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石塚期成の末路


「違法研究施設?」

 安倍を定規で成敗してずぅっと後頭部を蹴り続けていると冷めた表情のミミズクさんと目が合い、冷静さを取り戻した。


 場所を変えて、誰もいない特別教室。


 そこで俺と安倍、ミミズクさんの三人で話をしている。


 使用している特別教室は家庭科などで使われる調理実習室、だが、現在は使用禁止となっていた。


 誰もいないなら話をするにはうってつけだと思い、移動した。


 特別教室で安倍は簡単に俺へ説明する。


 ボックスシティ内で違法研究施設が見つかったということ、その中で研究されていた被験体が一つ、行方不明であるということ、それがかつて第三次世界大戦で脅威とされたDの後継である可能性が高いことなどを伝えられた。


「前からCGTの連中がマークしていた施設の一つだ」


「その違法研究施設とやらとこの学院へ来る理由が見えないけど?」


 安倍の話なら違法研究施設はDの後継を用意して世界を掌握するということだ。


 それならば、狙う場所は学院ではなく治安維持本局という可能性が高い。

少し前の騒動でCGTと捜査官はかなりの痛手を受けている。


 襲撃なら絶好の機会だと俺は思っているのだが、安倍は首を横に振った。


「それだったらこっちの楽だったんだがなぁ」


 安倍の表情からして、どうやら厄介な問題があるらしい。


「うん・・・・帰れ」


「またか!?」


「うるさい!これ以上、俺の平穏が遠ざけられるのを黙ってられるか!ただでさえ――」


 俺の言葉を遮るようにして室内が揺れた。


 地震にしては少し揺れの具合が不規則でおかしいような?


「この揺れ、ただ事じゃねぇな」


 天井を睨みながら安倍が呟いた。


 あー、聞こえない。聞こえないぞ。俺はぁ。


『緊急の連絡をします』


 天井のスピーカーから声が聞こえてくる。


『緊急事態が発生しました。二年のDクラス教室付近へ近づかないようにしてください。繰り返します。緊急事態が発生しました。二年のDクラス教室付近へ近づかないようにしてください』


