家族 第二話
この男はアナンヤの新しい男だ。名前はドメニコーニという。
フェリシアンは言うまでもなくこの男とは初対面だ。今フェリシアンがおんぶしているドナシアンとは、顔も髪も目の色も似ても似つかない。
名前など知りもしない。だが、一つだけ分かることがあった。それは姉が連れてきた新しい男だと言うことだ。
フェリシアンは毎度の絶望に包まれ、全身から力が抜けるのを感じた。
この絶望感を味わうのは四ヶ月ぶりだ。このとき味わうそれはまるで底無し沼に落とされているような感覚だった。
以前の十年ぶりと比較すれば短期間だが、この四ヶ月がとても満たされていたので落差は比較にならないほどだったのだ。
全身から冷や汗が吹き出し、歩くこともままならないほどに力がなくなっていた。このまま膝から崩れ落ちてしまいそうになったが、背中にいるドナシアンのことを思い踏ん張り続けた。
「そんな弟……。嘘だろう……? アナンヤさんにそんな弟がいたなんて、信じられない。姉はこんなにステキで立派な人だというのに……」とドメニコーニは哀れむような顔でフェリシアンを見つめた。
「アタシのコト、嫌いになった? だから、弟なんか紹介したくなかったのよ。無職で仕事する気もないような弟、同じ血が流れてるだけで恥ずかしくなるわ」
「いいや、オレはアナンヤさんが大事だ。恥ずかしくなる気持ちは理解出来るよ。オレもそんな程度の弟がいたら恥ずかしくなるさ。
それにしてもアナンヤさんはやっぱりやさしい人だなぁ。オレなら出来ない! 素晴らしい人だ」
「ありがとう、ドメニコ。でも、ちょっと甘やかしすぎたみたいね。アタシ、考え方を改めることにするわ。人のお金でこんなワケのわかんない下品な女と薄汚い年寄りまでたくさん家に連れ込んで」
「そういえば、この汚い連中は何なんだ……。年寄りばかり。臭い。ここは老人ホームではないぞ!
さては、みんなアナンヤさんの資産目当てか? アナンヤさんに直接強請れないから弱者の弟を利用しようとしているのか。世界は」
ドメニコーニは目をつぶり悔しそうな顔で間を開けると「本当に醜いな」と拳を振るわせた。
「フェリシアン、さぁ出て行きなさい。アタシの家から。もうこんなだらしない生活させないわよ」
アナンヤがフェリシアンに近づいてくると「はい、回収」といって赤ん坊を取り上げようと手を伸ばしてきた。
フェリシアンのは渡すまいと覆い被さるようになり強く抱きかかえたが、アナンヤは伸ばしてきた手の爪を立てフェリシアンの腕に食い込ませるようにした。
フェリシアンに痛みはないが、子どもが奪われるかも知れない苦痛という心の痛みで顔を歪ませた。赤ん坊は育ての親が苦しんでいるのを見ると大声で泣き出した。




