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英雄遺産のエーヴィッヒ  作者: 大浣熊猫
老いた勇者の幕は下り
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家族 第五話

 彼の視線の先で、若いウェイトレスが崩れるように膝を突いていた。顔を天井に向けてふらふらと揺れた後、ゆっくりと前のめりに倒れていった。


 静かに煙を真っ直ぐ上らせている狂った銃口は、フェリシアンではなくその後ろにいたウェイトレスに向いていたのだ。


 フェリシアンはアナンヤを突き飛ばして傍にいた老人にドナシアンを預けるとウェイトレスに駆け寄り「大丈夫か、大丈夫か」と必死に声をかけた。

 ウェイトレスの右脇腹の辺りに赤黒いシミが現れ、それはじわりじわりと広がっていき、抱きかかえるフェリシアンの掌が生暖かくなると床にポタポタと赤い点が出来ていった。

 ウェイトレスは何が起こったか分からないのか、はふはふと乱れた息をしながら驚いたように目を開きフェリシアンを見つめていた。

 震えた手で自分の右脇腹を触り、その掌が真っ赤になるのを見ると、目に涙を浮かべ始めた。


「死にたくない、死にたくないよ」と言う彼女を強く抱きしめ、額に額を付けて目をつぶった。


 何でこんなことになった。何でだ。

 姉が良く分からない男を連れてきたからか。その男が警察を呼んだからか。

 何でこの子が代わりに撃たれなきゃいけないんだ。撃つなら僕のハズだけだ。痛い思いをするのは僕だけのハズだ。

 何でだ。何でだ。何でだ。何で何で何で何で何で何でなんでなんでなんで。

 僕が弱いからだ。僕が、弱いからだ。僕は、弱い。


「あーあ、仕方ないわね」とアナンヤは諦めたように首を回した。


「急所に当たったから、その子、もう無理ね。ま、罰が当たったのよ。

 ドメニコ、この家と土地もう売りましょ。アタシ、人が死んだ家なんか住みたくない。

 ちょっとフェリシアン! その女の血、垂らさないで! これ以上価値下げないでよ!

 最近土地の値段上がってるし、もう少ししてから売ったほうがいいけど、誰か死んだなんて噂広がったら値段下げられちゃうわ。

 話が大きくなる前に都市の不動産屋に売っちゃって、都市部にタワマンのペントハウス買いましょ」


 と、ドナシアンを抱きかかえたまま目の前の光景に驚き硬直している老人に近づいて行った。

 一度立ち止まりドナシアンを見下ろすと「だいたいアンタが全部悪いのよ。家族なんだから、困ったときくらい助け合うのは普通でしょ」と吐き捨てるように言った。


 フェリシアンの頭の中で何かが崩れる音がした。

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