『石塚期成だと!?』


『懸賞金がかけられているテロリストじゃないか!』


『急いで治安維持局・・・・CGTでもかまわない、急いで通報しろ』


『学園長は!?』


『会議で第五地区へ赴いていまして』


『こんな時に!?とにかく、生徒の避難を優先的に――』


 慌てていた教員はスピーカーのスィッチを切り忘れたようで職員室の会話が聞こえてくる。


 スィッチ切り忘れるほど、慌てていたんだ。


 さて、俺も安全な所へ避難するとしますか。


「相馬ナイト、二年のDクラスとやらの教室はどこだ?」


「ん?確か三階の・・・・って、待て」


「なんだ?」


「お前、Dクラスへ行くつもりか?」


「当たり前だ」


「相手が誰かわかってるのか?」


「石塚期成だろ」


 何を馬鹿なという表情を安倍が向けてくる。


 俺としては無謀だろと思った。


 放送で告げていた石塚期成について、学生の身分の俺ですら知っているほどの危険人物だ。


 依頼のためなら周りの関係者など、手段を選ばず命を奪う。


 何より、標的が女性なら襲って、自身の快楽を満たしてから任務を完遂するという異常性が有名な犯罪者だ。


 Dクラスへ何故、その危険人物がいるのかわからないが、狙われている子は女であれ男であれ、不運としかいいようがない。


「そんな危険人物へ挑むなんて無謀だろ。てか、危ない橋は渡らない主義だったんじゃないのか?」


「確かに、危ない橋は渡らねぇ・・・・だがな!大金を前にして逃げるなんて事はしねぇんだよ!」


「わおう」


 安倍彦馬は危ない橋は渡らないがどうしょうもない守銭奴だ。


 石塚期成に大金がかけられていることはさっきの放送で言っていたのを聴いたのだろう。


 危ない橋は渡りたがらないが、金のためなら橋が潰れかけだとしても渡る。


 それが安倍彦馬という男だ。


 何度、アイツの都合に振り回されたことだろう。


「とにかく、状況を把握する必要がある。教室へ」


「てめぇだけで行け」


「おい、相馬なんとか」


「相馬ナイトです!ミミズクさん」


 名前を覚えられないミミズクへ叫んで訂正する。


 この人、未だに人の名前を覚えてくれてないのか。


 げんなりした俺へミミズクさんは携帯端末を突きつける。


「これ、やばいんじゃないか?」


 端末の画面にはどこかの掲示板サイトが映されていた。


 美少女の処女喪失!と書かれているタイトル。


「これが何ですか?どこにでもあるかと・・・・」


 卑猥な動画などネットの海で沢山流れている。


 いくつも取り締まっても膨大なネットの中では米粒の一つにも満たない。


 永遠のイタチごっこだ。


「これ、お前の学園の制服じゃないか?」


「え」


 ミミズクさんの言葉に驚いて、端末の画面を覗き込む。


 青いブレザーを着た男子が数人で女の子の服をひん剥いている。


 女の子は男子の力と数の差から抵抗むなしく五分も満たない内にシャツと下着だけとなっていた。


 画面を見た俺は言葉を失う。


 流れている映像の下には服を脱がされている少女の年齢、身長などが書かれており、ユーザー視聴が五万人突破した時点でレイプすると書かれていた。


 内容とユーザーのカウント数をみて、安倍が舌打ちする。


 既に三万人をカウントは記録していた。


 コメント欄では好き勝手な言葉が並んでいる。


「他人事だと思いやがって、これが本当のことだと誰も思ってねぇな」


「大方、ショーやPVの一種だと勘違いしているのだろう。男というのは本当にバカだ」


 顔をしかめる安倍と淡々と語るミミズクの横で、俺は拳を握り締めていた。


 そうしていないと、自分の中でうずまく怒りを抑えきれない。


「・・・・おい、相馬ナイト?」


「安倍、協力しろ」


「あ?」


 呆然としている安倍へ淡々と話す。


 怒りで顔が歪みかけているのをこらえながら協力を頼む。


 ただし、頭を下げるわけじゃない。


「取引だ。俺がこんなことをしでかしたヤツを殴り飛ばす。懸賞金は全てお前へくれてやる。変わりにこの画像やサイトをこの世から抹消しろ。手段は問わない」


「いいんだな?お前にはメリットがなさそうだが」


「俺のメリットならある。やるのかやらないのか?」


 にぃ、と安倍が笑い、手を出す。


「取引成立だ」


「よし」


「やれやれ・・・・男というのは厄介だな」


 差し出された安倍の手を叩く。


 その様子を見ていたミミズクが呆れたような顔をしている。


 俺達は目的地である教室に向かう。
















 問題のクラスの前は教師達の手によって立ち入り禁止にされていた。


 普通の生徒は立ち入ることが出来ない。


 だが、安倍彦馬は現職の二級捜査官だ。


 捜査官の証である手帳を見せたことで教師は離れる。


「相馬ナイト、安倍彦馬」


 呼ばれて振り返るとCGTの隊員服を纏った伊織が駆け寄ってくる。


「お前、ここにいたのか」


 現れた伊織を見て安倍は驚く。


「上からの罰として、ここの学園の生徒。それより・・・・この中に砂原沙織がいる?」


「あぁ、これからどうするか対策を練るところだ。伊織、CGTは――」


「別件で対応できない。私はここの生徒だったことから装備一式用意してもらい待機していた」


 伊織の足元にはCGTのロゴが入っているケースが置かれている。


 中身は想像するしかできないが弾薬などの類だろう。


「現状について教えろ」


「おい、安倍」


「構わない」


 上からの物言いに俺が止めようとするが伊織は気にする素振りを見せない。


「事件発生から三十分が経過している。学院の生徒達は体育館への誘導が開始されている。本局は慎重な対策が必要ということで捜査官の投入を躊躇っている様子がある。尚、教室を覆いつくしている植物に物理攻撃は通用しない」


「試したのか?」


 伊織はこくりと頷く。


 俺は壁の蔓を見る。


 何かをしたというのなら傷があってもおかしくない。


 だが、目の前の蔓は一度も傷ついたことがないと思えるほど、綺麗だ。


「拳銃、爆弾、ナイフ、火炎放射器、考えうる限りの事を行ったけれど、傷一つつかない」


「・・・・創造系の能力の可能性があるな」


「だとしたら厄介だな」


「創造系?」


「なんだ、それは」


 創造系のことを知らない伊織とミミズクさんが尋ねてくる。


「安倍」


「ちっ、能力者が使う力にはいくつかの種類があるだろ?その中でかなりレアなのが創造系にカテゴラズされている能力だ。それらは実在しないものを生み出すことができる・・・・有体にいえば、自分の中で想像したものを現実のものへと創造する能力。誰にも真似することが出来ない力だ。だが、それなら厄介だぞ。石塚が創造系の能力者なら不利になる」


