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悪意の遊戯

「この中に砂原沙織はいるかぁ?」


 窓を壊して侵入してきた男へ生徒の誰もが困惑している。


 男はボサボサの髪をいじくりながら生徒の顔を見渡す。


「だ、誰なんだ、お前!」


 近くにいた生徒の一人が困惑しているという顔で男へ叫ぶ。


「・・・・うーん」


 男は叫んだ男子生徒をみてから、指をならす。


 すると、侵食していた蔓が枝分かれして小さな蔓が生まれる。


 小さな蔓はその男子生徒のほうへ伸びると、ばっさりと胴体を真っ二つに切り落とした。


「ぎぃゃぁああああああああああああああああああああああ」

 この世のものとは思えない悲鳴を上げて男子生徒は両手をばたばたと動かす。


 切断箇所から床が真っ赤に染まっていく。


 苦痛で顔をゆがめ、涙や鼻水でぐしゃぐしゃになっている男子生徒をみてから男は告げた。


「こーなりたくなかったら、俺の言うこと聞いてね、きひひ」


 少し遅れて、パニックを起こした生徒達はわれ先へ廊下に避難しようとする。


 しかし、廊下へ踏み出そうとしたところで床から蔓が飛び出して壁となり、逃走を阻む。


「だーかーらー、俺の言うこと聞いてねって、いったのに・・・・きひひ」


 男が指を鳴らすと壁となっている蔓の一部が刃のように鋭くなり、壁にいた生徒達を串刺しにしてしまう。


「きひひ、これ罰だから、あ、変な動きしたら殺していくつもりなので、そのつもりで」


 脅しではなく本気でいっているということがわかり、生徒達は沈黙を貫く。


 しかし、全員が恐怖で怯えている。


「そういえば、名乗ってなかったね。きひひ。俺は石塚期成〈いしづかきせい〉っていうんだよね」


 不気味な声を漏らしながら男、石塚期成は名乗る。


「(石塚、期成!?)」


 困惑する生徒達の中で、唯一、砂原は男の名前を聞いて体が凍りついた。


 本局のデータベースに登録されていた要注意人物の一人だ。


「俺さ、一応、テロリストっていうの?そういう枠組みの中にいる存在なんだよねぇ。だからさ、色々なことを平気で出来るわけよ。殺人、強姦、誘拐、強盗とか、悪事一通り手を染めてきているわけで、君達みたいな餓鬼殺すのもためらいないわけよ。きひひ、でもさ、一応、俺は大人なわけだから、言うこと聞いてくれたら殺さないよぉ」


