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英雄遺産のエーヴィッヒ  作者: 大浣熊猫
三度過ぎ往くツワンツィヒ
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過ぎ往く者 第五話

 それからドナシアンは日に日に衰弱していった。


 わずか一週間ほどで突然足腰は弱まって歩けなくなり、寝たきりになり、やがて意思疎通もままならなくなった。

 かつて勇者だったこともあり年の割に体つきはしっかりしていたが、みるみるうちに年相応の見た目の弱々しい老人のように腕も足も細くなっていった。

 フェリシアンは何度も後悔した。自分があのようなことを言ってしまったからドナシアンは弱ってしまったのだと。

 まだ意識はあったが、もう遠くへ行っているように反応が薄いのだ。

 謝罪の言葉はいくら言っても届かない。自分が社会に向けて再び足を踏み出そうとしている報告も届かない。

 このまま永遠に自分を守り続けてくれた存在に対して謝罪も感謝も出来なくなったのだ。


 それから程なくして、ドナシアンは静かに息を引き取った。

 枯れ枝のようになった腕や足は縮こまり、うずくまるような姿勢で硬くなっていった。特に目立った疾患が無かったドナシアンの死因は老衰だった。


『かつて戦いの時代を生きた英雄がこうして老衰で死んでいくのは決して恥などではなく、世が平和になったと言うことの証だ。時代を築くための、さらに下。礎ではなく岩盤を築いた英雄の死を悼む。』


 ドナシアン・ガリマールの死は大きく報じることを本人が望まなかったために地方紙の小さな片隅にそう書き込まれただけだった。


 深夜に訪れた葬儀屋がドナシアンの遺体を引き取っていった後、主を失った老人ホームの部屋のベランダからフェリシアンとアルフォードは並んで朝焼けの海を見ていた。

 春も深まっていたがまだ冷たい海風がふきだすと、やがてウミネコたちが飛び始めた。雲一つ無いピンクと青の空の間にいくつかの影を作っていた。


 それを見ていたアルフォードは突然「よし」と頷いた。そして、「フェルくん、頑張ろう!」と胸の前で両手の拳を握った。


「ポリーは強いね」


 フェリシアンは自分より身体の小さな彼女の方が心は何倍も強いことなど知っていた。


「まずはドナシアンさんのお葬式とか、その辺きっちり終わらせようね! 私、実は結構貯金してたんだよ!」


 アルフォードはフェリシアンが自分よりも身体が大きくても弱いことを知っていた。

 だが、フェリシアンはアルフォードの肩を抱き寄せた。アルフォードは黙り込み、フェリシアンの胸の中に潜り込んだ。そして、声を殺して二人で泣いた。

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