アンニュイ
二日たっても、なんとはなく気がひけて新聞部の部室には行っていない。空しい風がひと吹き、心を冒す。ぼくは中島たちの作業を手伝いもしないで、もちろん取材などできるわけもなく、教室に残ったまま「きいたの会」の連中、つまり衣川や弥市たちの話を聞くともなく聞いていた。宮吉郁子のことが話題にのぼった。とうとう家を出たらしく、友だちのアパートに転がり込んで駅前のスナック『カルタゴ』で働いているという。
「やっぱり中退てことになるのかなあ」
「進級はまずできないでしょ。出席日数ほとんどないもん」
「じゃ、やっぱりこのまま中退かあ。もったいないなあ。中間試験、ダントツのトップだっただろ」
「イっちゃう人は行っちゃうって。夏休みが境になるらしいよ」
それはわかるような気がする。ぼく自身、この夏休みはひどく自分に対して居心地の悪さを感じていたものだった。自分をとりまくなにもかもに反感と嫌悪を抱き、見るもの聞くものすべてに反発し、気持が安まることがなかった。
なにもかもうっちゃって放浪したい
規則や決まりなどの秩序を抜けだして自分を解放する旅に出たい
そんな願望にとらえられた。しかし抽象的な思いゆえ元から形はなく、頭には黒雲が増殖してもやもやがつのるばかりだった。毎日が不規則な生活となり、思いが満たされない歯がゆさに自暴自棄になりかけたころ、ぼくはバイト先で沖野牡丹に出会ったのだ。
そこは高速道路のインターチェンジにあるレストランで、新米のぼくは毎日、指導係の沖野さんに怒られてばかりだったが、彼女の声はすんなりと胸に沁み、ぼくは仕事に没頭できた。彼女の近くにいると反発も嫌悪も忘れて素直な気持になれた。同時に素直な自分を自覚することができて、それ自体がはじめての経験だった。新鮮な、わくわくする、宙でも飛んでいそうな、そんな気分だった。
いっしょに働いたのはほんの一週間足らずだった。彼女は夏休みの後半をつかって旅行するのだと言っていた。沖野さんが辞めてから、レストランでは面影ばかりが目に浮かび、いっそう想いがつのっていった。
同じ高校の一年先輩だということは知っていたが、まさか新聞部とはつゆ知らず、部室で顔を合わせたときは運命的なものをぼくは感じたものだった。
ああ、それなのに。
「おい、鵜飼。おまえもきょう泊まりに来ないか」
「え、どこへ」
「なんだ。聞いてなかったのか。マスコットのなかだよ。ほら、このまえ、コックリさんやったとき、けっこう広かったじゃないか。あそこなら四五人は寝られるぜ」
「あんなところに泊まってどうするんだ」
「こんどは真夜中に魔法陣を敷いてメフィストを呼ぶのさ」
弥市はそう言ってにやにや笑う。
「なんだ、冗談なのか」
「いや泊まるのはほんとなんだ。来ないか」
ぼくは気のない返事をして教室を出た。