「関係ないさ」


「・・・・お前、まさか使うつもりか?」


 安倍の質問へ俺は首を縦に振る。


「相馬ナイト、私も協力する。手伝えることはない?」


 俺達の間へ伊織が入ってきた。


 手伝えること、と聞いて安倍が鼻音を鳴らす。


「けっ!そういって俺達を背後からズドンするんじゃねぇだろうな」


「・・・・そんなことはしない。協力させて欲しい。私に、砂原沙織を助ける手伝いをさせて」


 信じようとしない安倍の言葉を横に、俺は伊織の顔を見る。


「一つだけ、伊織に頼みがある。俺が壁を壊すと同時に室内の人間の視力を奪うものを撃ってくれ」


「視力を奪う、だけでいいの?」


「そうだ。それを撃ち、少し遅れた後に俺が突入する」


「なら、これがお勧め」


 伊織はアタッシュケースの中から手榴弾みたいなものを取り出す。


 安全ピンみたいなのついているから手榴弾で、あっているか?


「CGT特製閃光弾。ピンを抜いてきっかり十秒で同じ空間内の人間の視力を奪える」


「おぉ~」


「あと、これを」


 伊織は俺へサングラスのようなものを渡した。


「これは?」


「閃光弾の光をカットできる。かけたら周りの把握が難しいから足元は注意」


 試しにサングラスを装着してみると、明るかった周囲が薄暗くなった。


 おまけに足元が見難い。


 気をつけようと心に決めて、残りのメンバーに作戦を話す。
















 周囲が真っ白に染まる。


 突然の事に石塚も、砂原を拘束していた生徒達も対応できない。


「(まぁ、予想していたことだけど)」


 目が見えないが石塚の周りには生み出した植物達がいる。


 彼が生み出した植物は普通の植物と異なり、自動防衛が設定されており、この植物の中にいる限り石塚の体に危険が及ぶことはない。


 その証拠に銃声が響いているが一発も石塚へ当たらない。


 石塚は笑みを浮かべたまま視力が回復するのを待つ。


 その時がくれば、侵入者を殺して中断した祭りを再開する。


 砂原沙織の泣き叫ぶ姿を想像して石塚の口の端が歪む。


 泣き叫ぶ女の姿ほどすばらしいものはない。


 石塚は女をいたぶることに快感を見出していた。


 いたぶるためならどんなことでも平然と出来る。


 それほどまでに狂った男、それが石塚期成だ。


「ようやく目が戻ってきた」


 教室内の状況が把握できるようになった。


 視力が回復した石塚の目が漆黒の拳を捉える。


 拳を認識したところで周囲の植物が動いて石塚を守る壁となった。


「無駄だって、そんな拳はぐぁえ」


 言葉が途中で詰まる。


 漆黒の拳が石塚の鼻を捉えた。


 小枝を踏んだような乾いた音が響き、石塚は植物の上から転がり落ちる。


――何が起きた!?


 コンクリートの破片が散らばっている床へ倒れながら石塚は気づく。


 どくどく、と熱いものが口元を濡らしている。


――なんだ、これ?


 石塚は指で流れるものを触った。


 彼の指は血で真っ赤に染まっている。


 どうして、血がついているのか?


 その考えに至ったところで、石塚は理解する。


――殴られた!?


