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「ははは!!夜叉猿と!?遊んだぁ!?」
ヒバナと名乗る女性に事の顛末を話すと、耐え切れない様子で腹を抱えて笑い転げた。つい数分前までの危機的状況がまるで嘘のような軽やかな雰囲気だ。
「つい数分前まで殺されかけた相手と良く友達になるなんて選択肢があったね!ははは...いや、ほんとに!」
「はあ...このバカがどうもすいません」
「いや、皮肉とかじゃなく純粋にその胆力を褒めてるのさ!よくぞ生きていてくれた!」
「さるに謝れ」
ガルが呟くと、ヒバナの相棒であるファイザという少年がそれを遮るような反射神経でガルにチョップを食らわす。
「くらァ!!貴様ら、唯でさえ頭が高いというのにヒバナ様に頭を下げろと申すかァ!?」
「あーやーわーえー!!」
両頬をファイザに引っ張られ伸びながらも謝罪を要求するガル。
「そうだね、君の友人を傷付けてしまった事、申し訳なく思うよ」
なんだコイツ。この女は多分、俺やルーフは勿論、さるよりもずっと強いんだろう。
見た事の無い技と速度だったし、先程の全力で仕掛けた攻撃も何一つ通用する気がしなかった。
そんな大人が、自分が行った事を素直に謝るとは思っていなかった。
罪を犯したならまだしも、恐らく、いや間違いなく俺達が危険だった所を救ったというのに。
それに、さるがあの一瞬、ヒバナに倒され、気絶する迄のあの一瞬ーーー
「ヒバナさん!!」
倒れていた白猿がいつの間にか立ち上がり、ヒバナの背後へ回っていた。
「...ああ、どうやら君らの言っていた事は正しいらしいな」
復讐の攻撃を仕掛けるのかと思った白猿だが、ヒバナへ向かって水を受け止めるような姿勢で両手を盃のように差し出した。
「...あ」
ガルが思い出したかのようにヒバナの側へ寄り、彼女の手を取る。
「...?」
不思議そうにガルに手を預けたまま、白猿の手に被せるようにその手を置いた。
「...わお」
すると、白猿はあろう事か紳士が淑女の手をキスするように、ヒバナの手へ口付けをした。
「ヒャーーーッ!!キサマァァッ!!サル公がぁぁっ!!」
ファイザは白目を剥いて泣き叫びながら、ポコポコと白猿の身体を叩く。
「少年、これは一体...?」
ヒバナが困惑しながらガルに問うた。
「...多分、こいつはアンタが上だって認めたんだ。さるはきっともうこの森の主だったから、それに勝ったアンタがこの森の新しい主だ。」
「...え!?無理無理、私に森の主なんて務まらないよ?...そうだ!君がやりなよ!友達なんでしょ?」
ヒバナは慌てた様子でガルの肩を持ち、頼み込む。
「...俺!?無理だよ、あの儀式が森の主を受け継ぐ為に必要なんだ。あれが無いと猿達は主だと認めない。」
「お前なんでそんなこと知ってんだ?」
ルーフが疑問そうにガルに聞いた。
当然だ。ガルは昔から野生児とは言われつつも、オオカミに育てられた子供でもなければ森に捨てられた子供でもない。普通...とは言えないが、騎士の親に育てられた、人間の子供だ。
「え、知らねえ。勘?そういうもんだろ?」
一蹴された。
そうだった。こいつは昔からそうだったな。
でも、不思議と良く当たる。
「バカらし」
ヒバナは少し考えたが、すぐに行動に移した。
「だから俺は森の主になんて...って!?何やってんの!?」
跪き、ガルの両手を取ろうとしたヒバナ。
咄嗟に手を振り払ってガルは頬を染めた。
「ヒバナ様ぁぁぁあああ!?何をっ!何をぉおおっ!!」
白目を向きながら絶叫するファイザ。
「何って、これをすれば【森の主】を渡せるんだろう?」
「いや、それは俺の方があんたより強い事を証明しないと...」
「ええーっ、そうなのかい?それじゃ無理かぁ」
「ぐぬぬ...」
悔しそうに唇を噛むガル。ヒバナは微笑み、二人に提案した。
「うーん、でも私は森の主なんてできないし...そうだ、君達二人共、私が弟子に取ってあげようか?」
