情報収集!
神様は俺の事が嫌いか、呪い殺そうとしているかのどちらかなんだろうか?
王国学院に転校してそろそろ一週間になろうというこの時期、俺の体は既にボドボドだった。
朝、おきて学食へ行けば金髪に絡まれて能力でボコボコ、医務室へ。
HRが終わり自習の始まりになると、カッターナイフを手にカラスが空を舞い、机を盾にして砂原との喧嘩騒ぎ勃発、巻き込まれて医務室へ。
昼、話しかけてくる金髪から逃げる砂原、いちゃもんを金髪につけられてボコボコ、医務室へ。
夕方、半壊している教室から撤退する途中で砂原に話しかけようとする他の男子登場、低調に彼女がお断りしたら原因は俺にあるといって能力や暴力による攻撃!医務室へ。
夜、疲労を感じすぎて医務室でそのまま睡眠。
「あれぇ、必ず最後は医務室へ行っている気がする」
もう一度、一日のサイクルを振り返ってみるが、どういう選択肢を取っても俺は最終的に医務室で寝ている。
「一回くらい、自分の部屋で寝たいなぁ・・・・」
先生から寮の部屋の鍵は渡されているが、一度も足を運んでいない。
いつも妨害が入って医務室ルート。
難易度高いゲームでもこれは酷い、売れば赤字間違いなしだ。
ありえないくらい医務室ルートの俺だが、不思議と今日は一度も医務室へ運ばれていない。
それどころか砂原とも遭遇しない。
普通なのにどこか違和感を覚えている俺に呆れてしまう。
「どう思う?伊織」
「・・・・慣れというのはおそろしい」
「そう思うなら助けてくれよ!?何で砂原がいないときにしか姿を見せないのさ!」
「・・・・」
「無言!?」
「・・・・砂原沙織へ合わす顔が無い」
「は?」
伊織は小さく呟くと俺から視線をそらす。
無表情な彼女には珍しく戸惑いの色が浮き出ていた。
「あの時、私は安倍彦馬の手によって命を落とすはずだった。けれど、彼女に助けられた」
「そうだったな」
ホワイト・セントラル手前で、伊織は狙撃を“ミス”してしまい、安倍に敵と疑われて殺されるはずだった。
それを助けたのは砂原沙織だ。
伊織は彼女へ恩を感じているのか。
「あの時、死ぬはずだった私は今も生きている。これからどうすればいいのかわからない」
「それとアイツと顔合わせることに抵抗があるってのがわからないんだけれど」
「今の私は生きているけれど死んでいる。生きる目的が無い」
――だから、会えない。
伊織は顔をそらす。
「まぁ、お前がそういうなら追求やめるわ。たださ」
「?」
「生きる目的なんで勝手にみつかるもんだと、俺は思う」
「・・それは」
俺は答えることが出来なかった。
どこからか飛んできた椅子が俺の後頭部へ直撃、意識を失ってしまう。
久しぶりにカッコイイ事言えたと思ったのに、台無しだ。
▼
「お淑やかさや協調性という言葉は頭に無いのか?」
飛んできた椅子を投げたのはカラスだった。
どうやら他のクラスの連中に絡まれ椅子を振り回した時にすっぽ抜けたとのことだ。
ボロボロのFクラスの教室にて壊れてもおかしくない教卓を叩きながら五十六先生がため息を零す。
俺、砂原、烏丸の三人は床で正座をしている。
何故、正座かというと、椅子と机は潰れた。
察してくれ。
五十六先生はボロボロの教室を見て、呆れたように手を頭へのせる
Fクラスの教室は今まで以上に壊れていた。
朝方に補修作業が終わったのだが、昼ごろ、カラスと砂原の二人が大喧嘩をしたのだ。
喧嘩の理由は俺の購入した菓子パンをカラスが奪ったこと、それを抗議した砂原の話を聴かなかったこと、実に下らない。
パンなんて買えば良いのに、という俺の言葉を聞かず砂原はカラスへ説教を、カラスは砂原を挑発し、喧嘩が発展した。
これだけならありきたりな喧嘩で終わるのだが、今回はカラスが「相馬、放課後、ワッチと付き合え」と言った瞬間、砂原がマジギレした。
どこにキレる要素があったのか今でもわからない。
だが、本気で怒った砂原と楽しげに飛び回るカラスの手によって教室は今まで異常にボロボロになった。
「いくらクラスの修復速度が速いからって、ここまで壊していい理由なんか一つもないんだぞ。烏丸、砂原、わかったか?」
「はい」
「へーい」
反省している様子の砂原とそれらしき素振りを見せない烏丸の二人を見て、五十六先生はぶつぶつと文句を呟く。
「関係ないという顔をしているがお前にも責任はあるぞ?相馬」
「え?」
責任?
「このクラスにおいて委員長はお前だぞ」
「ち、ちょっと待ってください!委員長ってどういうことですか!?そんなもの立候補した覚えも聞かされた覚えもないんですけれど!」
「そりゃ、そうだ。学園長の指示だからな」
「学園長ォ!」
敵は学園長室にあり!