 ニコニコと笑みを浮かべているが「いつでもキミら殺せるから」と暗に脅していることは明白だった。


 突然の状況に誰もがパニックを起こしている。


 その中で砂原はどうすればいいか、考えていた。


 戦闘デバイスなどの武器はない。


 相手の能力、不明。


 応援、望み薄。


「(最悪すぎます・・・・)」


 砂原一人ではどうすることもできない。


「(烏丸さんもいないし)」


 余談だが、烏丸は生徒達の逃走に巻き込まれて廊下の外に放り出されてしまっていた。


 入り口や全ての窓は大量の蔓に覆われた。先ほど、天井のスピーカーから慌てた教師の会話の内容が聴こえたことから応援も期待できない。


「きひひ、そろそろ本題に入ろうか、さっきもいっていたけれど、この中に砂原沙織という子はいる?」


「砂原?」


「そんな子、いたっけ?」


「いや、覚えないけれど」


「きひひ、いるなら大人しくでてきてくれるかなぁ?」


 石塚の言葉に生徒達は困惑しながら互いの顔を見ている。


 砂原はどうするか悩んだ。


 相手が自分を求めている理由がわからないので無闇に正体を明かすのは危険かもしれない。


 反応が無いことに石塚はため息を漏らした。


「仕方ない、ここにいる生徒を何人か殺すか」


 殺す、という単語を聞いて生徒達の中から悲鳴があがる。


 その悲鳴を聞いて、石塚は面倒そうな顔を浮かべた。


「じゃあさ、はやく見つけ出してよ。でないと、適当に」


「待ってください!」


 砂原は声を上げて前へ出る。


 生徒達が左右へ道を譲るように離れた。


 石塚は近づいてくる砂原を品定めするようにみる。


「キミが砂原沙織?」


「・・・・はい」


 全身を嘗め回すような視線に鳥肌が立ちながらも向かい合うように石塚と対峙する。


「ふーん、写真のとおりだねぇ、きひひ」


「っ!?」


――顔を知られていた!?


