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守る者の覚悟

これにて第二章、終了~




 相馬ナイトはゆっくりと鬼、Oと退治する。


 Oは目の前の小さな存在が弾け飛ばないことに首をかしげてぐいぐい力を入れ始めた。


「うらぁ!」


 腹に力を入れて叫ぶと同時に左手の力を解放、Oの腕を掴んで空中に投げ飛ばす。


 かなりの重量のOを地面へ叩きつける。


 地震と間違えてしまいそうな揺れが起こった。そればかりか、相馬の足元がめり込む。


「やっぱ、アイツはすげぇ」


「なんだ、あれは・・・・あれは、相馬何とかの能力なのか?」


 少しはなれた所でOと戦っている相馬をみて、烏丸は歓声をあげ、ミミズクは驚愕に目を見開いている。


「あれは能力なんていう生易しいものじゃねぇよ」


「安倍彦馬、生きていたのか?」


「勝手に殺すな」


 ミミズクの隣に体を引きずりながら安倍が近づいてくる。


「能力じゃないといったな・・・・では、あれなんなんだ?」


「ラグナロクだ」


「ラグアンロク?」


「ラグナロクだ。人類の文明が築かれるより前に誰が作ったのか正体不明の道具などをさす言葉だ、数あるオーパーツの中で、世界を滅ぼすことが可能といわれる最終兵器に分類される種類、相馬ナイトの左腕はその中の一つ、吸収の左鎧だ」


「バカな、都市伝説の代物だろ」


「この世にありえないなんてことはねぇ。目の前の真実を否定したら、お前は何を本当と捉えるんだ?」


 安倍の指摘にミミズクは黙り込む。


 二人が話をしている間も戦闘は続く。


 Oは尻尾を振る。だが、左鎧の力によって粒子レベルまで分解されて、吸収される。


 エネルギーを得たことで吸収の左鎧は力を増す。


 体の中を走り回る熱を吐き出すよう雄叫びを上げた。


「うぉらぁ!」


 ラリアットがOの胴体へ直撃する。


 大きく仰け反り、地面へ崩れた。


 近づいてくる相馬を追い払うべく、足で相馬を蹴り飛ばす。


 内臓が暴れるのを感じながら繰り出される足を手で掴んでそのまま、Oへ迫る。


 尻尾を奪われたOは相馬ナイトを脅威と感じ取ったのだろう、背中の翼を広げて、空へ逃げた。


 人間は空を飛べないと本能的に理解しているのだ。そして、あの左腕へ触れることが無ければ脅威にはならない。


 瞬時に学習したOは口から唾液を撒き散らす。


 ナイトは咄嗟に左腕で払いのけた。


 地面へ零れた唾液が音を立てて溶ける。


「溶解液かよ!?」


 驚愕に顔を染めながらナイトは左腕を見る。


 いくら、最強といわれている終焉具でも相手はDを模した存在、もしかしたらという可能性が拭えない。


 おそるおそる視線をおろす。


 幸いにも左腕は無事だった。着ている服はドロドロに溶けてしまっている。


 その間も、溶解液は飛んできていた。


 どうしたものか、地面を撥ねながら考えていると、Oが体を丸める。


 ナイトは左腕を構える。


 だが、あろうことかOはナイトを飛び越え、後ろの砂原沙織へ迫った。


「なっ!?」


 驚きつつ、彼女の下へ走る。


 だが、相手は異形の存在、距離はあったはずなのに向こうの方が僅差で彼女へ届く。


 鋭い爪が砂原を捉えようとした瞬間、銃声が轟き、地面へ落ちた。


 全員が突然の出来事に間抜けな顔を浮かべる。


 安倍も、


 ミミズクと烏丸も、


 狙われていた砂原すら、突然の事に動けなかった。


 撃たれたOすら、目を見開いて地面に落ちていく。


 そんな状況の中で、たった一人、拳を握り、目の前の相手へ突き進む。


「うぉらぁああああああああ!」


 Oの顔面へ迷わずに拳を繰り出す。


 黒い風が吹き荒れる。


 呆然としているOの体が次々と分解される。


 必死に逃れようとするOだが、脳が完全に分解されたことで動きを止めた。


 残りも消え去ってから、ミミズクが呟く。


「第二のOや第三のOがでてくる・・・・なんて、展開はないな?」


「世間一般で、それはフラグというんじゃ」


 