早急に撃たねば。
「教室を出て行こうとするな、まだ話の途中だぞ」
「ぐぺ!」
無理やり正座させられる。
「全く、こんな調子でカーニヴァルを乗り切れるのか心配だな」
「・・・・カーニヴァル?」
知らない単語が聞こえて俺は疑問の声を漏らす。
砂原が説明してくれる。
「カーニヴァルは能力測定の期間のことをいいます。学院側が把握している系統能力に生徒を分類し、能力の測定を行います。」
「・・・・それのどこが、カーニヴァルなんだ?普通に能力測定といえば」
「カーニヴァルの後半、模擬戦闘が行われる」
「戦えんの!?」
五十六先生の説明にカラスが身を乗り出す。
退屈そうにしていた顔はキラキラと輝いている。
尻尾があればぶんぶん動いているだろう。
そして、と五十六先生の話は続く。
「模擬戦闘の結果次第じゃ、治安維持局の任務へ参加する権限が下されることがある」
低ランクだけどな、という話を聴いて、俺の頭の中では早々に戦闘で負けようと考えた。
俺が望むのは平穏な生活であり、隣で犬みたいに興奮している子みたいに戦闘狂というわけではない。
よって、早々に負けて平穏な生活を手に入れよう。
平穏を望んでいるというのに。
「やりましょう!全てのクラスに勝利して任務参加権限を手に入れます!」
「殺しがい・・・・殺れる機会があるなら存分に暴れるぜぇ!」
俺はやる気がないのに対して両隣は全身からやる気という名の感情が炎上しております。
この炎の鎮火は不可能だ。
「やりましょう!相馬さん!」
「殺らせろ!相馬!」
「・・・・」
もう、嫌だ。
好戦的な二人の態度に俺の精神は悲鳴を上げる。
「まぁ、このクラス、人数少ないし、Aクラスの能力者は化け物だらけだから、早々勝てることはねぇと思うが・・・・」
教壇で五十六先生が呟いていたが、燃えている二人には届かない。
「燃えてきたぜぇ!」
「私、カーニヴァルの情報を集めてきます。相馬さんはここで待っていてください」
暴走列車のごとく、砂原さんとカラスの二人は教室から飛び出す。
まだ授業中なんだけどなぁ、と五十六先生が漏らす。
無言で自習の為に計算ドリルをはじめる。
「お前、不幸だなぁ」
「言わないでください」
「まぁ、しっかり自習してくれそうだし俺は失礼するわ」
「教師として、それはどうなんですか?」
「だって人間だもの」
「真顔でいいやがった!?」
じゃーなー、と手を振って五十六先生は部屋から出て行った。
出て行くときにポケットの中からライターと白い箱がみえた、生徒の前で見せるなよ。
「まぁ、教室が静かになるからいい――」
「相馬ナイトォ!」
「帰れ、この野郎!」
教室のドアを壊して侵入した安倍へ手にあったシャーペンを投擲する。
ぎりぎりのところで安倍はシャーペンを回避した。
「何しやがる!」
「うるせぇ、俺の平穏を遠ざける怨敵がぁ!ここで息の根を止めてやらぁ!」
「わけがわからねぇ!?」
目の前の敵を殲滅するべく、定規、コンパスなどを手に襲い掛かる。
向こうは戸惑いながらも傍にあった机で防いだ。
「帰れ!今すぐ帰れ!俺の平穏をこれ以上奪うな!」
「わけわかんねぇこといってんじゃねぇよ!?」
「うるさい、うるさい!転校初日を医務室で迎え、フールクラスとか、スキルカーストだかわけのわかんねぇことに巻き込まれて、さらに、砂原や烏丸が連日連夜喧嘩することに巻き込まれて医務室で過ごす俺の気持ちがわかるか!?これ以上、厄介ごとで俺の平穏を叩き潰されて堪るかぁああああああ!」
「こ、この俺が力負けしているだとぉ!」
「消えろ、俺の前から、光となって消え去れぇぇぇぇぇぇぇぇ」
「ば、バカなぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
定規で安倍の顔をフルスイングする。
ベチィンと定規が乾いた音を立てて折れるが、勝利の代償と思えばいい。
地面へ崩れ落ちた安倍に俺は勝利宣言する。
▼
相馬ナイトが安倍と平穏をかけた勝負を挑んでいた頃、砂原沙織は烏丸憂と一緒にDクラスへ足を運んでいた。
右といえば左、白といえば黒、意見の合わない二人が一緒に行動している理由は至って簡単、近々開催されるカーニヴァルの情報収集だ。
カーニヴァルは能力測定をメインとしているが、測定を終えたら各クラスごとによるバトルロワイヤルが行われる。
好成績を残したクラスの能力者は本局の捜査官の仕事を協力できる権限が与えられる。“元々”捜査官である砂原としては何としても優勝するつもりでいた。対する烏丸はというと強者と戦えることに喜びを見出していた。
目指すものは違うが、勝利するという点で一致しており、普段、喧嘩している二人は一時的な協力体制により情報収集をしていた。
二人が積極的にカーニヴァルへ挑む姿勢だが問題がある。
カーニヴァルの内容を知らない。
