キイタの会
翌日は空はきれいに晴れあがり、放課後、骨組が完成したマスコットにまず段ボールが張りつけられた。調達隊が拾ってきた段ボール箱をばらし、竹ひごの骨組上にビニール紐でとめていくのだ。この上に紙を貼るので、なるべく段差がでないように、とくにボール紙が重複する合わせ目に注意する。でこぼこする部分は切りとって整形し、きれいに全体をおおう。
きょうは手伝いの人数が多かったので、圧倒的なスピードでマジンガーZの上半身像は段ボールにおおわれていく。これが済めば、あとは新聞紙で下張りをし、その上に真っ白のB紙を貼って彩色するだけである。ひと区切りついたところで中島が言った。
「あとは休み明けにしよう」
日も暮れ始めたので解散となった。しかし帰らない連中がいた。中島と笹安、由倉さんに穂坂さんといったおなじみのメンバーに加えて衣川や弥市もいる。いつもなら三々五々下校していくはずが、マスコットのまわりから離れようとしない。さらに、野球部の練習を終えた富士谷までがやって来た。
『なんだろう』
これは新聞委員として見すごしにはできないとぼくも居残った。
「鵜飼。ありがとうな」
富士谷が近づいてきて言った。ラブレターの件である。先輩はやっぱりフラれることはフラれたのだが、毛筆の返書に感激したそうで、わざわざ電話をかけてきたという。
『実にすがすがしい気分だ。なんていうかもうひとつ別の世界があることを知って胸を打たれた。迷惑をかけたな。ありがとう』
そう穏やかな口調で述べたとか。沖野牡丹おそるべし。
運動部の連中も帰ったころだった。
「もういいだろう」
そう言って衣川がマスコットのなかへ入った。背面の一部をドアのように加工し、出入りができるようにしてあるのだ。残りの者たちも次々とマスコットに入った。むろん内部はまっ暗である。だれかがライターの火をつけた。段ボールの張りぼてがぼんやりと映しだされる。なかは意外と広く、マジンガーZの両肩のところにも二三人は入れそうだった。
ぼくたちは、中心となる太い柱のそばに梁をよけながら集まった。だれが用意したのか、小さなテーブルが置かれ、山岳部から借りてきたらしいカンテラを吊す。テーブルのまわりには衣川と弥市、由倉さん、中島の四人がすわる。ひらがなで書かれた文字盤をテーブルの上に広げ、その上に十円玉を置いた。十円玉には四人がそれぞれ人差し指を載せる。
「なんだこれは」
「コックリさんよ。しずかに」
なんだコックリさんかとがっかりしたが、せっかくなので拝見することにした。
「コックリさんコックリさん、いらっしゃったらお出でください」
衣川が何回か唱える。しかし文字盤上の十円玉に反応はない。やっぱり迷信さと外に出ようとしたら犬の遠吠えが聞こえた。
「え」
思わず振り返った。
「おおっ!」
なんと十円玉が盤面上をするすると動いているではないか。盤上の鳥居に鎮座する十円玉は、衣川の質問に呼応し次々と文字や数字を指していく。
数字はともかく、文字のほうはでたらめな言葉が形成されるかと思いきや、意外とまともである。衣川は二十六で「アヤノコウジトミコ」という人と結婚するそうだ。弥市は三十六で死ぬと出て陰鬱な顔になった。
「おれは医者になれるか聞いてくれ!」
富士谷が身を乗り出し、目を輝かせて訊いた。十円玉は「はい」のほうへ行きかけて、あわてて「いいえ」のほうへ方向転換する。では「いいえ」なのかというと「いいえ」の手前で失速して止まる。けっきょく十円玉は「はい」と「いいえ」の間に止まって動かなくなった。
「ひどいじゃないか! どっちなんだ」
富士谷が抗議する。
「まあ一生懸命に勉強しなさいってことじゃないか」
衣川が口をはさむ。
「マジンガーZはマスコットコンテストで優勝できますか」
中島が真剣な表情で聞いた。十円玉はそろりと動きだして加速し、盤上をすごい勢いでまわり始めた。
「おい、ちょっと。ヤバくないか」
そういえば女子のだれかが言ってた。
「コックリさんはへたをすると取り憑かれることがあるのよ」
じっさい隣町でそういう事件があって町ぐるみでコックリさん排斥運動に乗り出したほどだ。
「だから軽い気持で試してはいけないわ」
まあ興味半分なんだけどね。
十円玉はますます勢いを増し、たまらず由倉さんが「キャッ!」とひと声あげて指を放した。そのはずみで残りの三人も「わぁ」とのけぞって指を放してしまった。呪縛を逃れた十円玉は宙に飛んだ。
「痛ッ!」
穂坂さんが額を押さえてその場にしゃがみ込んだ。十円玉が直撃したのである。とっさに中島が駆け寄って穂坂さんの額にハンカチを当てる。血がにじんでいるようだ。
「だいじょうぶ。ありがとう」
穂坂さんは顔をあげる。中島がそばに来てくれたことがうれしい、そんな表情がだれの目にも読みとれた。その日はそれでお開きとなった。