 烏丸の指摘にミミズクは応えない。


 安倍はため息を零しながら携帯電話を取り出す。


「ごっくろうさん、こっちは終了したぜぇ」
















「・・・・了解」


 スコープから伊織汐は顔を離す。


 目の前にはTB-35が設置され、銃口は倉庫の方へ向けられている。


 携帯をかけたまま、こっちをみている安倍彦馬の姿があった。


「・・・・感謝、する」


『ハッ、なんだ、いきなり』


「私に彼女を助けるチャンスをくれたこと」


 伊織汐はエリア・ゼロで死ぬはずだった。


 自ら絶つところで一人に救われた。


――砂原沙織。


 何もない、ただ復讐のために、親のために動く自分を、その場にいると、存在を認めてくれた少女、


 最初は敵と考えていたのに、気がついたら彼女を仲間として、認めている自分がいた。


 自分は彼女のために生きよう。


 あの日、伊織汐は決意した。


 砂原沙織を守る為に生きよう。彼女の為にこの命を捧げよう。


 恩返しといえば軽いものに感じてしまう。彼女の新たな目的、そのために行動する。


 安倍彦馬から“彼女を守る”為に手を貸せといわれたときは迷わず決意した。


 自分が射殺しようとした相手であろうと砂原沙織を守る為なら伊織は迷わない。


『何か勘違いしているみたいだから教えておいてやる。俺はお前のことを赦していないし、仲間なんていうものと考えていない』


「・・・・そう」


『今回、てめぇに声を掛けたのは狙撃の腕が必要だったからにすぎねぇ。いわゆる適材適所って奴だ・・・・それ以外に理由なんざねぇ』


「だとしても、私は感謝している。彼女を守ることができた」


『・・・・勝手にしろ』


 ブツッ、と通話が一方的にきられる。


 伊織はライフルのパーツを外す手を止めて、もう一度、倉庫へ視線を向けた。


 はっきりと姿を確認できない、けれどみんなと話をしている砂原沙織はわかる。


 今はまだ会えない。


 けれど、自分の中で気持ちの整理が付いた時は。


「ちゃんと、会いに行くから」











 目を覚ますと、何度目かわからない病室だった。


「あぁ・・・・またここか」


「そうですね。これで何度目でしょうか?」


「エイレッ!?」


「無理しないでください」


 俺は激痛に体を丸める。


 あまりの痛みに声もだせない。


「体の治癒は先ほど完了したばかりです。無理に動かすとまた神経が千切れますよ」


「づぅぅぅぅ」


 さらりとおそろしいことをいいながらエイレーネは切り分けられた桃を一口、食べる。


「うん、おいしいですね。さすが私が選んだだけの果物詰め合わせですね~」


「・・・・じ、自分で買ってきたものを病室で食べるのかよ!?」


「声がでかいです。病院では静かに」


 唇に手を当て、真面目に叱るエイレーネ。


 いや、俺が悪いの!?


