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英雄遺産のエーヴィッヒ  作者: 大浣熊猫
三度過ぎ往くツワンツィヒ
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勇者の遺産 第二話

「何ですか?」とアルテナイが止まり、二人を見た。


「あ、いえ」と二人は身体を引っ込めた。するとアルテナイは遺言を再び読み始めた。


『ポリー・アルフォード。十歳というまだあどけなさのまっただ中の頃から長い年月、その青春を賭してまで私の使用人として懸命に働いたことに報いる義務が私にはある。……』


 その後も読み続けたが、二人は頭に内容がまったく入らなかった。

 フェリシアンもアルフォードもあの老人は一体何を考えていたのだろうと、混乱していたのだ。

 最初の一行以外はほぼ全てが過去携わってきた者たち、アリスタルフ、ガリバルディ、フォン・バイクなどへの感謝や亡きスジャータへの思いを綴った手紙だった。


 アルテナイは読むのを突然止めて二人の方へ向き直った。


「ここまでが一つ前の遺言書です。ついこの間、新たに遺言を託されました。今お伝えしました一つ前の内容に加えるように仰せ付かっておりました」


 咳払いをして気を取り直すと続きを読み上げ始めた。


『私はフェリシアンとポリー・アルフォードの結婚を認めている。

 聞かされたときは嬉しさのあまり頭に血が上り、図らずも強い言葉をぶつけてしまった。さらに嬉しかったのは、フェリシアンは私に強く言い返してくれたことだ。

 あれで私は安心できた。できてしまったのだ。

 もちろん、思い残すことは山のようにある。息子のように可愛がったフェリシアンが、あの気の弱いフェリシアンが大人になり、ついに子どもが生まれて家族が出来るのだ。

 生まれてくるひ孫をこの細く衰えていく腕で抱きしめて、その玉のような笑顔も見てみたいものだが、安心して心が夕凪を迎えた海のように穏やかになってしまった私にはもはや不可能だろう。

 産まれてきた子どもに「お前のひいお爺さんはむかしむかし大昔英雄だった」と語り継げる話の種を残せたことについて、かつての私に感謝したい。

 そして、おめでとう。フェリシアン。ポリー。出来ればフェリシアンにポリーを幸せにして貰いたいものだが、私の残した全てで二人で幸せになりなさい。

 まったく、やれやれ、最後まで世話のかかる孫だ。可愛い可愛い、私の孫フェリシアンめ。あまり早くこちらに来るのではないぞ。スジャータとのんびり過ごして、私がそれに飽きた頃にでも来ておくれ。

ドナシアン・ガリマール』


「それはいつ追加されたのですか?」とフェリシアンが尋ねると、「亡くなる二週間前ですね。夜に突然来てくれと言われまして。遺言書ですので、私も急いで行きました」とアルテナイは答えた。

 本当に亡くなる直前に足されたもの、フェリシアンがドナシアンと喧嘩をした日の夜に書き足されたものだったのだ。


「そうですか。ありがとうございます」とフェリシアンは掠れた声で礼を言った。溢れ出る涙で視界が見えなくなっていた。堪えようとした涙は溢れ、膝の上の手の甲にぽたぽたと模様を付けた。


「お爺ちゃん、ごめんなさい……。僕は一生懸命に働いてアルフォードさん、ポリーを絶対幸せにするよ。お金はあっても、しっかり働いて、普通の幸せをポリーに」


 フェリシアンはポリーと共に嗚咽を上げた。アルテナイは何も言わずに、二人が落ち着くのを長く待った。


 それから遺産の管理について話合いがもたれた。

 ポリーは受け継いだ遺産をドナシアンが暮らしていた老人ホームへの最後の費用の支払いと謝礼という形での寄付と、自身の母が難病であったため病気の研究治療に役立てて欲しいとフォン・バイク財閥の医科学魔術研究所に寄付をすると決めた。

 フォン・バイク財閥からすればドナシアンの資産がどれほどあったとしても他愛ない金額であるというのも分かっていたが、ポリーは信頼できる財閥関係であるからこそ安心して寄付をし、フェリシアンはフォン・バイクに恩を返したいと思っていたので同意した。

 残りは手を付けずにこれから生まれるフェリシアンとの子どものために使うことにした。


 相続についての話は揉めることなくすぐに終わり、続いて執り行われた葬儀には、フェリシアンとアルフォードの他に、ガリバルディの一族、カプスチンの一族、フォン・バイクだけが参列した。小規模なのはドナシアン本人の希望だ。


 しかし、問題は起きた。

 ロセッティがフェリシアンに面会を求めて乱入してきたが、ガリバルディによって呼ばれた警備員に取り押さえられた。

 フェリシアンは一文も受け継いでいないと知ると、ドナシアンの棺桶を蹴って帰っていった。

 それはささやかな乱入者という程度の問題に過ぎなかったが、それ以上の問題が起きたのだ。


 これまで一切の音沙汰が無かった二人が突然しめやかな告別式の場に現れたのだ。

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