アーンストートの学び舎で 第十四話
フェリシアンはどれほど学校に近づかなくとも退学にはならなかった。不登校でも通っていることになっていた。学校としては、授業料さえ払えば出席しようがしまいが文句は言わないのだ。
一方、アルノリト・カプスチンは二年生の夏に学校をひっそりと辞めていた。辞めたというのは表向きの発表であり、実際にはアルノリトは死んだのだ。
学校の体育館の裏でこっそり行っていたカルトの儀式の最中に魔法が跳ね返り、着ていたローブに燃え移ってしまった。カルトの他の信者たちはそれを消そうとはしなかった。
魔王の教義たる悪の所業を成すために、他人の救済はしないということだ。実際にはアルノリトの自身の魔法が強すぎて、その場にいた誰の手にも負えなかったのだ。
たった一人、同じ英雄の孫のフェリシアンならアルノリトの魔法を消せたかも知れない。しかし、残念なことにフェリシアンは学校にはいなかった。
アルノリトは死んでいくまで何度も「フェル、助けてくれ、今まですまなかった、だから助けてくれ」と叫び続けていたそうだ。
学内にあったその魔王教カルトの小さなサークルはテロなど破壊的なことは一切しなかったと言うのにもかかわらずその日で解散を命令され、サークルにいた他の生徒たちは数週間にわたる停学を受けた後、名実共に退学よりも重たい放校処分となった。
停学で済むと思っていた本人たちにとって放校処分は寝耳に水だった。
アーンストート学園の場合、放校処分が退学より重大であるというのは名門校であるが故に世間から認知されており、もはやほとんど前科に等しいものだ。
卒業生保護者会は学園側に自主退学の扱いにすべきと異議申し立てをして食って掛かったが、卒業生保護者会幹部がアルノリトの事実を知るとさすがに口を閉ざした。
それで話は沈静化すると思われたが、卒業生保護者会の別の幹部であり、放校処分を受けた生徒の保護者でもあった者は怒りの矛先を見つけられず、助けなかったフェリシアンの責任問題を提議した。
だが、フェリシアン本人の姿がどこにもないので相手にされることなく、いつの間にか話されなくなっていった。
戦いの時代以降、政治家や法律家として社会に名を馳せていたカプスチン家の子どもたちは三人兄妹だったが、いつの間にか二人兄妹となっていた。
家の名前に傷が付くのを恐れて、次男坊のアルノリトの存在を無かったことにしたのだ。
学園はアルノリトの死亡を公表しなかったものの、どれほど小さくとも魔王教カルトのサークル活動を禁止した。
フェリシアンがアルノリトが学校を辞めていたという事実を知らされたのは、卒業してしばらく経ってからだった。
あくまで死んだのではなく、辞めてどこかへ行ってしまったという形で伝えられた。
フェリシアンはそれを聞いたときに少しだけ残念がった一方で、いじめていた者が退学になったことをざまあみろとも思った。
アルノリトは友情の歪みから相手に恨まれ、それを正すことは永遠に出来ないという後悔に沈みながら死んでいった。
フェリシアンは、やさしいと自称する大人たちによってアルノリトの死に際の嘆きと懺悔から遠ざけられ、永遠に許すことが出来なくなった。




