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氷菓の悪戯

「あんた・・・・・相馬ナイトね」


 目の前の少女が告げた言葉に俺は面食らった。


 うなじ辺りで長い髪をひとまとめにして、目元をすっぽりと隠せるサングラスの中から青い瞳がこちらを見ている。


 ぶつかった相手と面識は無い。


 なのに、俺のことを知っている。


「キミは」


「その様子だと私のことも忘れているみたいね」


 少女はため息を零すと俺の左腕を掴む。


「とういうことはまだ左腕をつけているわけだ」


「なっ――」


 言葉が出ない。目の前の相手は俺を知っているばかりか左腕のことも知っている!?


「俺の左腕のことを知っているのか・・・・そんな顔しているわね」


「何者だ」


 少し下がりながら尋ねる。


 黒装束の仲間かもしれない、俺は警戒心を強めた。


「そんな身構えなくても良いわよ。私はあんたの敵じゃない」


「信用しろって」


「あんたが覚えていないだけで私は一度、出会ってる」


 ちらり、と少女は後ろを振り返ると俺の腕を掴む。


「話は後、追われているの助けて」


「は?追われているって」


「お願い」


 手に小さな痛みが走る。


 見上げている瞳と目が合う。


 彼女からは必死さが伝わっていた。


「私を助けて」











 気が付いたら俺は少女の手を引いて走っていた。





「どこまで逃げればいい?」


 後ろの少女は何も言わずについてくる。


 人ごみの中を目立たないよう、時間がなく慌てているカップルを装う。


 そうすることで周りの人から余計な注目を浴びない。


「まぁてやぁ相馬ナイトォ!」


 しかし、現実というのは甘くはなかった。


 俺達を阻むように現れたのはスーツを着崩した――。


「はい、じゃぁま」


「ぶぉらぁあああああああ」


 容赦なくハイキックでぶっ飛ばす。


 邪魔者はうめき声をあげて地面へ倒れる。


「助けてって頼んだ手前、こんなことを言うのはどうかと思うんだけどやりすぎじゃない?」


「他の人なら逃げるという選択肢とるけれど、あれは別。殺しても死なない人間だから大丈夫だ」


「そう、ならいいわ」


「ところで名前は?」


「え?」


「いや、君は名前を知っているけど、俺は知らないからさ」


氷菓ひょうかよ、氷菓って呼んで」


「わかった、アイスさん」


 あれ?


「うわっ、ごめん!口が勝手に」


「くすっ」


 振り返ると氷菓さんは小さく笑っていた。


「怒らないわ。そういうところは覚えていたんだねぇ」


「へ?」


「なんでもないわ」


 彼女は首を横に振る。


「逃げておいてなんだけど、あてはあるわけ?」


「あんたの住んでいるところへいくわ」


「はいはい、わかりました」


 俺の住んでいるところへ逃げればいいわけですな。


 ・・・・ん?


 いま、なんていった。


「あのさ、聞き間違いじゃないならさ、俺の住んでいるところっていった?」


「そうよ。安全だから」


 一体、何を根拠にいっているのだろう。









「結局、学院へきてしまった」


 何とか学院だけは拒もうとしたのだが、彼女の有無を言わせぬ態度に俺は抵抗できず男子寮へ戻ってきてしまった。


 いや、本当に抵抗したんですよ?学院は女子禁制で見つかったら一週間トイレ掃除は確定している。そんなこと誰がやりたがる、色々な言い訳を並べ立てたが絶対零度のまなざしを受けていると全身が冷たくなってきて負けた。


