けてんじゃないっすかァ?」


「ちょっ!ガル君何言ってんの!?」


「なっ!?まさかそんな訳...嫌々、うーん...チッ、クソガキ共が...というかなぜお前達がそれを知って...? 」


頭の後ろで腕を組みながらガルがマイラワーの下半身を見ながら揶揄うと、面食らったように足早に去っていった。


「なんだあいつ...あんま気にすんなよ、フィリア。 お前はカッケーぞ」


ポンポンと肩を叩いて励まそうとするルーフ。しかし、フィリアは少しばかり悔しそうだった。


「...そんなに男らしくないかな?僕...」




授業が終わり、休み時間。



「ガル!お前らまた怒られてやんのー」


クラスメイト達が先生の説教を終えて教室に戻ってきた三人を揶揄う。


「うるせぇ!ルーフがさるに餌やりしねえのが悪い」


「ハァ!?だからあれはお前の...」


三人はクラスの人気者だった。


「あはは!ガルもルーフもほんと何しでかすかわかんないわね!フィリアくんが可哀想〜!大丈夫だった〜?怖かったね?」


クラスの女子達に囲まれ、抱き着かれるフィリア。

男子たちからは嫉妬と羨望の眼差しを一心に受ける。


そこらの女性よりも華奢な体格に、少女とも見間違うような顔立ち。女子人気が低いはずが無かった。


「ちょ、ちょっと!息、できな...たすけ...」


女子に溺れ死にそうになったフィリアだが、助けてくれる男子は居なかった。


「...けっ!それで死ねるなら本望だろうが!」



「そういえば今日、なんでこの時間に授業あるんだろうな」


男たちが嫉妬する中、ルーフがガルに聞いた。

放課前のこの時間は普段、自由時間なのだ。


「フィリアぁぁ...ん?あー、確かに!あれ?!今日筋トレ出来ねーじゃん俺?!」



騒々しい教室の中、鐘の音が聞こえてきた。




「はいアナタ達、授業始めるわよー!ハイ起立!気を付け!」


「「お願いします」」


「着席!」



授業開始の挨拶を終え、すぐに机に項垂れた姿勢でガルが言った。


「ボンちゃーん、今日何やんのー?」


ボンちゃんという愛称で呼ばれる担任の教師。

オスカー・ボントラー。

筋骨隆々な坊主がまるでピエロのような厚いメイクをした異様な姿は、教師らしからぬ物珍しさと不気味さ、そしてマスコット的なフレンドリーさを兼ね備えている。


「ガルちゃん、いい質問ね!普段はこの時間、自由時間だから気になるわよね?アナタはいつも通りのオ・ト・コ♡らしい筋トレの予定があったかしら?ごめんなさいねー!さて、なんだと思うー?」


ガルへ片瞼を瞑って星を飛ばすオスカー。


「げっ...」


「勿体ぶんなよボンちゃん!」


クラスメイトが野次を飛ばす。


「フフフ...せっかちさんねぇ、もう!仕方ないわ、それじゃあ発表しちゃおうかしら...」



「発表...?」


発表の二文字を聞いて急にそわそわとし出すクラスメイト達。


結婚?離任?誰かが有名な兵団からスカウトを受けた?


様々な憶測が一瞬にして小言で飛び交う中、オスカーが机を叩いて一気に注目を集める。


「遂に!暑い夏!ホットなガール!熱い男達!アツイ情熱!竜樹奉納祭の開催が決定したわ〜!!」


「「...うおおおおおおおおっ!!!」」


この発表は他のクラスでも同時に行われたようで、学校中から同じような叫び声が聞こえてきた。


「わっ!?」


突然学校中の人間が叫び出したのに驚くフィリア。先生の授業は大人しく聞かなければ授業から追い出されてしまう筈なのに、どうして今回は学校全体で許されているのだろうか。


「ウオオオ!!!祭!よっしゃああ!!」


例に違わず制服を破りそうな勢いで叫び立ち上がるガル。


「来たか...!」


ルーフも叫ばないものの、拳と首を鳴らして興奮しているのには変わりないようだった。


「ねぇ、なんでこんなに皆嬉しそうなの?」


お祭りといえば楽しいものらしいが、学校全体が狂喜乱舞する程のものは知らなかった。



「あ?!...お前、こんな事も知らないのか?良いかフィリア、この奉納祭はただの祭じゃねえ...竜樹奉納祭ってのは元々あのでっけぇ世界樹に食い物を捧げる儀式だったらしいんだが、その食い物を景品として、優勝者が...あー、えっと...食い物を竜樹に捧げる権利を得る...みてーな...」


