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食堂での指導



文字通り命を賭けた鬼ごっこを終えた俺は戻ってきた砂原を案内役として学食へやってきていた。


 食堂は全校生徒を収容できるほどの広さを有しており、学食には様々な国籍の生徒が食事を楽しんでいる。王国学院は国籍問わず生徒を受け入れるから国籍豊かなのは当然のことだろう。


 学食の入り口に置かれている四角い機械の前で止まる。


「ここの食堂は生徒手帳をこの機械へかざすことでメニューを選ぶことができます」


 手帳を機械にかざすと、目の前に映像パネルが表示され、ずらりとメニューが表示された。


 表示されたメニューは和食洋食以外にも知らない名前の料理が並んでいる。


「種類豊富だな」


「学院の生徒は国籍豊かですから、その生徒が食べられるものを用意しているそうです」


「へぇ~」


 砂原は日替わり定職(日の丸)をチョイスする。


 すると、機械から食券がはじき出された。


「こうやるんです」


「なるほど」


 みよう見真似で同じように生徒手帳をかざす。


 出てきたメニューからとんかつ定食のパネルを押した。


 食券を手に取り、列に並ぶ。


「麺類とかで分けられてないんだな」


「はい」


 長蛇の列に並ぶこと十分ばかり、ようやく俺と砂原は定食を手に入れた。


 定食が乗ったトレイを手に、席につこうと思ったんだけれど。


「一杯だなぁ」


「全校生徒が収容できるはずですので、奥のほうへいけば空いているかと」


「奥って・・・・」


 全生徒数がわからないが、これは空いている席を見つけるまでに飯が冷めてしまう。


 どうしたものか、と周囲を見ていると空いている場所があった。


「おい、あそこ空いているみたいだぞ」


「・・・・え?あ、相馬さん!」


 ぽっかりと空席がいくつかある机の前へ俺は向かう。


 そこにはちびちびとスープを飲んでいる生徒がいるだけで他は誰もいない。


「相席、いいですか?」


 ピク、とスープを飲んでいた手を止めてその生徒が顔を上げた。


 男子生徒は相手を殺せるほどの鋭い眼光でこちらを見据える。


 長い黒髪で顔のほとんどが隠れていて表情を伺えないが怒っているわけではなさそうだ。


 相手からの返事を待っていると、小さくため息を零された。


「勝手にすわれよ。俺はここを占領しているわけでも陣取っているわけでもない」


「あ、どうも。おーい、砂原」


「・・・・ありがとうございます」


「別に」


 男子生徒はぷぃっ、と顔をそらしてちびちびとスープを飲みはじめる。


 スープを飲むことに集中していることから話しかけるなという意思表示だろう。


 俺と砂原は面と向かい合うように座って定食を食べ始める。


 ご飯はほどよい硬さでおいしい。


 味噌汁は赤だしで俺の好みだ。とんかつもころもがさくさくしていて、口の中で肉汁が零れ落ちる。


「うまいな!」


「優秀なコックが作っていますから」


「ほぉ!」


 俺はぱくぱくととんかつを口の中へ運ぶ。


「おいしそうに食べますね」


「美味いからな!」


「くすっ」


 砂原は小さく笑いながら定食を食べる。


「そういえば――」


 俺が口を開いた時、食堂の喧騒がぴたり、と止まった。


 時が動きを止めたみたいに沈黙が場を支配し始める。


「なんだ?」


 空気が変わった。


 入り口の方から奇妙な威圧感が飛んできて、視線を向ける。


 人ごみが割れ、そこから姿を見せたのは俺達と同じ制服を纏った男子。


 違うことがあるとすれば、その男子生徒は金髪、碧眼で長身、さらにいうと美男子ということだ。


 金髪の男子の傍に同じくらい長身のメガネをかけた男子が従者のように歩いている。


 まるでモーゼが水をわったように左右へ進行先の生徒達が避けていく。


 あろうことか、その進行先は俺達のいる机だった。


「やぁ、ミス沙織」


「どうも」


 金髪の生徒が砂原へ挨拶をする。


 遠くの女子が黄色い悲鳴を上げるほどの爽やかな笑顔だが、砂原は笑みを浮かべず淡々と挨拶を返す。


「美しい貴方はどんな仕草も絵になる」


 ぶっ!?