 ポケットから写真を取り出して眺めている石塚へ目を見開いてしまう。


 わかっていて、殺すというブラフを立てたのだとしたらとんでもない人物だ。


 砂原の反応を楽しんでいた。


「まぁ、わかっていたけれど・・・・どうやらこのクラスメイトはキミへ何かの感情を抱いているというわけではないみたいだ。ほーほーほ、これは面白いことを思いついたぞ」


「何を、そもそも、どうして、こんなことを!」


「ん~~。まぁ、理由は色々あるけれど、とりあえず、こういうことをしたいからなんだよねぇ」


 砂原の質問をはぐらかしながら石塚は蔓を操ってどこからか撮影用のカメラを床へ置く。


 カメラが用意された意図がわからない、砂原へ石塚はいやらしい笑みを浮かべる。


「ネットの海へお前が犯されるところを公開してやんのさ」


「・・・・ぇ」


 石塚の言葉を砂原は理解するのに遅れた。


 自分の予想を超えた事態に流石の砂原も戸惑う。


 思考がうまく回らない。


「ほら、そこの男子達、捕まえて制服をひん剥けよ」


「「・・・・」」


 指定された男子は戸惑うが、蔓が自分達へ向けられているのに気づくと顔をゆがめて砂原を地面へ押し倒す。


「うっ!?」


 抵抗しようとするが男子生徒二人の力が強すぎて制服を引き剥がされてしまう。


 乱暴に制服を破かれて、両手を押さえ込まれた砂原をみながら石塚は笑う。


「きひひ、どいつもこいつも自分の身が大事みたいでちゅねぇ~。まぁ、知っててやらせてんだけどなぁ!」


 石塚は最初の行為で、砂原とクラスの人達との間に友情やそれらに近い感情が無いことを見抜いていた。


 見ず知らずの為に命を投げ出すものなどそんなにいない。

誰もが自分を大事にしている。


 だからこそ、人は自分を守るためなら容赦なく他人を切り捨てる。


 そう、目の前の砂原という生贄を捧げることで身を守ろうとしているのだ。


 目の前の砂原は男二人へ抵抗できずシャツと下着だけの姿が晒されてしまう。


「きひひ、人間って言うのは面白いよなぁ、こういうものを配信するだけですぐに興味を示す」


 手の中の携帯端末を見て石塚は笑い声を漏らす。


 服を脱がされた砂原が抑え付けられている姿をネットに流しているだけで、多くの人間がその様子を自身の端末から見ている。


 付け加えるのならタイトルが問題なのだろう。


 “処女喪失生配信”という言葉に誰もが興味を寄せて、見ている。


 ネットの中ではやらせ、何かのPVと勘違いしたユーザーが集まっているのだ。


「おうおう、既に二万人突破ですかぁ・・・・これはこれで面白いなぁ」


「・・・・なんで、なんで、こんなことを!」


 下着姿の砂原が抑え付けられたまま石塚へ問いかける。


 人を殺して、今度はネットで自分を犯すということを告げられながらも砂原は尋ねた。


 どうして?という疑問が彼女の中を埋め尽くす。


「そうだな。五万人になるまで処女は持っておいて貰うとして、どうせだからコメの要望にこたえてもらうとしますかねぇ」


「え?」


「カメラの前で四つんばいになれ」


「な、なんで・・・・」


「あーん?出来ないって顔だなぁ・・・・仕方なーい、ここにいる誰かに犠牲となってもらうとしますかぁ、とりあえず三人くらい殺すとしますかねぇ」


「い、いや!私、まだ死にたくない!だ、誰でも良いからそいつを無理やりでもいいからやらせてよ!」


 石塚と目が合った女子の一人が半ば悲鳴を上げる形で叫ぶ。


 砂原は驚いてその生徒を見る。


「わ、私はまだ死にたくないの!そんなヤツどうなってもいいから!」


「そ、そうよ」


「そこにいる女のせいでこうなってんのよ!?私達・・・・か、関係ないじゃない!」


「大体、気に食わなかったのよ。転校生だからって男子にちやほやされてさ、調子に乗っているからこんなことになるのよ!」


「私は・・・・別に」


 自分へ向けられている感情を砂原はどうすればいいのかわからない。


 そんな彼女へ石塚は最悪の言葉を投げかける。


「きしし、じゃーあ、ここは多数決で決めるというのが無難じゃないかねぇ、砂原沙織とやら犠牲にして自分達が助かるか、こいつを助けて、自分が死ぬか、賛成なら手をあげろ」


 非難した女子生徒をはじめとして、ほとんどの手があがった。


 中には犠牲として助かることに罪悪感を覚えているのか手をあげていない生徒がいる。


「きしし、過半数に満たない場合は皆殺しな」


 石塚の言葉に残りの手も全てあがった。


 元々、多数決などに意味は無かった。


 この場を支配しているのは石塚一人、逆らうものは命を差し出さなければならない。


 そんな最悪な場所と化していた。


「じゃー、やれ」


「や・・・・やめて!」


 石塚の言葉に男子生徒達が砂原を後ろから抑え付ける。


 抵抗しようとするが、彼らが着ていた服で手を縛られて逃れられない。


 暴れる砂原は男子生徒と目が合う。


――死にたくない。


――生きたい!


――殺されたくない!


 彼らの目は恐怖で怯えていた。


 それともう一つの感情に包まれている。


――コイツを犠牲にすれば助かる!



――悪いのはコイツだ。


 自分達は関係ない、全ては砂原沙織という少女が招いた事態だという無関係を装うとする。


 全て、自分達ではない、石塚と砂原という二人の人間が悪いという他者へ責任を押し付けて逃避する。


 少しでも自分を守るべく。


 その事実に自分はどうすればいいのか砂原はわからない。


 無理やりポーズをカメラの前で取らされる砂原は堪えることしか出来なかった。


「おーおー、三万へ一気にはねあがったねぇ・・・・この調子なら五万人いくのもあっという間かもしれないねぇ~」


 石塚の言葉に砂原は何もいえない。


 許さないと叫べばいいのかすら、わからなかった。


 頭がぐちゃぐちゃで思考がまとまらない。


「・・・・私が」


 誰かに聞こえるか怪しいほどの声で、砂原は呟いた。


――私が悪いの?


 自分がこのクラスへ足を踏み込んだから、こんなことになった。


 ここにいたことで、彼らを巻き込んだ。


 全ての責任は自分にある。


「さてさて、次はそうだなぁ~」


『楽しそうだなぁ』


 楽しそうにこちらを見下ろしている石塚の笑みが固まった。


 蔓で覆われている壁が消えた。


 壁が音を立てずに消えた向こうで何かが煌く。


 空気を切り裂くような轟音が響いた。


 悲鳴と蔓が飛び散る中を一人の少年が姿を見せる。


 拘束されている砂原はその少年を見て、驚きの表情を浮かべた。


「俺も、混ぜさせてもらおうか」


 左腕を漆黒の鎧に身を包んだ相馬ナイトが姿を見せる。


「ただし、俺主催のゲームだけどさ」


 教室が真っ白に染まった。


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