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英雄遺産のエーヴィッヒ  作者: 大浣熊猫
三度過ぎ往くツワンツィヒ
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アーンストートの学び舎で 第十三話

「お爺ちゃん、学校楽しいよ。やっぱり行けてよかった。ありがとう」


 フェリシアンはドナシアンに精一杯の感謝を告げて、その日は学校へ向かった。


 フェリシアンは無事に復学できた。

 しかし、どこから漏れたのか、フェリシアンが数日間学校にいなかった理由は授業料が払えなくなっていたからというのは広まっていた。

 それによりアルノリトはフェリシアンを人前で見せびらかすようにいびるようになり、いじめはアルノリトやただのチンピラもどきからだけではなく、一般生徒からもされるようになり、日を追うごとに酷くなっていった。

 学校に居場所は無くなり、やがて彼は不登校となっていった。


 アーンストート学園の教員がいじめに対して対応しなかったのは、フェリシアンの学年主任に問題があったからだ。

 フェリシアンのクラスの学年主任の男はあと三年で定年退職だった。だが、自分が学校にいる間に問題が起きれば退職金が減らされるので、生徒への聞き取りを繰り返したがいじめは確認されなかったと言い続けていたのだ。


 フェリシアンは不登校であることをドナシアンに相談しなかった。出来なかった。

 高額な授業料を払い復学までさせてくれたというのに、いじめられていかなくなりましたなどと相談できるわけもなかった。

 その日も学校には向かわず、魔導列車に乗りアーンストート学園を通り過ぎた。学園の駅を出るとき、フェリシアンは窓の外を見ることは無かった。

 申し訳なさ、いたたまれなさなどは彼の心の中から既に無くなっており、通り過ぎていく無関心な通過駅の一つになっていた。

 何駅か先にある山の上にある駅で降り、ぼんやり景色を見て一日を過ごそうとしていた。


 不登校を隠して学校に通うふりをして出かけ、何処かを散策して、一日が終われば海辺の街に帰る日々を過ごしていたが、フェリシアンはドナシアンに学校生活が楽しくて仕方がないように振る舞い続けていた。


 しかし、ドナシアンは全て知っていた。


「フェリシアンくん、学校行ってないみたいですね」


 アルフォードはフェリシアンの小さな背中を見送り、玄関のドアが完全に閉まり静まりかえってからドナシアンにそう言った。


 ドナシアンは深いため息のあと「仕方なかろう。いじめられているそうだからな」と顎をさすった。


「何かしてあげられないでしょうか」


「全て、この老人が悪いのだよ。勇者の孫という、扱いづらい存在なのだ」


「カプスチンさまのお孫さんのアルノリトくんが同級生で、いじめているという話ですが」


「かつて仲間だったアリスタルフ・カプスチンは素直なやつではなかった。

 その孫のアルノリトも素直ではないのだろうな。おそらくだが、彼はフェリシアンに本気になって欲しいだけなのだ。

 昔はよく遊んでいて、フェリシアンはアルノリトを負かしていた。それが懐かしいのだろう。

 自分を負かしてきたヤツをいじめるのはやり返したいからではない。負かしていたヤツがあんな程度なヤツだなんて思いたくないのだよ」


 それは半分事実であり、もう半分は残念なことに老人の思い込みだった。半分の事実でさえも、フェリシアンにとっては授業料で困る以前の話だ。

 ドナシアンの頭の中にある時計は、フェリシアンのものよりも何倍もゆっくり進んでいる。


「老いた私に出来るのは、今となってはフェリシアンが不登校でも卒業できるようにすることだけだ。

 学歴さえ付いていれば、どこかで拾ってくれるだろう。

 権力や立場を振りかざす、というのは勇者のすることではないと思うかね、アルフォードさん?」


「戦いの時代には武力を振るったことで世界を守り、平和な時代には権力で争いごとから世界を守る。

 力なら同じといえばそうかもしれませんね。ですが、私は何も言えません。ガリマールさんは優しいお爺ちゃんですね、としか言えませんよ。なんせ、ただのお世話係ですから。

 フェリシアンくんはとても良い子です。私もそれを分かっていますよ」

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