「それで?」


 頭上から投げかけられる声に顔を上げた。


「何が無駄なんだ?」


 無表情に漆黒の腕を動かし告げる相馬ナイト言葉に石塚の思考は真っ白になる。


 白に染まってから、どす黒い感情へ切り替えていく。


――殺す。


――傷をつけたコイツは殺す。


 石塚は植物へ目の前の男を殺すよう指示を出す。


 植物は命令どおり、先端を鋭利なものへと変えて相馬に迫った。


 体を貫かれて惨たらしい死体が一つ出来あがり、それが石塚の予想だ。


「邪魔」


 迫る凶器を相馬ナイトは左手を振るう。


 虫を払うような仕草さ、それだけなのに迫っていた植物達が根元から消滅した。


「なっ、はぁ!?」


 予想した結末と違う展開に石塚は戸惑った声を漏らす。


 何が起きているのかわからない!と目が語っている。


 そんな石塚を無視して相馬ナイトはゆっくりと近づく。


 自動防衛で植物達が攻撃を仕掛けるが、直撃しない。


 当たるところで根元から消え去ってしまう。


 石塚が植物へ指示をすれば、全ての敵は消え去った。


 邪魔するものなどいない。自分は最強だ。


 歯向かう者は全て消した。


 最強の能力だからこそ、石塚は好き勝手なことをしてきた。


 だが、これはどういうことだろうか?最強を誇っていた植物達は根元から消滅していき、石塚を守るものは残り僅か、少しで乱入者との距離が詰まる。


「動くな!」


 混乱しながらも石塚は未だ冷静だった。


「う、動けば、そこにいる生徒達を皆殺しにするぞ!いいのか!お前はそいつらを助けにきたんだろ!」


「・・・・何を言っているんだ?」


「は、はぁ?だから生徒を」


 半ば、声が震えている石塚へ相馬ナイトは無表情で尋ねる。


「その生徒は、どこにいるんだろうな?」


 相馬ナイトの指摘でようやく石塚も気づく。


 さきほどまで教師が壊れたり、人が死ぬたびにあがっていた悲鳴がない。


 目の前の男が姿を見せた時から悲鳴やざわめき声すら聞こえなくなっていた。


 異常と思える静かさに石塚は周りを見る。


 十人以上はいた生徒達の姿が一つもない。


 教室には自分と目の前の男しかいない。


「な、なぜ!?」


 混乱している石塚へ相馬ナイトが近づく。


 無表情に近づいてくる姿に恐怖しながら石塚は次の手を投じる。


「おれ、俺に手を出したら大国が黙っていないぞ!!」


 石塚の言葉にぴたり、と立ち止まった。


 その隙を突くように舌を動かす。


「お、俺は大国の姫君と婚約関係にあるんだ!い、いいか!俺に何かあれば大国は黙っていない。最悪、せ、戦争になることになるぞ!」


 何かを逡巡するような相馬ナイトの態度に石塚は心の中で笑みを浮かべた。


 ウソは言っていない。大国の姫君と婚約関係にあることは事実だし、トップとの関係も親密なものといえる。


 ただし、自分の能力で脅して手に入れたものだという前置きを話していない。


 ボックスシティは独立した街だが、大国から常に狙われており、能力者確保のためスパイなどが侵入している。


 大国のスパイが石塚の死を認知した途端、ボックスシティへ戦争を仕掛けるだろう。


 自分が死んでも大国に植えておいた植物が脅しをかける。


――俺は、まだ死ぬことはない!


 大国というアドバンテージをもっていることで石塚は優位に立てる。


 最強のカードを切ったことで自分の身は確立したと考えていた。


 それが、間違いだということを最後まで気づかないまま。


「そうか、それで?」


「は・・・・?」


 大国の後ろ盾があると聞いたものは罰の悪そうな、目を見開いて動きを止めていた。だが、石塚の前にいる男は無表情のまま近づいてくる。


 残りの植物達が攻撃する前に消え去った。


「お、おい!わかっているのか!俺が死んだら」


「今日、この学院へ不審者が侵入した」


「は、はぁ!?」


「その不審者は学園の倒壊事故、ガス爆発に巻き込まれて、顔や指紋が判別できないくらいぐちゃぐちゃになってしまう」


「な、何を!」


「さて、その死体の名前はどこのだれなんでしょうねぇ?」


 無表情の男がその時になって笑みを浮かべる。


 三日月を連想させるような表情へ石塚は理解した。


「お、おい!や、やめろ!」


 伸びてくる手を払いのけようとした。


 その瞬間、二の腕から先の感覚が消える。


「お、俺のうでぇ!?」


 動かした手が消えた。


「なんで、どうして!」


 混乱しながら伸びてくる手から逃げるように後ずさった。


 しかし、狭い教室だ。すぐに端にぶつかる。


「な、なぁ、見逃してくれよ!頼むって!俺は依頼されただけなんだよ!?砂原沙織を襲えって!そ、そうだ!依頼人の名前を教えてやるよ・・・・ご、後生だから見逃して」


「遺言はそれだけか?」


 死神は遺言を聞き届けて尋ね返す。


 感情を映さない瞳が石塚を捉えて離さない。


「ひ、はぁ・・・・ひ、ひ!」


 今まで襲う側だった石塚は目の前に立つ、狩人に心の底から恐怖した。


 呂律の回らない舌を動かして命乞いを続けるが、前にいる男は一切の同情を見せない。


「醜い言葉を聞くのも飽きた、そろそろ――」


 消えろ、と右の拳が石塚の顔を抉る。


 殴られた時に口の中から数本の歯が飛び出し、床の上をバウントした。


 ごろごろと転がったところで、動きが止まる。


 血と混ざった唾液を零しながら石塚は意識を失っていた。


「この程度で許してやるよ。ゲスが」



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