兵学校において会う機会が数少ない上級兵との関わりや、気に入られた者が付きっきりで直接稽古をさせて貰えるという。
弟子に取られた生徒は兵学校での実技授業の免除が許可されている為、授業料もかなり安くなるのだ。
勿論正規の、王道の訓練とは離れ、良い意味でも悪い意味でも師匠の癖を吸収することになる為、その人の弟子になるかどうかは今後の人生を左右する可能性がある、重大な選択である。
「その...これまでの功績とかって...」
弟子の勧誘をする際には師匠側が自分の竜種討伐数や兵階級などを掲示するのが礼儀である。
「ああ!そうだ、忘れてたね。すまないすまない...えっと、ファイザ、なんだっけ?」
「はい!ヒバナ様は、兵階級が現在最高位から二番目の【金剛】!現在の竜種総討伐数がなんと29999体、つまりこの猿を殺せば晴れて三万ーーーひぇっ」
ファイザに鋭い眼光を突き刺すガル。
すぐにヒバナの後ろに逃げて子犬のように震えた。
「【金剛】...!?」
兵階級は下から順に【鉄】、【銅】、【銀】、【金】、【白金】、【紅】、【橙】、【蒼】、【金剛】、【緋】が存在する。
兵士達が最終的に落ち着く兵階級は【白金】が最も多く、一般的に上級兵と呼ばれる最低ラインだ。
【紅】からは人間離れした戦士達しかおらず、【契約】と呼ばれる魔法のような力を持つ兵士が殆どだ。
【金剛】...この国全てを見ても両手で数えられる程しか居ない、正に神域の力を持った兵士。
流石に一瞬信じられなかったが、兵階級の詐称は処罰の対象だし、相棒を付けてまでいる人間が嘘なんて吐かないだろう。
実際、まるで雑草でも抜くみたいに木の根ごと引っこ抜く夜叉猿とかいうらしいアイツを一撃で沈めたし。断る理由がまるで無い。皆が羨ましがる程の幸運だ。
「是非、お願いしまーーー」
「ヤダ!!!」
ルーフが頭を下げようとした所を前に立ち、全力で首を横に振るガル。
「おまっ、余計な事言ってんじゃ...」
「ヤダヤダ!ヤダね!!」
全力で拒むガルに、目を点にしたようにヒバナが驚いた。
「うーん...それじゃ、後ろの君だけ弟子になる?」
「あ、はい!それでお願いしまーーー」
今度こそと手を綺麗に揃え、腰を90度に曲げて頭を下げようとしたルーフを突き飛ばして尚全力で拒絶するガル。
「それもヤダ!絶対ヤダ!!」
「なんなんだテメェはァ...!!」
突き飛ばされたお返しにとガルにタックルするルーフ。
「弟子になりてぇのかなりたくねぇのかどっちなんだよ!騎士になる為の圧倒的な近道だぞ!?断る理由がどこにあんだよ!?」
「...わかんねぇけどよ!コイツはさるぶっ飛ばしたし!【金剛】の弟子入りは...ズルだろ!」
何が不満なのか自分でもよく分からないまま暴れるガル。
「...プハッ!君達、面白いなぁ!...いいね、益々欲しくなってきた!...でも今日の所はまだ無理そうだから、ウザがられる前に潔く引いておこう!さ、ファイザ、一旦本部に戻ろうか」
「はい!ヒバナ様!...ほんとに、コイツらを...?」
「え...嫌ちょ、俺は弟子入りさせて欲しーーー」
ドンと地面を蹴る音がしたと思うと、風圧で目を閉じ、次に目を開けた時には抉れた地面だけを残し、目の前から消えていた。
「...ガルゥゥゥ!!!!!」
天を仰ぐ姿勢で絶望するルーフ。
「けっ...おい大丈夫だったか!さる!」
「...クゥン」
先程までの自由奔放な暴君のような様子とは一転し、すっかり大人しくなってしまった夜叉猿。
「お前そんな鳴き声だったか!?」
「...キャ」
決して負けた事に落ち込んでいる訳ではなく、友達を得る為になった群れの長という夜叉猿にとって既になんの意味もない余計な称号を受け取って貰えなかった事に落ち込んでいるのは、夜叉猿のみぞ知る。
「...ガル、お前そいつどうすんだ?そんなバケモン、まさか寮に連れて帰る訳にも行かねえし」
「んー、そうだなぁ...俺が森に住む...のは、ヤダしなぁ...」




