疲労と睡眠
「おまえぇはバカか!」
「なんだと!?」
やってきた安倍が開口一番俺を馬鹿にしたことで決着をつけるための準備に入る。
「まぁ、待て」
「そこの女性の言うとおり、落ち着くべき」
ラウンドワン!を開始しようとしたところでミミズクさんと伊織に止められた。
「ちっ、仕方ない。命拾いしたな安倍」
「それはこっちのセリフだ、この野郎」
「「(互いにガンの飛ばしあい)」」
「バカか、こいつらは」
「同意見」
隣で呆れたような表情をしている二人の視線に気づいて互いに小さく咳をする。
しばらくして、安倍が話し始めた。
「さっき本局から連絡が入り、石塚期成の輸送が開始されるそうだ」
「治安維持局が重たい腰をあげたというわけか」
「これだけの騒動をあげれば当然」
「しっかし、てめぇも物騒な作戦を立てるもんだ」
「そうか?」
「当たり前だろ。閃光弾で石塚の視力を奪って、その間にレフトメイルの力で周囲の床を分解、吸収して下のフロアに落とすなんざ、最悪、死人がでてたかもしれねぇぞ」
「あんな連中がいても邪魔になるだけだ・・・・それに」
あの時、黒い感情が心の中で渦巻いていた。
床を砕いた時、誰かが怪我をするかもしれないという考えはあった、だが、砂原を助けようとせず石塚に加担した連中を“助ける”という気持ちがなかった。
怪我をすればざまぁみろとすら思っていた。
「それに?」
「いや、なんでもない」
「しかし、石塚の野郎、誰の命令で砂原沙織を襲えなんて」
「そこは本局の連中に任せるさ・・・・伊織、砂原は?」
「薬で眠ってもらっている。あと三時間は目を覚まさない」
救出された生徒達は一部を除けば軽傷、医務室で簡単な処置を受けて追い出されていた。
しかし、砂原は精神的ショックが大きいと判断され睡眠薬で眠っている。
一番の被害者は砂原ということだろうか。
「砂原もそうだが、てめぇ、かなりボロボロなんじゃねぇか?」
「・・・・まぁ、だい」
――ドクン。
「グポォ!」
口元へ手を当てる暇も無く地面へ大量に吐血する。
「相馬ナイト!」
「酷いな」
「ちっ、やっぱり、ボロボロじゃねぇか」
床へ広がる血をみて、安倍が呟いた。
「ゴホッ!ゴホッ!」
一分ほどして吐血がとまる。
ひゅーひゅー、と息継ぎをしながら傍の椅子へ座る。
座った途端、体中の筋肉が悲鳴上げた。
「っだぁ!」
「どうやら神経もかなりやられているみたいだな。だから、てめぇはバカなんだ」
「っ・・・・ぐぅ!」
「悪口はそこまで、相馬ナイト、そこに寝て」
あまりの痛みに安倍へ返す言葉が無い。
さすが、本局で指名手配されている能力者だけはあるというところだろう。床を吸収した時は負担を感じなかったが、あの植物は違った。
毛細血管のいくつかが千切れて、骨に皹が入った。
体の疲労も大きい。
吐血したってことは臓器もいくつか傷ついている可能性がでてきた。
「何やっているの!?」
異変に気づいて先生が座って、診察を始める
この調子だと、大きな病院で検査させられるだろうな。
しばらく医務室で安静にせよと言われた。
うーん、無茶したな。
「この事態について、学園では緘口令がしかれる。ただし、カーニヴァルは中止しないそう」
「カーニヴァル?」
「能力測定を含めた模擬戦のことだよ。砂原とカラスのヤツがやる気だしてたなぁ」
「ほぉ、カラスがやる気を出しているということは、殺し合いか」
「まさか、模擬戦だから、血を見るなんて事はない・・・・」
たぶん。
あの血気盛んな彼女は何を考えているかわからない。
俺が壁を砕こうとした時も突撃しようとしていたし、カーニヴァルで誰か血を見ることにならなければいいな。
「ミミズクさん」
「なんだ?」
「どうしてカラスはあんな血気盛んというか・・・・バトルジャンキーなわけ」
「・・・・さぁな」
「知らないのかよ?」
安倍が隣に居るミミズクへ尋ねる。
俺も驚きだ。
「私達は長いこと一緒に居るが、常に傍にいるというわけじゃない。思い思いの時間を過ごしている間は、何をしているかなど把握していない。その期間でアイツがあんな感じになった切欠があるのだとしたら知らん」
「てめぇは何してたんだよ」
「アイドルの追っかけ。すばらしいものだぞ」
「・・・・」
「なんだ、その目は?」
「「別に」」
目をそらしたことは悪くないと思う。
ミミズクさんがアイドルの追っかけをしていたことがすっごい意外なんだもの。
「さて、安倍彦馬、やる仕事が無いのなら私は帰るぞ」
「おう、ギャラは後日振り込んでおくぞ」
安倍の言葉に返さず、ミミズクは医務室から出て行った。
残された安倍と伊織も、無言で席を離れる。
「何かあったら連絡しろ。いいな」
一言、残して安倍が出て行き、俺と眠っている砂原だけとなった。
カーテンで区切られて眠っている彼女は大丈夫だろうか。
目を覚ました時、砂原沙織に待っているのは地獄だ。
学園側が緘口令を敷いたとしても人の口に戸は立てられない。
噂というのものはどこかで悪意を受けて歪み、伝わっていく。
それがどれだけ人を傷つけるのか、俺は知っていた。
「・・・・願わくば」
眠っている間は悪夢なんてみないでいて欲しいと俺が思うのはお門違いかな?
▼
「あれが、姫様を守る存在だとありえない」
『そのとおり』
苛立ちを隠しながら教室の窓の向こうで“バカ騒ぎ”をしている二人を睨む。
教室を鋭く睨んでいた。
計画が無ければ、相棒を伴って教室へ攻め込み、ヤツをこの手で殺すことができる。
だが、そうすれば計画を立てた意味がない。
計画が達成されなければ、自分達はただのテロリストとして全世界で指名手配をされてしまう。
そうならない為の大義名分をこの計画で手にする必要がある。
だからこそ、殺意を抑え込む。
今すぐ喉笛を引き裂いて体を血に染めて、あの方へ差し出してやりたいという衝動を飲み込んだ。
そして、視線を別の場所へ向けて顔を緩める。
「あぁあぁ、主よ。待っていてください」
殺意に染まっていた顔は愛しい人を見るような者へ変わっていた。
あの方こそ、全て、
全てはあの方に捧げてこそ意味が在る。
「いずれ、御身の傍に参上いたします。それまでは耐えてください」
「「我らが王よ」」