 俺は飲んでいる味噌汁を吐き出しそうになるのをこらえる。


 いきなり、何を言い出すのかと顔を上げると、金髪の男子生徒の顔に変化は無い。


 どうやら本気で言っているようだ。


 金髪の男子生徒が砂原の隣に腰掛けて話しかけようとしているが、砂原は話に応えようとしない。それどころか食事に集中している。


 事情はわからないが、彼女は金髪の男子生徒に苦手意識を持っているようだ。その証拠に相手の会話へ適当に返事していた。


「そうだ。ミス沙織、予定が無いならこれから私と一緒に」


「すいません」


 ようやく金髪の男子生徒へ砂原は視線を向ける。


「私は転校生の相馬さんの案内をする役目がありますので、忙しいです。失礼します」


 ちらり、と砂原の視線が俺へ向けられる。


 申し訳なさそうに俺へ一礼してから砂原はトレイを手にテーブルから離れた。


 砂原の姿が人ごみの中に消えてから、金髪の男子生徒はようやく俺の存在を気づいたみたいな態度をとり、口を開く。


「キミが相場君?」


「相馬だ」


「相場君、私はこれから砂原さんと中庭でティータイムの予定がある。キミは他の生徒に学園を案内してもらいたまえ」


「なんで?」


 俺の問いを金髪の男子は答えない。


 それどころか、


「キミはFクラスなのだろう?ならば、Aクラスの私の命令を聞くのは当然のことだ」


「滅茶苦茶な話だ」


 味噌汁の残りを飲み干し、呆れる。


「クラスが違うからなんだ?それにアイツの許可なしに一方的に予定を押し付けるのはどうかと思うね」


 飲み干したおわんをトレイにおいて、俺も立ち上がる。


「なるほど、仕方ない。キミは少しお仕置きが必要のようだ」


 金髪の少年の言葉を聞き返そうとした俺はいきなり吹き飛ばされる。


 手に持っていたトレイが離れ、気づけば後ろのテーブルの上に体が投げ出されていた。


「痛ぅ・・・・」


 誰かの食べていた食器などが飛び散り、背中がひりひりと痛む。


 上半身を起こすと手を前に突き出している金髪の男子生徒がいる。


 突き飛ばしただけにしては威力が高すぎだ。


「いきなり、何を」


「礼儀を知らない愚者へ優秀な私が直々に指導をしてあげただけだよ。さぁ、理解できたら砂原さんに断りを入れてきたまえ」


「わけわかんねぇし、何で俺がそんなことしないといけないんだ」


 机から降りて目の前の金髪を睨む。


 さも当然という態度が気に入らない。


「なるほど、まだ指導が足りないようだね」


「だから、何の――」


 言葉を続ける前に衝撃が襲った。


 ダンプカーに追突されたみたいに全身が悲鳴を上げる。


 さっきの衝撃と比べ物にならない一撃で、今度は柱に叩きつけられた。


「ぐっ!」


 柱にぶつかった時に口の中を切ったみたいで鉄の味が染みこむ。


 ゆっくりと体を起こして金髪を睨む。


 わかった。こいつ、能力者だ。


 どういう原理かわからないが攻撃系統か何かだろう。


「反抗的な目、まったく、これだから愚者は」


 見えない攻撃で机に叩きつけられる。


 サンドバックみたいに顔、胸、腹などに衝撃がくる。


 塊で体中をボコボコにされて、意識が朦朧とし始めた。


 どういう能力かわからない。


 金髪は手を右へ、左へ、と動かしているだけで次々と衝撃に襲われる。


 一方的、


 まさに一方的な攻撃だ。


 近づくことすらできない。


「さて、躾もそろそろ終わりだ」


 指導から躾に変わっているぞ、という指摘もできないくらい体がボロボロになっていて、口を動かすことも精一杯だ。


 顎への強力な一発。


 脳みそがグワングワンと揺れ、俺は後ろの机へ頭から倒れた。


「ふん、これに懲りたなAクラスへ歯向かわないことだな」


 上から目線の物言い、


 少しくらい抵抗しないと気がすまないな。


 俺は朦朧とする意識の中で無理やり体を起こす。


 ボキボキ!と関節の骨が鳴る。


 痛みで感覚が麻痺してしまっていた。


 誰かの残しかけのスープが入っているおわんを手に取る。


「――おい」


「ふむ、まだ喋れる余裕があったようだな」


 金髪は近づいてきて、俺の腹を踏みつける。


「これに懲りたら、Fクラス風情が私のような――」


 最後まで言い切る前に金髪の顔へスープをぶっかける。


 少し冷めていたようで金髪は熱がる素振りを見せない。


「これで少しは色男になったんじゃねぇ、この」


 言い切る前に、俺は金髪にボコボコにされて意識を失った。
















 Fクラスの男子がAクラスのジェームス・グラートンに一方的な攻撃を受けていたのをウォンは見ていた。


 一方的に男子がやられているのをウォンは眺めているだけだ。


――よくある光景だ。


 そう、Aクラスの生徒が能力で他のクラスの生徒を“指導”するのは学院で日常茶飯事だ。


 王国学院ではA~Fにクラス分けがなされている。


 能力者は六クラスへ振り分けられる際に能力の強さで振り分けられていた。


 Fクラスは能力が劣る、使いこなすことが難しい等の理由で劣等性が集められているのに対してAクラスは優秀な、今にでも捜査官として採用されてもおかしくないほどの力を有している者がクラス入りする。


