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再び遠ざかる平穏


 本日、二回目の医務室での目覚めだ。


 医務室の担当の先生はそんな俺へ呆れたような珍しいものを見るような視線で「退院許可!」と額を叩いて追い出した。


 しかし、酷い目にあったものだ。


 体がビリビリと痛い。全身筋肉痛になった気分。


 転校初日はクラスの騒動によって一日医務室、二日目は砂原と食堂で楽しんで?いたら金髪に絡まれてボコボコにされて医務室へ。


 あれぇ、過去を振り返ったら医務室で過ごしている時間の方が多いぞ。


 このままだと医務室が俺の自室になってしまうのではないだろうか。


「・・・・で、何やってんの?伊織さん」


 目の前の廊下の片隅、こそこそと伺っている彼女へ俺は尋ねる。


 伊織汐、


「クラスメイトの様子を見に来た」


 人形のように表情を変えず、彼女は喋る。


 少し前に源管理官のヤツが引き起こした本局襲撃事件において俺達と協力したCGTの隊員なのだが、どういうわけか王国学院の制服を着ている。


「もしかして、ここの生徒だった?」


「違う」


「じゃあ、任務?」


「違う」


「えっと・・・・」


「罰で転校させられた」


 本局襲撃事件の最中に伊織は標的への狙撃を“失敗”してしまい、俺ともう一人の仲間へ怪我を負わせるという失態を犯していた。


 彼女の言葉から察すると、その罰で王国学院へ転校させられたということだろうか、だとしたら罰のためでここまでやらすって、本局、エイレーネの権力の底のなさを改めて実感した。


「ん・・・・クラスメイトってことは」


「Fクラス」


 伊織は襟元についているFと書かれたバッジを見せる。


 知り合いが三人もFクラスにいるって、悪意か誰かの陰謀を感じるんだけれど。


「噂でAクラスの指導を受けたと聞いた」


「指導?能力使っての一方的な暴力のどこが指導だって言うんだよ」


「この学院では日常的」


「は!?」


「・・・・何も聞かされていないの?」


 無言で頷くと、伊織は説明してくれた。


 この学院は能力者の育成も目的としており、A~Fのクラスはランク付けのような役割を持っており、Aは能力を使いこなせて強い、いわゆるエリートばかりが集い。逆にFクラスは能力に問題、使いこなせないという劣等性が振り分けられている。


「Fは別名フールと陰口でいわれている」


「なるほど、だから愚者だとか屑とかいわれるわけか、それにしても教師は何も言わないのか?」


「教師のほとんどが無能力者で報復を恐れて手を出さない。能力者の教師は余計に煽ってる」


「なにそれ」


 悪循環しているにも程があるぞ。


 能力が堂々と使われている点で普通のイジメよりも性質が悪い。


「スキルカーストという制度があるという噂も」


「あー、聞きたくない!聞きたくない!これ以上は聞こえない~」


 人間の負の感情ばかり見せられたら俺の望む平穏な生活が遠のいてしまうばかりだ。


 てか、この学院きてから平穏の二文字をお目にかかれていないぞ!?


「・・・・そう」


「頼む、その哀れな子羊を見るような目をやめてくれ」


 伊織の慰めるような視線によって平穏がまた遠くへ行った様な気がする。


「・・・・クラスメイトって言ったけれど、朝、伊織の姿を見なかったぞ?」


「CGTの任務で出動していた」


 伊織汐はボックスシティ治安維持局のCGTに所属している。


 CGTは街の治安を守る役目を担っており、朝から出動ということは事件が起こったということだろう。


「違法研究施設の摘発があった」


「そらまた、大変な任務だな」


 ボックスシティでは能力者が当たり前に存在しているから忘れがちだが、能力者の数は希少だ。故に各国は能力者という戦力を入手するために人道的観点を無視した研究に手を染める連中も少なからず存在している。ボックスシティでは外からやってきた連中が秘密裏に研究施設を設けていることがあり、これの摘発はCGTの管轄となっている。