 普通は病人へ見舞いとして渡すものじゃ。


 エイレーネはもう一口、桃を食べてから俺へ視線を向けた。


「今回も、無茶をしましたね」


「んー、必要なことだったし・・・・まぁ、いんじゃないから」


「代償は大きいですよ」


「そうかもしれないけれど、砂原、俺の仲間が守れるんなら別に後悔はしねぇ」


 まだ体が痛いけどな。


 俺が苦笑いを浮かべているとエイレーネはフォークで桃を突き刺す。


「えい」


「むぐっ・・・・おいしい」


「そうでしょ?今回は私達の方に落ち度がありましたから、安部さん共々、口座に特別手当を振り込みました」


「別に、いいのに」


「遠慮しないでください。これしかできないのですから」


 俯くエイレーネをみて、俺はしまったという顔になる。


 こんなところを側近のメイドさんがみたらクナイで縫い付けられてしまう。幸いにも彼女の姿が無いことから助かったけど。


「そ、そういえば、俺が意識を失ってから何日が経過してんの?」


「今日でちょうど、二週間です」


「二週間!?」


「今回はかなり時間がかかったみたいですね。Oという負荷は相当のモノだったということですね」


「・・・・そうみたいだな」


 左手を触りながらしみじみと呟いた。


 疲労感も少し残っている。


 思っていた以上に、Oを吸収するということは体に大きな負荷をかけてしまっていたようだ。


 あれが噂のDだったら、俺の体は一度、つぶれたザクロみたいにはじけ飛んでいたかもしれないな。


「進展したこととかある?」


「死亡した金十字信者の周辺を調べましたが、残党への繋がりを見つけることは出来ませんでした。上層部は単独で行動していると睨んでいます」


「単独であんな化け物使役できるわけがない」


「私も同意見です。上としては穏便にこの件を終わらせようと考えているみたいですね」


「保身ばかりだもんなぁ・・・・」


 嫌になっちまう。


「後は・・・・学院のカーニヴァルはFクラスが優勝を決めたということくらいですかね」


「おー。それは凄いねってちょっと待て!?Fクラスが優勝ってなんだ!」


 軽く聞き流そうとしたところで俺は慌ててエイレーネへ叫ぶ。


 くすくすと彼女は笑いながら。


「その様子だと本当に驚いているみたいですね・・・・一昨日のことです。学院長が特別に二年生の部でカーニヴァルを再び行いました。ルールは前回と同じ形式、違いがあるとすれば、参加人数に差がなかったことでしょう。他の選手を圧倒して烏丸憂さんと砂原沙織さんが一位でゴールをしました」


 俺は唖然と口をあける。


 Oの乱入で多くの負傷者をだしたことがこんな形で俺達へかえってくるとは思っても無かった。


「お前もとんでもない学校へ俺達を送るよな」


「スキルカーストのことですか?」


「・・・・その様子だと知ってたな」


「当たり前じゃないですか、学院長の長嶺さんも知っていますよ」


「はぁ!?知ってて黙認しているのか!」


「彼女は生徒の個性を尊重していますからね。生徒達が作り上げたものを教師である自分が潰すのはおかしいということで見守っていたのです・・・・まぁ、今回の優勝でどうなるのかわからないですけれど」


「・・・・もう、行くのかよ」


「こうみえて、私は忙しいんです・・・・あ、そうそう」


 出口でエイレーネは振り返る。


「この後、砂原さん達がやってきますけれど・・・・あまり仲間を悲しませてはいけませんよ?」


「わかったよ」


「・・・・後――」








「相馬さん!」


 しばらくして、砂原沙織が病室へ飛び込んできた。


「よぉ、って、また泣いているのか!?」


 飛び込んできた砂原沙織は目に涙を溜めていて、おいおいおいとベッドの傍で泣き出す。


 どう接すれば良いのかわからない俺は頭を撫で続ける。


「ぐす、しんぱいかけないでぐださいよぉ!」


「・・・・悪いけれど、泣き続けるお前の方も心配だわ」


 ズズズと鼻水をティッシュで噛んだ後、砂原は俺を真っ直ぐに見る。


「体の調子は、その、そうですか?」


「ぼちぼち、明後日には退院できるんじゃないかねぇ」


「それは、良かったです」


「おいおい、また泣き出しているぞ」


「し、仕方ないじゃないですか!血まみれで私の前に転がったと思ったら、立ち上がって、また血まみれになって倒れたんですよ!?し、死んだかと、思って、しまったんですからぁああああ」


 砂原は大きな声で泣きはじめる。



 本当に不安だったのだろう。


 病室へ入ってきた時から彼女の目は真っ赤だったんだから。


 そこまで心配させた原因を作ったのは俺だ。


「悪かったって」


「本当に、そう、思っています?」


「イエス、マム」


「・・・・でしたら、今度、買い物に付き合ってください」


「それでいいんだったら、オーケーだ」


「ぐす、約束、ですよ」


 小指を見せる彼女へ俺は迷わずに自身の小指を重ねる。


 エイレーネの言葉が脳裏を過ぎる。







――仲間を大切にするのはいいですけれど、自分の身も大切にしてくださいね?仲間も悲しむのですから。


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