アーンストートの学び舎で 第五話
「何者にもなろうとしない、ただノンノンと平凡に生きようとしているお前なんかと、平凡に生きることも難しいようなお前なんかと、勇者の孫のクセに力を奮わないお前なんかと一緒にするな!」
彼が祖父アリスタルフを心の底から尊敬しているのは紛れもない事実であり、フェリシアンが祖父ドナシアンを尊敬しているということも昔から知っているからだ。
「学校の学食がただでよかったな。お前、やたら昼メシ多く食べてるのは、アレだろう? 家じゃ夕食食えないからだろう?」
怒りにかられたアルノリトはフェリシアンにより突き刺さる言葉を的確に選んだ。
フェリシアンの家から漂う異常さ、祖父のドナシアンは財を築いていると言うのにもかかわらず、フェリシアンが家ではしっかりとした食事にありつけていないという事実をぶちまけたのだ。
アルノリトが言った通り、フェリシアンは家では夕食を食べられない。夕食が食べたければドナシアンのところに行くしかないのだ。
それも毎日と言うわけにはいかず、若い身体にとっては長い空腹な夜を乗り越えるために、学食で満たす以上に食べなければいけないのだ。
「ボクはな、大爺様に色々魔法を教えて貰ってるんだ。
お前、実験台になれよ。ドナシアンの孫なんだろ? 簡単に死なないだろ! 家に来いよ!
飯ぐらい好きなだけ食わせてやるから実験台になれよ!
どんな強い魔法が使えるようになるのか、ボクのために手伝えよ!」
フェリシアンはアルノリトが言うとおり、確かに身体はとても頑丈だ。
勇者であった祖父譲りの隔世遺伝により祝福された身体には多少の暴力など通じない。万が一に傷が付いても治りも普通の人の何倍も早い。
だが、火の玉や氷の塊など物理的なものだ。当たれば熱さもあれば痛みもある。何処に攻撃を加えても同じというわけではない。当たり所が悪ければ致命傷にもなるし、最悪死に至ることもある。
今は魔王が世の中に絶望を振りまいていた戦いの時代ではないので、人体は痛みに対する閾値が低下している。フェリシアンも漏れなくそうなのだ。
遺伝したのは強靱な身体だけではなかった。寛容な性格も受け継いでいた。
だが、時代が悪く、戦いの時代での寛容さは敵味方ともに敬意を持たれるが、戦いのない平和な時代の寛容な性格というのはただ誰に対しても甘いだけの人間なのだ。
痛い、熱い、寒い。アルノリトが魔法を使ったところでフェリシアンにはまったく効かないが、その全てが彼に襲いかかる。
だが、フェリシアンの身体は頑丈であるのでどれほど撃ち込まれても気絶することも出来ない。
「嫌だってのか? ならここで実験台になれよ!」
アルノリトは古い本を制服の胸ポケットから取り出した。左手で持ち、右手を開いてペーシを押さえた。すると彼の右手に開いたページの魔方陣が焦げた文字のように映し出された。
「お前なんか、その力で押さえ込まなかったら、今の時代はただのサンドバッグくらいにしかならないんだよ!
天地開闢の刻より深淵の彼方よ闇を照らす者、導け、黄銅鉱、緑獅子、礫岩、天帝の血は猛り湧く、闇より穿ち灰塵に葬せ、炎槍《ダージボル」
右手を高く掲げ、フェリシアンに向かって振り下ろそうとした――。