 少ない捜査官より、人数の多いCGTの方が摘発などにおいて優秀だ。


「一応、教えておく。違法研究の内容はインフェルノウィルスを用いて突然変異を起こした動物と能力者との融合」


「融合?」


「文字通りくっつく」


 簡単に説明してくれたが、荒唐無稽な話だった。


 インフェルノウィルスは無能力者を能力者へと覚醒させる目的で作られたウィルスなのだが、毒素が強すぎるため能力覚醒など皆無に等しく、覚醒できたとしても数日で命を落とす最悪な代物だ。


 そんなものを投入した動物と能力者が融合などしても死者が増える結果に終わる。


「施設内は死体で満ち溢れていた・・・・ただ」


「ただ?」


「空になっていたカプセルが一つ見つかった。元々空だったのか、中身が逃げ出したのか捜索中」


「・・・・あのさ、教えてくれるのはありがたいんだけれど・・・・話していい内容なのか?」


「・・・・」


 気になって伊織へ質問すると沈黙で返された。


「話してはいけない、内容って事?」


「肯定」


「のぉぉぉぉぉぉおおお!?」


 聞いてはいけない内容を教えられたということは巻き込まされる危険が高くなった。


 神様がいるとするなら、俺へ何か恨みでもあるのか!?


 学院へ入ったらスキルカーストとかいう下らない制度、伊織と再会したら怪事件の前兆みたいな話をされる始末だ。


 俺の平穏はいずこへ!


