修羅と金糞 第八話
「起きろ、フェルシアン」
頭からバケツに入った水をかけられ、突然の冷水に身体がビクつきフェリシアンは意識を取り戻した。
服に染みこむ水の冷たさと顔についた水滴の不快感を避けようとして腕を動かそうとしたが、背後で縛られていた。
フェリシアンがゆっくりと目を開けると、彼の目には目の前で仁王立ちするロセッティの姿が映った。窓の無い木造の部屋の真ん中に置かれた木製の椅子に腕を縛り付けられていた。
「やっと起きたな。お義兄さんもこんなことはしたくないんだけどさ。なんでこうなったか、分かるよね?」
ロセッティはボロボロの木製の机に寄りかかり、手の中で弄っているナイフの刃を光らせながら言った。身体が動くと部屋の中に置かれたたった一つの灯りであるろうそくが揺れた。
フェリシアンはあっさりとロセッティに拉致されたのだ。身体が頑丈な分、警戒心が弱いのだ。
「フェルシアン、悪いのは君なんだよ。君が素直にサインを書かなかったのが悪いんだ。書いてくれれば悪いようにはしなかったというのに。でも、書かなかったから……おっと、口にするのも恐ろしい」
一つだけある入り口のドアが開くと、チンピラのような派手なシャツを着た男が布の塊を台車に乗せて運んできた。
「センパイ、助けてくださいッス!」
布の下からくぐもった声が聞こえた。そこには先ほどまで並んで歩いていた後輩がいたのだ。
「確かに君は約束を守らなかった。とてもとても、悪いことをしてぼくを傷つけた。その償いをしなければいけない。
でもね、別に君が、君がね? 償う必要があるのは君自身かと言えば、そういうワケでも無いんだよ。
でも、してしまった悪いことは誰かが絶対に償わなきゃいけないんだ。償いって言うのは、自発的なものでなきゃ償いとは言わない。そして、それには色んな形もある。
でも、どれを選ぶかは傷ついてしまったぼくに権利があるんだ。
色々考えたよ。どうやって君に反省して貰うか……。これは本当にとてもよく悩んだ。まったく、お義兄さんをあまり困らせないでおくれよ。
お義兄さんはね、君の身体が強いのはお姉さんからよく聞いているよ。生半可なことじゃ傷つかないってね。
フェルシアンくん、知っているかい? 心の反省は痛みでしか出来ないんだよ。君の心を痛めつけるには、これしかなかったんだ」
ロセッティが布を取ると、やはり椅子に縛り付けられた後輩がいた。
既に何度も殴られているようで、顔は青く腫れていて前歯も折られていた。どれほどの暴力を受けたのか、腫れた顔の隙間に僅かに見えていた目から大粒の涙を流していた。
ロセッティはすでにボロボロの後輩の顔を容赦なく思い切り殴った。鈍い音と後輩の苦しい声にろうそくの灯が揺れた。飛び散った血がフェリシアンの顔に点々と付いた。
フェリシアンは動揺し「やめろ、やめてくれ」とロセッティに懇願した。
「何でもするから、そいつは関係ないから、何もしないでくれ! 頼む!」




