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英雄遺産のエーヴィッヒ  作者: 大浣熊猫
三度過ぎ往くツワンツィヒ
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法律は誰かを不幸にする為ならず、皆を幸福にする為にある 第四話

「あなたのアリバイだけが無いんですよ」


 初老のやさしい刑事は視線だけをフェリシアンに向けた。


「……そろそろどうですかね? 本当のことを言ってしまうほうが楽だとは思うのですが? あ、やや、しかしこれは失礼した。だいぶ手が出てしまったようで。彼は少々正義感が強い刑事でしてね」


 やさしい刑事は、壁に寄りかかっているもう一人の悪い刑事の方を見た。

 眉間に皺を寄せてタバコを吹かし、刺すような眼差しでフェリシアンを見下ろし「腐ってやがるな、社会のクズが……」と煙をフェリシアンの方へ吹きかけた。

 だが、煙は届かず、やさしい刑事の方へ流れた。


「こらこら、おやめなさい」とやさしい刑事は悪い刑事を窘めた。フェリシアンの肩に大きな掌を載せると、


「私もね、と言っても結構前なんだけど、あなたと同じアーンストートの卒業生なのですよ。あまり後輩をいびりたくないのですがね。人の親でもあるので、後輩のために保護者会も作った世代でもあるのだからなぁ」


 とやさしく語りかけた。


「なんで、なんで僕がポリーを殺さなきゃならないんだ!」


 フェリシアンが怒鳴り返すと、やさしい刑事は鼻から息を吐き出して肩をすくめた。


 ポリー・アルフォードは何者かによって殺害された。

 殺害されたという結論に至ったのは捜査の結果だ。

 海沿いの崖から突き落とされ、運悪く海面ではなく岩場に落ちて頭を強打して亡くなったようだった。下腹部の損壊も著しく、強姦をされた可能性もあった。

 自殺も考えられたが、ドナシアン・ガリマールの莫大な遺産を相続しようという時期に自ら命を絶つというのは考えられないそうだ。

 裁判も流れが変わり有利に進められていたので、精神的に追い込まれるというのもなく、実際に落ち込んだ様子を見た者はいなかったそうだ。


「ドナシアン氏は血の繋がった孫であるあなたではなく、殺害されたアルフォードさんに遺産を全て相続するように遺言を残していた。

 家族でも無い家政婦の女などに渡すのはおかしい。本来なら傍にいた家族である自分が相続すべき、そう思ったのではないですか?

 こんなこと、私なら、私でさえもおかしいとはどこかで思いますよ」


「そんなこと考えていません! 僕はポリーと一緒になるはずだったんだ。使い道だってほとんどが寄付する予定だったんだ」


「お母さんとお姉さんの証言もあるのです。

 最近フェルの様子がおかしかった、生前にお爺ちゃんに対して当たりが異様に強かったとか、家族に対して裁判を起こすなど絶対に何処かおかしい、常々心配していた、とね。

 事件後におたくを覗ったら口を揃えて、ああ、やっぱり、と嘆いていましたよ」


「そんなはずない! 二人がお爺ちゃんに会いに来たのは、お爺ちゃんが亡くなってからだ! それまで僕でさえ数年会っていない! それに訴えたのは僕ではありません! その母と姉です!」


 やさしい刑事はフェリシアンを無視した。机にゆっくりと腰掛けて置いてあったファイルを開いた。

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