「百面相、面白い」


「そうなる原因を作った一端を担っているのはお前だという自覚を持って欲しいぞ!」


「諦めて」


「無理!」


 淡々と語る伊織へやけくそ気味に叫んで俺は廊下を歩く。


 その隣を彼女が続いた。


「教室へ戻るのか?」


「(コクン)」


 無言で伊織が頷いた。


 俺達はしばらく会話をしないまま、廊下を歩く。


 歩く度、金髪にやられた箇所が痛む。


 それにしてもあの金髪の能力一体、なんなんだろうな。


 手で直接殴っていたわけじゃないから、付与系の能力ではなく攻撃系の能力という見立てを立てているけれど、確証へは至れない。


「何で、俺はこんなことを考えているんだろうな。もう関わることはないんだし」


「・・・・キュウヨウをオモイダシタ!」


「は?」


 いきなり、伊織が叫びだす。


 棒読みだった。


 突然のことに俺が意図を尋ねようとする前に窓を飛び越えて見失ってしまう。


「なんだ・・・・?」


「相馬さん!」


 伊織の奇行に戸惑っていると、曲がり角から砂原沙織がやってくる。


「お」


「お、じゃないですよ!どうして医務室の方から来るんですか!?」


「医務室から来るなんて答えはひとつしかないだろ?」


「そうですけれど、私が言いたいのは何故、医務室へ行くような事態になっているのかということですよ!」


「まぁ、色々あった」


「色々って」


 砂原の態度から察するに食堂の一件については何も知らないようだ。


 もし、ここで金髪にやられたとかいったらアイツへ砂原が文句を言いに行くかもしれない。


 それは避けた方がいいな。


 俺が話したって金髪が知ったらさらなる暴力の危険がありうる。


 平穏がより遠ざかることだけは避けよう。


「そういえば、さっき、ここで――」


 伊織のことを話そうとした俺のすぐ後ろ、壁に弾丸がめり込んだ。


 壁にめり込んだ音に砂原が周囲へ視線を向ける。


 俺はというと、弾丸が飛んできた方向、開いている窓の向こう、口パクでジェスチャーをしている伊織の姿を見つけた。


『わ・た・し・の・こ・と・は・だ・ま・っ・て・て』


 無表情で口パクによるジェスチャーって不気味だなって思いました。


「相馬さん?」


「いや、なんでもない。ところで次の授業も自習だよな」


「はい。私達のクラスはHR以外は基本的に自習です」


「平凡だな」


「そうですか?違うと思うんですけれど」


 首をかしげる砂原を横に俺は教室へ早歩きで急ぐ。


 そうでもしないと、俺の精神がガリガリと削られてしまいそうな気がした。


















 安部彦馬はCGTによって立ち入り禁止のテープが張られている研究施設の中にいた。


 施設の電気は既に止められており、無人。


「治安維持局が本気を出せば、違法研究施設など、この様か」


「比較的、マシな方だぜ?CGTの突入時、抵抗する職員などがデータの破棄を試みたようだな」


 薄暗い施設の廊下を安部とミミズクの二人は懐中電灯を片手に歩いている。


「しかし、私が入ってよかったのか?」


 安部は捜査官だから施設へ入ることは出来る。だが、ミミズクは能力者だが、一般人であるため、立ち入りは許されない。


「当たり前だ。てか、過去の仕事でこういうところにきたことあるんだろ?お前の知識を存分に生かせるじゃねぇか」


「そんなものなのか?」


「当然だ」


 首をかしげるミミズクだが嫌な顔を見せない。


 否、見せるわけにはいかないのだ。


 ミミズクは、カラス、スズメの三人で能力を使い犯罪などの悪事に手を染めてきた。


 運悪く治安維持局に捕まってしまい、刑に服さないといけないという時、安部に取引を持ちかけられた。


 安部彦馬のブンヤ――情報屋になるということを条件に刑を回避させてやるという裏技。


 カラスとスズメの二人が刑に服さなくなるのなら、ということでミミズクはその提案を受けいれた。


 なによりも、


「(牢屋に入れられたら涼風ミウのライブとかいけないじゃないか!!)」


 自分の生きがいとも言えるアイドルの追っかけが出来ないことが苦痛だった。


 そんな経緯から安部彦馬と司法取引をしたミミズクは共に違法研究施設へ足を踏み入れる。


 裏の仕事で何度かそういう関係の施設へ訪れたことがあるミミズクはどこにトラップがあるかなどおおよその見当を安部へ伝える。


 安部はそれに注意しながら奥へ進む。


「それにしても、電気を止めれば調査も出来ないと思うのだが?」


「施設に電気が通っていたことで、隠し部屋にあった実験生命体が動き出した騒動があったんだ。その教訓で突入した後の施設は電力を全てカットすることが暗黙の了解になった。やりづらいあったらねぇぜ」