ルーフが嬉々とした顔で説明を続けようとした所を、オスカーが手を叩いて遮る。


「ハイハイ皆!一旦落ち着いて!いいわよ〜、その熱!当日まで是非維持して頂戴!皆知ってると思うけど、この竜樹奉納祭は全国的に大人気のお祭りよ!各種目で優勝したり、活躍すれば大手兵団から声がかかる事も少なくないから、皆バシバシ全力でてっぺん狙って行きなさい!」



兵士の大元が国であるのは勿論だが、外国との戦争期間などで緊急招集されない時には、国内の安全を守る為という名目で、兵士達は自由を許されている。


兵士の殆どはその鍛えられた腕っ節を活かし、兵団という組織を自ら創って民間からの竜種討伐依頼や危険地帯の物資調達などを行って食い繋いでいるのだ。


つまり、より強い、有名な兵団に入ることが出来れば勿論稼ぎは増え、安定した収入を約束されるだろう。


兵士養成学校に入学した皆がその目標で日々努力している為、この竜樹奉納祭はその中でも数少ないチャンスの一つ。


全力で臨まない生徒はいない。


「それで、今日は各種目の選手選抜、登録を行ってもらうわよー!それじゃ学級代表のアキトちゃん!説明よろぴくー!」


「はい」


学級代表は事前に知らされていたようで、落ち着いた様子で教壇へと上がった。


「えーと...ルカさん、書記頼んでいいかな?」


「いいよーん!」


ルカはこのクラスの中心人物的なポジションにいる女の子。いつも飴玉を口に入れている。実家が太く上等な教育を受けていたこともあってか、このクラスでは恐らく一番字が綺麗だろう。



「それじゃ、一番気になると思う種目から説明するね。あまり聞かされていないんだけど、概要だけでも。一種目、隠。これは暗所での隠密行動力が試されると聞いているよ。二種目目、疾。どれだけ早くゴールへ辿り着けるか、らしい。三種目目、剛。名前的に恐らくは力が試されることになると思うから、力持ちの人が向いてるかな?四種目目、兆。これは教えてもらってないから、正直よく分からないかなー。そして最後の五種目、闘。単純明快、模擬戦だ。一番わかりやすいし、一番注目される種目になるだろうね。」



隠、疾、剛、兆、闘の文字で表された五つの種目。どの種目もその細かな内容までは知らされていないようだ。


突然のハプニング、柔軟な思考、対応力なども試されているのだろう。


「一人が全種目に参加することも可能だよ!ただ悪い結果を残してしまうと評価がマイナスされる可能性があるから、できるだけ自分が自信のある種目だけ選んでほしい!」


「次は体育祭の概要だよ!全校生徒千人近くいるこの学校で、さっき説明した五種目を1、2年下級生と3、4年の上級生が分かれて、それぞれ下級生は下級生、上級生は上級生間の全学級が対抗で、得点制で争う事になる。一位が10点、二位が5点、三位が3点の高得点が得られるんだけど、最大で約五百人中の三人以上にならなければならない。相当狭き門だね。各種目の参加人数のうち、半分以上の成績で終えられれば1点を獲得できて、半分以下は1点減点されてしまうから、基本的にはどれだけ多くの人が 上位に入り込めるかが勝負の鍵になってくるだろう。この学校は全クラスが30人構成だから、20点を獲得できれば少なくとも上位には入る筈だ。」


「む、むじぃな...」


頭を抱えて苦しむガル。


「上位50%以上に入るのは前提として、もし三位以上に入れたらかなり大きい点差になるっつーわけか...俺ら三人のうち、一番点取って一番多く兵団からスカウトされたヤツの勝ちな。いちばん少なかったヤツが一ヶ月部屋の掃除係」


肘を立て、組んだ手に顎を乗せて宣戦布告するルーフ。


「「乗った」」


目も合わさず、それに応じるガルとフィリア。


「ーーーって感じ。何か質問ある人、いるかな?無ければ次は、実際に出場する種目を選んでもらうね。さっきも言ったけど、自分が得意そうな種目以外を選んで下位になってしまったら元も子も無いから、良く考えて登録するのを強く勧めるよ!それじゃあ決まったら前に来て貰って、出場する種目を僕かルカさんに教えて...お!君らはそうだろうと思ってたよ...このクラスの主力になってくれるだろう。期待してるよ!」


学級代表のアキトが黒板に書いた隠、疾、剛、兆、闘の欄全てに、正の字の三画目までが記された。






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