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九月の舟  作者: すのへ
20/25

 その夜のことだった。あれほどの晴天に恵まれた昼間とは一転、暴風がうなりをあげ、横なぐりの雨が窓をたたきだした。

 台風である。天気予報でははるか南の海上を通るはずだったのに。

 沖野牡丹の面影に翻弄されていたぼくは、激しい雨音にふと我に帰り、時計を見た。九時をまわったところだった。

 電線を揺らす風音が不気味に響くなか、ぼくは学校に行って来ると言い残して家を出た。道々、横なぐりの雨と強い風にさらされながら考えた。これではマスコットは、吹き飛ばされないまでも、段ボールや、せっかく貼った新聞紙もB紙も見るも無惨にはがれ落ちていることだろう。

『二三日中にわかるさ』

 そう駒瀬くんが言っていたことが頭をかすめた。なるほど。考えてみたら、この季節は台風の直撃が多い。駒瀬くんが言っていたのはこのことかもしれない。二三年生のマスコット作りは台風も視野に入れたスケジュールで進んでいたのだ。なぜ教えてくれなかったのだろう。意地が悪い。

 生け垣の破れめから校庭に入ると、真っ暗闇のはずのグラウンドのあちこちで、光の帯が忙しく往来していた。ぼくと同じようにマスコットが心配になってやって来た連中だろう。うちのクラスの作業場に行ってみると、泊まっていた衣川や弥市はもちろん、中島と笹安、それに富士谷も来ていた。

 マスコットは思ったとおり、B紙が破れて下張りの新聞紙が現われ、ボール紙や竹の骨組が露出しているところもある。どこから調達してきたのか工事用の青いビニールシートを、なんとか広げようとずぶぬれになりながら笹安たちが奮闘していた。ぼくもシートの端にとりついた。しかし、懐中電灯で照らしていた中島が叫んだ。

「もういい。おい、やめよう!」

「いいのか。せっかく貼ったのに」

「貼り直したほうが早いよ。それより飛ばされないようボール紙をはがしてしまおう。きれいさっぱり骨組に戻すんだ。そうしておけば、すぐ貼り直しにも入れるから」

 はがすと決まれば作業は早かった。すでにぐしょぐしょの段ボールは、破れてビニール紐から離れかけていた。高さ三メートル近くのマスコットはまもなく木と竹の骨組だけになった。こうなってしまえば、もはや風に持って行かれる気づかいはない。しかし念のため、太い三本の支柱にロープを回し、非常階段の手すりに結びつけた。

「あす、B紙を貼るところまでがんばって、あさってペンキを塗ればいいんだ。楽勝さ」

 たしかに中島の言うとおりだった。あすあさっての文化祭の期間中に集中して仕上げればいいわけで、事実、二三年生の各クラスではまだ骨組さえ完成していないところもあるくらいだ。

 あとで駒瀬くんに聞いたところでは、学校祭のこの時期には台風のひとつやふたつは必ず襲来するので、体育祭の前日ぎりぎりに紙を貼って彩色するのが二三年生のスタンダードな作業工程になっているという。それならそう教えてくれればいいのに。

「いい経験になっただろ。困難を乗り越えてこそクライマックスがまた格別なんだ」

 駒瀬くんは勝ち誇って顔をほころばせたものだった。事実、二三年生はこの嵐でもだれも来ていない。骨組み未満なのだから飛ばされる心配がないわけだ。ぼくたち一年生はこうして全身びっしょりになって右往左往し、風はますます強くなって不安を募らせた。

「これでいいや。帰ろう」

 骨組みだけになったマスコットを残し、ぼくたちは片づけも早々に校庭をあとにした。ほかのクラスの連中も退散しはじめていた。これから朝にかけて台風が最も近づくらしい。

「電車、だいじょうぶか」

 中島と富士谷は電車で通学している。最終電車にはまだ間がある時間だが、風雨のせいで止まってるかもしれない。ぼくらは駅へと急いだ。途中の街路はろくに傘もさせなかったが、商店街のアーケードに入ってやっとひと息つくことができた。

 どの店のシャッターも閉まっていた。アーケードの屋根を激しく雨がたたいている。横合いにぽっかりあいた路地から風が唸りをあげて吹いてくる。その何本めかの路地に差しかかったときだった。衣川がふと足を止めた。

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