烏丸は今までまともな学校生活をしていない、砂原は捜査官として全てを捧げるような毎日だったことから、カーニヴァルなんていう催しがあったことすら認知していない状態。
そのため、二人は他のクラスの生徒から情報を集めようとしていた。
「しかし、何で、D?AやBの方がええと思うけれど」
「これから戦う相手の情報を集めるんですよ?難敵であるクラスの人達が教えてくれると思いますか?」
「それならどこのクラスも同じじゃろう」
「AやBと比べるとDやEの能力者の数が比較的少ないんですよ」
「は?」
「この学院では能力が強力で使いこなせている人ほどAやBに振り分けられます。それと比べるとDやEクラスの能力者達の数は少ないですし、一般生徒が多い分情報を多く得られるかもしれません」
「へぇ~、考えてんだなぁ」
スキルカースト制度のことを砂原は知らないが能力者の振り分け方については以前、長嶺学園長から教えてもらっている。
A~Cクラスに能力者が多く、D~Fクラスは能力者よりも無能力者の数が多い。
これから砂原達がカーニヴァルで優勝を目標とするなら戦う相手はA~Cに視点を置くことが重要だ。
カーニヴァルや他のクラスの情報が圧倒的に不足しているFクラスが勝利するには情報が鍵となる。
DやEも優勝を狙っている可能性が高いが、情報を得るなら能力者の数が近いクラスから聞き出すほうがいい。
そう考えた上での行動だった。
「あの・・・・すいません」
Dと書かれているプレートの教室が見えて二人は止まった。
教室の扉を開けて砂原と烏丸の二人が近くの生徒へ呼びかける。
談笑をしていた男子生徒が振り返り、驚いた顔をして砂原へ近づく。
「なん、でしょうか?」
「あ、私、砂原というんですけれど、近々、行われるカーニヴァルの情報を集めているのですが、何か教えてもらえないでしょうか」
「それなら自分のクラスで・・・・」
「ワッチらで知っている人が少ないんだよー」
「は?」
「あ、すいません。実は私達、今年、転校してきたばかりで行事など疎いんですよ。教師もあまり情報を教えてくださらないので、こうして聞きまわっているんです」
なるほど、という顔をして生徒は少し考えてから、
「まぁ、ありきたりな情報とかなら話せるけれど・・・・」
「お願いします!」
砂原の態度にその生徒は面食らいながらもカーニヴァルの情報を伝えてくれる。
カーニヴァルは全クラスの能力者同士によるバトルロワイヤルのようなもの、開始前に教師から渡されたマーカーに傷がつけられる、戦闘続行不可能と審判員がジャッジすれば敗者即ち失格となり、制限時間内に生き残っている生徒数で優勝を競い合うというもの。
「あの、去年のカーニヴァルで優勝したのって」
「当然Aクラスだよ。あそこは数が多い上に強いやつらが沢山いるからなぁ」
「はぁ・・・・」
「アンタ達、優勝を狙っているみたいだけれど、やめといた方がいい」
「ンだと」
「それは!どういった意味でしょうか・・・・」
相手に突っかかろうとした烏丸を抑えて砂原は尋ねる。
「Aクラスの面子は能力にモノを言わせるようなヤツばっかりだ。カーニヴァルでも合法的に能力でいたぶれる、去年のカーニヴァルでCクラスにいたヤツが再起不能になるまで追い込まれて、能力不安定になったとかいう話もあった」
――だから、やめた方がいい。
遠まわしにそういわれていることに砂原と烏丸の二人は気づいたが、あえてスルーした。
「情報ありがとうございます。私はこれで――」
「おい、あれ、なんだ!?」
廊下へ出ようとした砂原は生徒の一人の叫びに視線を向ける。
男子生徒が教室の窓を指差していた。
驚きの表情で「あれ!」と騒いでいる。
騒ぎに周りの生徒達も窓へ集まる。
少し気になり、人ごみを掻き分けて窓の方へ向かう。
窓の外では学園を守護している石像と巨大な植物の蔓が戦いを繰り広げていた。
石像は槍や手で蔓を引きちぎっているが、千切っても、千切っても蔓が増える。
次第に蔓が石像に絡み付いていく。
ビシシと巻きついた蔓によって石像のいたるところに亀裂が入る。
壊れる、という一歩手前になったところで蔓の動きが止まった。
石像は体を動かそうとするが、関節が蔓で破壊されており、動けない。
「なんだよ、あれ」
「襲撃?」
「え、うそ!」
「おい、あそこに誰かいるぞ!」
動かなくなった石造を見て、傍観していた生徒達の声が次第に大きくなる。
その時、生徒の一人が叫ぶ。
校門からゆっくりと校舎に向かってくる人影があった。
遠すぎてはっきりとわからない。
どうするか、とざわめきだしている生徒達だったが、教室が揺れて悲鳴があがった。
窓の外から巨大な蔓がじわじわと侵食していた。
その蔓の上に人が乗っている。
教室へ入り込んで男は笑みを浮かべて、口を開く。
「この中に砂原沙織はいるかぁ?」