 今回の摘発はCGTの主導で行われたが、全ての処理をCGTで行うというわけではない。


 研究されていたキメラの特性などや残っている資料などからどこの組織が関わっているかなどの情報を集める仕事を捜査官が担っている。


 しかし、このバトンタッチは至るところで問題が発生する。今回のCGTによる施設の電力供給のカットなどがいい例だ。


「施設のシステムがダウンしていることでサーバーに保存されているデータとか手を出せねぇばかりか、薄暗いせいで貴重な資料がどさくさに奪われていることもある」


「ダメダメだな。何故、そうも連携がとれていない?敵だった私からすればつっつきやすい点だぞ」


「そりゃ・・・・」


――捜査官は能力者ばかり、CGTは無能力者だからだろうよ。


 能力者と無能力者、


 両者の間にある溝は底知れない。


 終わりがあるのかわからない程、両者の間には亀裂がある。


 能力者は無能力者を見下し、無能力者は能力者を恐れ、排斥しようと動く。


 どちらとも歩み寄らない。


 そんな二つがかろうじてやっていられるのは共通の目的が在る為だ。


――ボックスシティを守る。


 自分達の生活する場所を守るためという共通の目的があるからこそ、互いに嫌悪していても動くのだ。


 たとえ、どれほど憎んで、憎まれていたとしても、自分達の暮らしを守るためなら手段を選ばない。


 それが人間というものだ。


 安部はその言葉を飲み込む。


 隣にいる女性とはあくまでギブアンドテイクで成り立っている。


 こちらが不利となりうる情報を伝えたことで立場が悪化し、危なくなってしまうのは安部だ。


 隣にいる女性を完全に信頼しているというわけではないのに不利な情報を伝えるほど、安倍は愚かではない。


「(そもそも、俺はあんな腑抜け野郎と違う!)」


 宿敵のバカのことを思い出して安倍の鼻息が荒くなる。


「(変なヤツだな)」


 安倍の態度を見て、ミミズクはどうでもよさそうな表情をしていた。


 少し時が流れて、安部とミミズクは施設の奥へ足を踏み入れる。


 電気がつかないが設置されている培養液が不気味な輝きを放っているため、暗さに不便を感じない。


「くそっ、電力供給されていないからハッキングはできねぇか・・・・中身をごっそり持ち出したらCGTの連中がうるせぇし・・・・」


「おい、あべひこま」


「あ?」


 苛立っている安倍を押しのけてミミズクがキーボードの文字をいくつか叩く。


 ブゥゥゥゥンとパソコンが起動する。


「どうなってんだ?」


「一部の組織に雇われてデータの回収を請け負った時に知ったのだが、外部の人間に占拠されたり電力を停められた場合のためにバッテリーを起動させるためのパスワードがあったのだが・・・・まさか起動するとは思わなかった」


「でかしたぁ!」


 安倍は羅列されているファイルをクリックして、情報へ目を通す。


 その中の項目の一つ、安倍は目を細めてファイルを開く。


『レポートNo84652

             被験体Oについて

 上層部からの命令でDを再び現世に出現させよという命令を受けた。Dというのは第三次世界大戦中盤に出現した最悪と恐れられた怪物のことをさす。日本ではDの外見的特長から鬼と呼ばれていたが一般的にはデーモンと呼称されていることが多い。

 Dの出自は不明だが、残っている文献によればDは“名を呼んではいけない国”で生み出されたことから人工的であり、我々としてもあのような脅威を誇る生命体を生み出すことが出来れば、神に匹敵する偉業を成し遂げられる。そのことに興奮した我々は研究を開始する。

 被験体の獲得、能力者を人工的に生み出すことが可能とされているインフェルノウィルスを入手した。インフェルノウィルスは人間の体内へ注入することで血液の中を流れ、脳へ到達、脳を活性化させる。インフェルノウィルスについて記されているソガファイルによれば人間の脳は一割しか機能しておらず、残りの九割の中へ能力覚醒の鍵があるとされている。ただし、インフェルノウィルスは脳の活性化を促すことができるが、毒性が強いことで普通の人間では耐えることが困難であり、今のところ覚醒したものはいない。 しかし、箱庭で能力者を確保することは困難であり、強いパイプをもっていないことから、インフェルノウィルスは必要不可欠である。

 道具をそろえたことで、次に行ったのはDとなりうるのに適した素材である。

 Dに関する文献は少ないことから何がベースなのかは不明である。我々の見解としては頑丈な固体であることで意見は一致したことによって、確保している中から我々はその中でナンバーO796584番を使用することを決定した。Oは数多くの実験で最高数値を叩きだしている事から今回も良き数値を出してくれるだろうと期待している。もし、数値がでなくても他にも被験体は在る。まずは――』


 安倍はファイルを途中で読むのをやめる。


 そこから先に記されているのは倫理観を大きく逸脱したものであることはわかっていた。


「・・・・おい、ミミズク」


「ん?」


「前にお前が依頼された情報の回収を頼んだ組織ってのは?」


「あぁ」


 ミミズクは真っ暗な天井を見ながら、空気を吐き出すように名前を教えた。


「金十字とかいう連中だったな」


「ちっ・・・・“また”かよ」


 安倍は苛立ちを隠さず、床を蹴る。



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