 能力でクラスが振り分けられていることから学院の能力者の中でスクールカーストみたいなものが出来上がっていた。


――優等生は劣等性を卑下する。


 他者を見下し、支配する。そんな流れが当たり前のように存在した。


 人間が抱える負の感情、どこであれ、それは姿を見せる。


 現にAクラスのジェームスに転校生の相馬ナイトは能力でボコボコにされていた。


 ウォンは助けようとは思わない。


 助ければ次の標的は自分にされてしまう。


 教育者もほとんどが無能力者ばかりだから助けることをしない。能力者の教師はひそかに煽っている節があるから望み薄だ。


 そんな状況において、暴力を振るわれないよう、自分の身を大事に思うはずだ。最もウォンは関わる理由が見当たらないことから助けない。


 そうしている間に、目の前の男子がジェームスの能力で満身創痍になるまで追い詰められていた。


 行為者が飽きるまで暴力は続く。


 ジェームスの表情からして大分、満足したのだろう。


 能力を止めた。


 一度、能力を止めると誓約により発動までに時間がかかる。


 これで終わったのだろうと思っていたら異変が起きた。


「これに懲りたら、Fクラス風情が私のような――」


 パシャン。


 髪をなでて許してやろうとしていたジェームスの顔へ男子がスープを投げつけた。


 ウォンが飲んでいるスープとは違うものだ。


 幸い、温くなっていたのだろう、ジェームスは熱がる素振りを見せない。だが、彼の顔が凍りついていた。


 同様に周囲も時が止まったように音が消える。


――死んだな。


「これで少しは色男になったんじゃねぇ、この」


 男子が悪態をつき終える前にジェームスの拳が顔を抉るように放たれた。


 能力で満身創痍まで追い詰められていた男子は避けることができない。


 大して威力の無い拳を何発も受けた男子は床に大の字で倒れた。


 髪が乱れ、荒い呼吸をしているジェームスはトドメとばかりに男子の鼻を踏みつけてから人ごみの中へ消える。


 ジェームスがいなくなったことで周囲の野次馬達もゆっくりと倒れている男子から離れていく。傍にいればあらぬ疑いを教師にかけられてしまうのを恐れたからだろう。


 ウォンは空になった皿の載ったトレイを手に、席を立つ。


「勉強になったか?ルーキー」


 意識を失っている男子へウォンは聞こえるかわからないが呟いてその場所から離れようとした。


「いやいや、勉強とか関係ないだろ。これ」


「!?」


 返答があったことにウォンは目を見開いた。


 驚いて振り返ると、意識を失ったはずの男子が目を覚ましている。


「なぜ・・・・」


 二時間は意識を失うだろうという見立てをしていたウォンの声は少し、震えていた。


「元から、頑丈な体している、ヘナチョコパンチで気絶するわけないし」


 まぁ、最初の攻撃はかなりきつかったけれど、と男子は苦笑してその場に座り込んでいる。


 ウォンは自分の見立てが狂ったことに少なからず驚きの感情を表に出しながら、男子へ尋ねた。


「お前、何か武道を嗜んでいるのか?」


「ちっとも、どこにでもいる普通の男子だ」


――ありえない。


 男子の言葉をウォンは内心否定した。


 武道、それか戦闘の経験をない者がジェームスの、腐ってもAクラスに在籍している者の能力による攻撃だというのにぴんぴんしている姿を見せられれば疑惑が浮き上がる。


「・・・・ふぃにゃ~」


 立ち上がろうとした男子は奇声をあげて地面へ大の字に倒れた。


 どうやら疲労が肉体の限界を超えてしまったらしい。


「なんなんだ、コイツは・・・・」


 ウォンは目の前で倒れている男子に対して、そう呟いた。















「あれが、姫様を守るものだというのか?」


「その様子だと不満そうね」


「当然だ。姫様を守るものは最強でないと意味が無い。だが、あの軟弱者は何だ!?」


「怒らない、怒らない、見かけはアレでも、本局の最深部へ侵入した能力者を彼が撃退したのよ」


「信じられない。あんな軟弱な若者が?」


「本局のデータベースから得た情報だから間違いないそうよ」


「仮にそうだとしても、我々の敵ではない」


「凄い自信ね。でもね、勝手な行動は控えなさいよ。派手に動けば、私たちが危なくなるのだから」


「当然だ」





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