アーンストートの学び舎で 第六話
「やっているようだね、アルノリトくん」
突然背後から名前を呼ばれたアルノリトは少し慌てるように本を閉じて右手の魔方陣を消した。
「魔法の調子はどうですか? 魔法は便利なモノだから、どんどん使えるようになるといいですね」
チッと舌打ちをすると本を制服の胸ポケットにしまい込み、魔法の残した火の粉と共にどこかへ行ってしまった。
フェリシアンはゲホゲホと咳をしながら立ち上がり「フォン・バイクさん、ありがとうございます」と埃を払って姿勢を正した。
「フェリシアンくん、ちょうど君を理事長室に呼ぼうと思っていたのですが、ここで会ったのでせっかくですし。少しよろしいですか?」
「何か御用ですか?」
視線を左右に動かして辺りを見回すような仕草を見せた。小さく手招きをすると、壁の影にフェルシアンを引き入れた。
そして、「授業料が振り込まれていないのですが……」と耳打ちをした。
「どういうことですか? この間、僕はお爺ちゃんから振り込ませるって聞いたのですが」
「仰るとおり、お爺さまのドナシアンさんからコレットさんに一週間以内に大至急振り込ませると私の方にも連絡があったのですが、かれこれ一ヶ月経ってもまだ振り込まれていないんですよ。
それで、君の方に直接確認に……」
フェリシアンは顔を青ざめさせた。
あの日から何度かドナシアンとも顔を合わせていた。母親コレットは会う機会が少ないが、いつも通りの生活をしていたので授業料は振り込んでくれていたと思い込んでいた。
だが、自分のお金を無心する事を考えた途端、まさかまさかと脇の下が冷たくなるのを感じていた。
「フォン・バイクさん、今日は早退します。それで家に帰って母に授業料について尋ねてきます」
フェリシアンが踵返して家に戻ろうとしたので、フォン・バイクは「待ちなさい!」と彼の上着を掴もうとしたが、前のめりになっている彼には手が届かなかった。
「授業料の件は明日でいいですよ! 授業はキチンと受けて帰りなさ……」
背中に向けて大きな声で呼び止めたが届かなかった。一目散に駆けていくフェリシアンの背中を見ながら「ああ、行ってしまいましたね」と呟いた。
柱の陰から黒いスーツを着て丸眼鏡を掛けている秘書が遅れて現れると「当主さま、よろしいのですか? 連れ戻しましょうか?」と横に並び小さくなっていくフェリシアンの方を見た。




