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 オズワルド視点




「は? いないとはどういうことだ?」


 俺はアリシアの叔父であるロバートに詰め寄った。


「で、ですから、私が気づいた時には、アリシアはすでに姿を消していまして……」


 姿を消した……? この男は何を言っているんだ……?


「アリシアの部屋へ案内しろ」

「お、お待ちください! あなた様はアリシアと婚約破棄なさったのでしょう? もうアリシアとは何の関わりもないではありませんか!」


 そう言ったロバートを睨みつけ、俺は声を荒げた。


「私はアリシアと婚約破棄などしていない!!」

「えぇっ!? そ、そんな馬鹿な。ア、アリシアが婚約破棄届にサインしろと申したのですよ!?」


 くそっ、時間がないというのに!!


「私は婚約解消も婚約破棄もしていないと言っている!! とにかくアリシアの部屋へ案内しろ!!」

「は、はいっ……!!」



 ピクスから戻った俺達はヘンリーに状況を報告した。ヘンリーは直ぐに国王陛下へ報告に向かった。

 その間に俺は一度家に戻ったのだが、家令から()()()婚約解消届を見せられ、慌ててヘルミット伯爵家に向かったのだ。


「ん?」


 案内するメイドは玄関ホールの中央階段を上ることなく奥へ進んだ。


「待て。私はアリシアの部屋へ案内しろと言ったはずだ」


 俺がそう言うと、メイドは声を震わせて答えた。


「ア、アリシアお嬢様のお部屋は……この先の北側でございます……」


 この先? アリシアの部屋は日当たりの良い二階の南側だったはずだ。アリシアの両親であるヘルミット伯爵夫妻が亡くなってから、茶会は我が家で行うようになったため、この屋敷を訪れるのは久しぶりだが、アリシアは別の部屋に移動したのだろうか? しかし、この屋敷の一階の北側は使用人部屋だ。


 嫌な予感がし、俺は足を速めた。



「これは一体……っ……!!」


 案内された部屋のドアを開けて、俺は愕然とした。


 何もない、狭い部屋……。硬そうな小さなベッド。使い古したテーブルと椅子。小さなクローゼット。


「いつからだ…………。 いつからアリシアはここを使っていたのだ!! ロバートを呼べ!! ここに!! 今すぐに!!」


 なんということだ!! この部屋を見れば、アリシアがこの家でどのような扱いを受けていたのかが一目瞭然だ。


 俺は馬鹿か!! なにをやっていたんだ。アリシアが苦しんでいたというに、全く気づくことができなかった。くそっ!!


「グレイヘイブン侯爵子息様、何事ですの?」


 趣味の悪いドレスを着て、似合わない宝石を数多く身につけた厚化粧の女がロバートとともに現れた。


「これは、どういうことだ? 何故アリシアはこんな部屋を使っている?」


 俺は目の前にいるクズどもを今すぐにでも殺してしまいたいという感情を必死に抑えながら、そう問うた。


「な、何故って……、アリシアが使用していた部屋は、ヘルミット伯爵家次期当主である息子が使用していますわ。それに、我が家のことは現当主のロバートが決めることですわ」

「次期当主である息子……? 現当主のロバート……?」


 こいつらは何を言っているんだ……!? 俺は沸き上がる怒りを抑えきれず、ロバートを蹴り倒し叫んだ。


「お前たちは何を勘違いしている!? ロバート、お前はヘルミット伯爵になったとでも思っているのか!! お前はただの平民で、ヘルミット伯爵家当主代理に過ぎないんだぞ!!」

「「えぇっ……!?」」


 やはり、そうだったか……。


 先程我が家の家令は俺に婚約解消届を突き付け、「これは本気なのですか!? 仮に本気だとしても、署名が当主代理ではなく当主と誤っており、このままでは受理されません!!」と言ったのだ。


「お前たちは平民の分際で、貴族であるアリシアを虐待していたということだな……? それからお前、その宝石やドレスはヘルミット伯爵家の財産を横領して買った物か? 厳罰を覚悟しろ」


 目の前の二人は顔を青ざめガタガタと震え出した。


「こいつらを捕らえろ。息子もだ。それから捜索隊を出せ!! アリシアを探すんだ!!」


 頼む!! アリシア。どうか無事でいてくれ!!






 俺は急いで家へ戻り、冷めた目を向ける家令に状況を説明した。


「何ですと!? アリシアお嬢様が行方不明ですと!? 至急対応いたします!!」

「頼んだぞ。それからヘンリーに書簡を届けてくれ」


 俺は単騎で市井へと向かった。アリシアならまず王都を離れるのではないかと考えたからだ。しかし、アリシアはヘルミット伯爵家の馬車は使っていなかった。だとすれば、辻馬車に乗るはずだ。


 辻馬車の始発駅には数台の馬車が停まっていた。アリシアに関する何かしらの情報が得られるかもしれないと考え、手当たり次第に御者に尋ねてみたのだが、そう簡単にアリシアだと思われる情報を得ることはできなかった。


 くそっ……! そううまくはいかないと思ってはいたが……!!


 そこへ一台の辻馬車が戻ってきた。俺は最後の希望を託す思いで、その御者に尋ねた。


「ああ、もしかして濃紺の髪に黒い瞳の嬢ちゃんか? いいところのお嬢ちゃんだろうに訳ありのようだったからな、覚えてるぜ。最終のノールまで行ったよ」


 ノール!! ピクスの隣の小さな港町だ!!


「ただな、あそこは危ない連中が集まっているって話だ。何も起こらなきゃいいんだがな……」


 ——恐怖と怒りに身体が震え出した。


 大丈夫だ、アリシア!! 必ず、絶対に連れ戻してみせる……!!






「あれっ? オズ、すぐには戻れないんじゃなかったのか?」

「ヘンリー!! 早急にノールへ向かわせてくれ!!」

「ノール? ピクスではなく?」

「ああ。あと、高速船が必要だ!!」


 俺は再び登城し、ヘンリーに状況を説明した。アリシアがノールへ向かったこと。御者から聞いたノールの港の話。そしてピクスで浮上した疑惑。


 それらを照らし合わせれば、自ずと答えは導き出される。


 十中八九、人身売買は行われている。ピクスとノールの町境の森では若い娘が攫われ、犯罪組織はノールの港から出港している。宰相の関与についてはまだ不明だが……。


「陛下に非公式の緊急書簡をご用意いただこう。ウィルとアルは同行の準備をしろ。カインは外交大臣へ連絡。ユリウスは俺とともに来い」

「「「「はっ!」」」」







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