 折れてしまったのだ。


「へぇ、噂の王国学院かぁ・・・・はじめてみたよ」


 氷菓さんは学院にそびえる巨大な像(修復済み)をみて感慨深い声を漏らす。


「この像はなんなの?学院長を模しているとか?」


「セキュリティみたいなものだよ。少し前に壊れたんだけど無事直ったみたいだ」


 テロリストの襲撃時に破壊されたのだが修復したようだ。


 像を見上げていた氷菓さんは学院の中へ足を踏み入れる。


「あ、ちょっと待って!」


「何よ?中に入らないといけないんでしょ」


「そうだけれど、あそこのセキュリティが」


「何も起こらないけど?」


「・・・・あれ」


 像の近くを通ったというのにぴくりとも動かない。


 俺の時は槍を突きつけた。


「まだ、機能していないのか?」


「丁度いいじゃない。さ、あんたの部屋へ行くわよ」


「・・・・そう、だな」


 動かない像を気にしつつ、俺は学院の中へ、教室棟の方ではなく、男子寮へ向かう。


 余談だが、俺の部屋は一人部屋だ。


 少し前にルームメイトがいたらしいのだが出て行ったらしい。


 そのため、広い部屋を独り占めできている。


 だから、氷菓さんを入れても問題は無い。


 ばれたらマジでヤバイんだけどね。


「ほら、案内して」


 俺の背中を押して氷菓さんが促す。


 ここまできたら腹をくくろう。


「おい!雑魚!」


「・・・・げ」


 入ろうとしたところでいやーな奴に遭遇した。


 金髪野郎が足音荒く俺のところへ近づいてくる。


 ココのところ近づいてこないから油断していた。


「何のようだ」


「貴様のせいでとんだ恥をかいた!決闘を申し込む!」


 懐から白い手袋を取り出すと俺へ投げ飛ばす。


 落ちた手袋へ視線を向ける。


「さぁ、それをとれ!貴様にエリートの実力を教えてやる」


「・・・・断る」


「ふん、腰抜け――」


 バリーーンとガラスの砕け散るような音が響き渡った。


 俺は何事かと顔を上げると金髪が地面へ倒れている。


 水を被ったみたいにずぶぬれになっていた。


「・・・・なんだ、一体?」


「さぁ、汗をかきすぎたんじゃない」


 首を傾げつつも、余計な騒動に巻き込まれずに済んだわけだ。まぁいいかと開き直って男子寮へ向かう。






















「ふぅん、広い部屋なのね」


 あの後、変な奴に遭遇することなく男子寮の部屋へたどり着いた。


 氷菓さんはベッドへ腰掛ける。


「あの、氷菓さん」


「何よ」


「出来れば、隣のベッドへ腰掛けてもらえません?」


 そこ、俺のベッドなんす。


 にやり、と氷菓さんは笑うと仰向けに倒れてごろごろと転がり始める。


「ちょっとぉ!?なにやって」


 コンコン。


 止めに入ろうとした所で扉を誰かがノックする。


 誰だ一体?


 置時計の時間を見ると既に夜の八時を指している。


 ごろごろしている彼女を残してドアへ向かう。


「はーい、今、あけますよぉ」


「あ、あの!」


 ドアの向こうにいたのは小宮山さんだった。


 しまった!彼女をショッピングモールへ置き去りにして。


「ごめん!」


「い、いえ、気にしないでください。あんなのと遭遇したら追いかけるのはし、仕方ないですし」


「誘った俺が置き去りにしてしまったんだから・・・・悪いのは俺だよ。ごめん」


「あ、あ、謝らないでください」


「でも」


「そ、そうです!こ、今度、何か埋め合わせしてくだ、さい」


「埋め合わせ?」


「は、はい」


「ソレはデートのやり直しということで」


「~~~~っ!」


 ボン、と沸騰したみたいに顔を真っ赤にする。


 今にも爆発するんじゃないかと錯覚するほど赤くして俺へ指を近づけてくる。


 突き出される指と自分の指を重ねた。


「や、や、や、約束です!」


「おう」


「そ、それじゃあ、部屋へ戻ります」


「あ、そうだ。小宮山さんの番号教えてよ。空いている時間があったら俺から連絡するし」


「え、で、でも!?」


「デートの埋め合わせするんでしょ?だったら、俺からやるよ」


「・・・・お願いします」


 デバイスの番号を交換して小宮山さんは帰っていった。


 うん、帰ったと思うよ。途中で姿が見えなくなったから確証ないけど。


「デートねぇ」


 ギクゥ。


 振り返ると壁に手を当ててにやにやと笑みを浮かべている氷菓さんがいる。


「こーんな可愛い子が部屋に居るのに別の女の子とデートの約束を取り付けるなんてとんでもないわね~」


「いや、あれは・・・・」


「言い訳禁止!」


 ガチャリ。


 手をあげたところで彼女の手が動き、俺の手に銀色の手錠がかけられる。


「は?」


 ガチャリ、と反対側の手錠を氷菓さんは自身の腕へ取り付けた。


「ちょっとぉ!?何やってんの!」


「これから私の相手をしてもらうわ。このままにしておくとどんどん変な女をひっつけそうだし」


「いやいやいや!?何でそんな展開!?てか、俺は」


「相馬さん?」


 さらにギクゥ!と体が硬直する。


 廊下の方へ顔を出すと砂原がやってきていた。


 普段の制服ではなく、寮で生活する時のジャージを着ている。


 なんつぅ、タイミングの悪い!


「よぉ、どうした、てか、男子寮は立ち入り」


「知っています。どうしても話したいことがあります」


「話なら明日でもいいか?今日はどうしても」


「嫌です!」


 提案を砂原はばっさりと断ち切る。


「教室で話そうとしても相馬さんは逃げてしまいます。ここで、今この時しかないんです!」


 変なところで頑固になるなよぉ!?


 叫びたい衝動に駆られつつ、後ろの氷菓さんへ視線を向ける。


 あれ、嫌な予感。


「あぁん」


「・・・・はい?」


「え?」


 廊下へ聞こえるように氷菓さんは変な声を漏らした。


 砂原は目を見開いている。


「あの、今の声」


「テレビの調子が悪くてさぁ!さっきから変なチャンネルに繋がっているみたいなんだよ」


「いやぁぁん」


「そ、そうなんですか・・・・大変ですね」


「あぁ、とぉっても困っているんだよ。テレビをなんとかしたいから話を明日にしてくれないか?」


「そうですね・・・・あんな音が聞こえているんじゃ、私も落ち着かないです」


「だ、だよなぁ。明日、時間を作るからそれでいいか?」


 とにかく、砂原を追い返そう。


 そうしないとややこしいことになるのは明白だ。


 ボロを出さないように注意しつつ砂原を女子寮へ誘導する。


「はい、約束ですよ」


「安心しろ。絶対に守るから」


「本当ですね?」


「本当の本当」


「破ったらハリセンボンとドクダミ茶を飲んでもらいますから」


「ハリセンボンだろうとドクダミ茶何杯でも飲むから安心してくれ。絶対だ」


「わかりました・・・・信じますよ」


「おう」


 砂原は約束を取り付けたことで安心したのか去っていく。


 俺は彼女が戻ってこないか確認してからドアを閉める。


「もてもてねぇ」


「冗談はよしてくれ・・・・この手錠を外して」


「嫌よ、そもそも鍵持ってないし」


 なんですと!?


「あんたが蹴り飛ばした男から抜き取ったんだけど、鍵だけ見つからなかったのよねぇ。ま、今日一日はよろしく」














 もう一度いおう。








なんですとぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?



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