アーンストートの学び舎で 第十話
しかし、実際には止める者は一人でもいるのだ。
「退学、といって安易にあなたを追い出したくないのです。
万が一のことも考えて、こちらも色々考えて、昨日君が慌てて帰ってしまったあとに学園の学習指導執行部に相談しました。
そこで休学という形であなたの席を残しておこうという結論に至りました。もれなく、全会一致で、です。
私たちは平等平等と言っておきながら、ここが名門校であること、名門校というエリートたちの通り道の一つになってしまったこと、そして名門校が名門校であるために生徒の質も維持しなければいけません。
ドナシアン・ガリマールという世界に今尚続く長い平和をもたらした勇者の孫というネームバリューは、学校にとってもメリットがあるのです。
極めてビジネス的に聞こえるでしょうね。嫌かも知れませんが、この措置はまずあなたへの救済策が先行して進められた話なのです。
特別扱いを特別扱いではなくするために、尚且つ卒業生保護者会の顔も覗いながら出来る限りドライに、ビジネスライクに落とし込んだ結果です。
授業料が払えれば復学をすぐに出来るようにしてあります」
「あ、ありがとう、ございます。ありがとうございます。ごめんなさい。ごめんなさい」
通いたくない。だが、通わなければいけない。相反する思考が入り乱れていたが、通わなくていいが退学でもないという、最大級の逃げの選択肢を選ぶことを許されたのだ。
フェリシアンの中にはある種の解放の喜びが広がり、自然と涙が溢れてきた。何度も何度もフォン・バイクに頭を下げた。
「フェリシアンくん、私たちはいつでも待っていますよ。とにかく、今日は帰りなさい。色々と疲れたでしょう。風呂に入り着替えて、ゆっくり休んで授業料については明日の朝から考えなさい」
「でも、バイクさん、僕は――」とフェリシアンは泣くのをやめると顔を上げた。
「いったい、いったい何処へ帰れば良いのですかね?」
フェリシアンは、目にはいるもの全てが辛くさせてくるあのカフェのある実家にもいたくなかったのだ。フォン・バイクはそれをすぐに分かった。
「ドナシアンさんのところはダメなのですか?」
フォン・バイクは咄嗟に言ってからそれが少しばかり無責任な勧めだと言うことに気がついたが、フェリシアンは頷くだけだった。
フォン・バイクにそう言って貰いたかったのかも知れないと言うことにも気がついた。
ドナシアンのところに行っても、泊めては貰えないだろう。だが、他に行く当てもないので行くことにしたのだ。
フォン・バイクはフェリシアンが理事長室から出た後、少し悩んだが受話器を持ち上げた。




