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九月の舟  作者: すのへ
16/25

祭日出勤

 翌日は祝日で休みだったが、学校祭まで四日しかないため、総出で作業を進めるクラスが多かった。当然ながら新聞部も安閑としていられるはずがなく、とにかく出てきてくれと召集がかかった。で、本原委員長、副委員長の駒瀬くん、沖野さん、それにぼく、このいつもの四人が朝から部室に集まった。

「きょうは四人でまわって感想をまとめましょうか」

 駒瀬くんが言った。

「ええ~」

 委員長の本原くんが露骨にイヤそうな顔をする。この人はほんとうによくわからない。いまもそうだが、資料にへばりついてばかりで、そもそも取材ということをしたことがあるのだろうか。きょう、それが明らかになるかも。

「キミ、あれ撮って」

 校庭へ出るといきなり沖野さんがぼくに言う。

「え。ぼくが?」

 見まわすと誰もカメラを持ってきていない。写真をぼくにまかせるなら、せめて一眼レフでも持たせてくれればいいのに。いくらレンズがよくてもレンジファインダーでは軽視されるのだ。写真部の渡部なんか大きな一眼レフでバッシャン、バッシャンと騒々しくシャッターを切っていたが、その大きな一眼レフに恐れ入って誰もが身構え、ポーズをとって協力してくれる。ぼくの持っているミノルタのAL―Sには見向きもしない。

「それがいいのよ。ばかねキミは」

 つまり自然な姿で写真が撮れるということらしい。しかし誰も振り返らないのはまずくないか。正面からの顔が撮れない。

「キミが正面に回ればいいのよ。いいから寄って寄って。もっと。みんなの近くに寄るのよ。低く低く。ほら、腹ばいになって」

 沖野さんはやたらに指図する。ぼくは吹き出る汗を首に巻いたタオルでぬぐいながらシャッターを押しつづけた。

「あ、あの、どうですか」

 本原くんが、どこから引っぱり出してきたのかポータブルレコーダーのマイクを構えてインタビューを始めた。

「す、す進み具合は。まま、間に合いそうですか

 ひどく赤面しておどおどしている。目の焦点も怪しい。手に持つマイクは小刻みに揺れており、荒い息遣いが不気味だ。聞くほうがこんなだと、聞かれた相手は当惑顔で、ずいぶんと答えにくそうである。沖野さんと駒瀬くんは本原委員長には背を向けて知らんぷりを決め込み、ひたすらメモ取りと写真の指示にいそがしい。

 ぼくのクラスもそうだが一年生のクラスで出てきているところは少ない。何人か来ていてもマスコットの影で涼をとりながらおしゃべりしているだけだ。それもそのはず、一年生のクラスのマスコットはどこもほとんど完成に近く、白いB紙を貼り終え、あとは色を塗るだけである。。

 かたや二年生、三年生のクラスはどうかというと、段ボールを貼るどころか満足に骨組ができているところさえ稀だ。だからどのクラスも総出で奮闘している。これで間に合うのだろうか。駒瀬くんに聞いてみる。

「うん、いいところに気がづいたなあ。二年生三年生の作業が遅いのにはわけがあるんだ。まあ今年も二三日中にわかるかもしれない」と謎めいたことを言う。

 お昼になったので駒瀬くんが「メシにしよう」と言う。休日だからお弁当売りも来ないし、売店も閉まっている。どうしようかなと思っていると、駒瀬くんはついて来いといわんばかり、すたすたと三人を導くように歩きだした。行く手にはフェンスがあったが、破れめをくぐった駒瀬くんにぼくたちは続いた。舗装路に出ると喫茶店があり、駒瀬くんはそこに入る。四人がボックス席につく。小さなカウンターがあるが、お昼どきなので少し客がいる。その客の一人がふりむいた。

「おや。おまえたち、だめじゃないか」

 笑いながら注意するのはだれあろう文次先生である。顔が赤い。もうビールだろうか。ぼくの横にすわっている沖野牡丹の表情が一瞬ぱっと明るくなった。

「先生こそダメよ。もう飲んでる」

「あ。ああ、すまん。いや、きょう祭日だって忘れててな。来ちゃったんだよ、あわてて。遅刻だから走ってきたんだけど先生たちだれもいないじゃないか。あ、休みか。って気が抜けたら、つい」

「ちょうどいいや。先生、あとで部室に来てもらえませんか。ちょっと頼みたいことがあるので」

 駒瀬くんが言う。え、なんでこんなぐうたら教師を呼ぶのだろう。

「文次先生。去年の年度末に来たっきりでしょ部室」

 沖野さんが言った。ということは新聞部の顧問というのは。え。こいつ、いや文次先生なのか。

「勘弁してくれよ。休みだぜ、きょうは」

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