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英雄遺産のエーヴィッヒ  作者: 大浣熊猫
三度過ぎ往くツワンツィヒ
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法律は誰かを不幸にする為ならず、皆を幸福にする為にある 第二話

 その情報というのは、フォン・バイクがフェリシアンの側に本格的につくというもので、カプスチン家だけではなくそれを取り巻く強力な弁護士たち――それも遺産訴訟におけるスペシャリストたちを付けるかも知れないと言うものだった。

 リストもリークされており、そこには法曹界にいなくとも誰もが一度は名前を聞いたことがあるような者たちが軒を連ねていたのだ。


 弁護団からの一斉大量離脱によって立場は一瞬にして逆転し、以降はアルノリトが有利に訴訟を進めていった。


 するとコレットとアナンヤはフェリシアンとアルフォードに接触を試みてきた。

 海辺の街にいるタイミングを見計らい、あえて人通りの多いところでフェリシアンにすがりつきおんおんと大声で泣き出したり、フェリシアンとアルフォードの家に手料理を持っていったりし始めた。

 フェリシアンとアルフォードが困り果てた末にアリアルトに相談したところ、近づかないように手を回した。


 今度は辣腕弁護団たちを介して、要約すると「親子で裁判をするなどあまりにも愛がないと思わないだろうか」という内容になる長い書面を送ってきた。

 さらに、遺産の四分の三を渡すことを条件に訴訟を取り下げる和解案を提案してきた。


 これは和解とは言えないとアリアルトは即日一蹴した。だが、フェリシアンは身重のアルフォードに負担をかけたくないので争いはもう終わらせても良いのではないかと思い始めていた。

 すると、それまで沈黙していたアリスタルフ・カプスチンが突然フェリシアンの前に現れると、「もはや負けることはない。それどころか和解案をのめば敗北したも同然」と煽った。

 追い打ちをかけるように「負けずとも退いてしまえば、『良くない判例』を作りだし遺言書の法的な効力が弱まる可能性がある。法律とは、誰かを咎めたり犯罪者にしたりするためのものではなく、皆を幸せにするためにあるもの。法曹界の今後の秩序のためにも、是非」と頭を下げたのだ。

 フェリシアンとアルフォードはドナシアンの盟友アリスタルフに頭を下げられてはもう引っ込みが付かなくなり、和解案を却下した。


 フォン・バイクがフェリシアン側に付くという話は日に日に現実味を帯びていた。

 フォン・バイクが裁判所に出入りしているのを見たとか、アーンストート学園の理事長室に弁護士たちを集めているのを子どもの同級生が目撃したとか、学校に来た弁護士に理事長室の場所を訪ねられた同級生がいるというような、妙な噂も流れ始めた。

 裁判について尋ねられたときには「ああ、やっているみたいですね」と他人事のように言いつつも「フェリシアンくんは昔から私の大事な生徒の一人ですよ。困っていたら手を差し伸べます」と曖昧かつ匂わせるような回答をしていた。

 だが、結局最後まで表に出てくることは無かった。弁護団も結成されることは無かった。


 アリアルトは潮目が変わったことで自信を取り戻し、さらに回を重ねるごとに手際が良くなっていった。

 さすがカプスチンの一族と褒められるほどになっていた。若手であることも大きく評価され、カプスチン家の株はさらに上がった。

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