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病室の会話

今回で第一章終わり、次回から第二章です。

 とても月が綺麗な夜だった。いや、正確に言うなら月を背景にして微笑んでいる  はとても美しかったというべきだろう。


 月を美しいと感じたのも事実だけれど、俺からすれば月は  を引き立てるためのいわば一部としか見ておらず、二つの目は月の光を受けて輝いている   へ向けられている。



『綺麗な月・・・・』



『太陽よりも月の方が大好きなの、月は奴らと違う。太陽の外に出たら身を焦がすような苦痛を与えない、荒々しい光もなければ、苦痛を与えることもない。私の存在を認めてくれる唯一の存在といっても過言じゃないわ』


 月を眺めながら微笑む  だが、その目は笑っていない。


 何を思って月を見ているのか、当時の俺はまったく理解できていなかった。仮に理解できていたとしてもどうすることもできなかったのは目に見えている。ただのどこにでもいるような子どもなんかに本当の意味で化け物といえる  へ太刀打ちできるわけがなかった。


『ねぇ、ナイト』


 月から視線をそらしてはじめて目が合う。  の瞳に俺がどう映っていたのかはわからない。有象無象の一つか、大事な存在と見られていたのか、すくなくとも傍に一人誰かいるという認識はされていただろう。それほどまでに  の他者への関心は薄い。


 自分を生んでくれた家族にすら愛情を抱いていたのか怪しいところだ。

昔はそんな  じゃなかった。


 だれにも優しく、慈愛に満ち溢れていた。


 じゃなくなったのは“能力”に目覚めたことだ。能力によって  の全てが狂った。


 一度狂った歯車が元に戻らないのと同様に能力という歯車が加わったことで  は狂った。


 誓約により  は全てに関心をなくした。


 周りの人間も、


 動物も、


 植物も、


 最愛の家族すらも  は感心を示さない。


 生きているようで生きていない。それが目の前にいる  の全てだった。



 とても――




















「久しぶりの顔合わせが病室なんて、相馬さんは病院が大好きなんですね」


 病院の中の小さな、とても小さな個室。


 そこで俺は一人の少女と対面している。


 俺がベッドの上で動けないのに対して少女は傍の丸い椅子に座っていた。


「真顔で冗談を言われるとは思わなかったわ」


「心配しているんですよ?」


「わかった。わかったから後ろのメイドさんを下がらせてくれ」


 今にもクナイで襲い掛かってきそうなほど睨んできていますもの。


 くすくすと少女は笑ってメイドを下がらせた。


 メイドはしぶしぶと部屋から出て行く。


 残されたのは俺と少女だけ。


 少女は、亜麻色の髪を触りながらライトブルーに近い瞳で真っ直ぐにこちらを見ている。


「それで、相馬ナイトさん。今回、死んだことにより何の記憶を失いましたか?」


「直球だな」


「この手の会話は遠まわししても意味がありません、それで?」


「・・・・アイツの、名前が思い出せない」


 ホワイト・セントラルで眠りについているアイツの名前、顔、今までになにをしてきたかなどが思い出せない。


 そもそも、


「アイツが女だったのかすらもわからない」


「今回は重症ですね」


「覚悟はしていたことだけどな」


「そうだとしてもあなたは理解しておいてください。付与されている“不死”の能力は使えば使うほど危険なんです」


「・・・・わかってる」


 俺自身の能力は夜目が利く程度の能力だが、それとは別、何者かに与えられた“不死”の能力が存在する。


 “不死”という文字通り、死ぬことの無い体だ。


 死んだら体が再生するという能力で、万能に思えるかもしれないがこの不死の能力はとても厄介な誓約を抱えている。


「死ぬ度に記憶を失う。今回、相馬さんは一度死んだということを意味します。死んだ時に心当たりは?」


「二つあるかなぁ・・・・」


 一つは砂原沙織を助ける時、もう一つはアイツを扉の向こうに押し戻した時、この二つの時だけ記憶があやふやだ。


 死んだとすればその時だろう。


「相馬さん、何度も言いますが、死ぬことに“慣れ”ないでください。死への恐怖が薄れていけば、死へあなたは引き寄せられてしまいます。慣れてしまったら最後、貴方は―」


「わかってる。俺だって死にたがりじゃないんだから」


「でしたら、何でこう死ぬ回数が多いのですか?」


「敵が攻めてくるから」


「その言葉、何度聴いたことでしょう」


 呆れたようにため息を零しながらも少女は俺の身を案じる。


 渡されたウサギのりんごを口に含みながら口を開いた。


「それで今回の結末は?」


「主犯の源管理官死亡という形で決着がつきそうです。死体が見つかっていないので騒ぐ部署があるかもしれません・・・・もう一人、誤ってホワイト・セントラルのパネルを破壊したCGTの伊織汐隊員については罰則が下されるだけです」


 ホワイト・セントラルの扉は俺達が退去した後、別働隊によって完全封鎖がなされた。


 壊れたパネルも少し手を加えて、誰にも開けられないようにしたそうだ。


「・・・・そうか」


「あ、相馬さんに伝えておきたいことがあります」


「何だよ?」


「先日、騒動にまぎれてデータベースにハッキングしたものがいます。中々の腕の持ち主のようで、特定には至っていませんのですが」


「ですが?」


「その人物、私がダミーで用意しておいた偽情報に引っかかった可能性があるんです」


「へぇ~」


「ですので、もし、相馬さんがそのハッカーさんを目撃したらその情報は偽だということを伝えておいてください。彼女は正真正銘、本物です。と」


「よくわからんけれど、了解だ」


 首を傾げつつも頷いておく。


 彼女の言うハッカーはおそらく安部のヤツだろうし。


 にこにこと微笑んでいる少女だが、侵入者、敵対する者は必ず見つけ出すおそろしい人だ。


 失礼なことを考えている横で彼女は立ち上がる。


「もう行くのか?」


「えぇ、仕事は山積みですから。相馬さんは体を治すことに専念してくださいね」


「そうさせてもらう。当分厄介ごとに巻き込まれたくは無い」


 苦笑しながら彼女は病室の扉を開ける。


 そのまま出て行くかと思えば、振り返って。


「あ、相馬さんの罰については追って連絡しますから」


 物騒な一言を残して、治安維持局一号管理官エイレーネ=K=パネトーネは病室から出て行った。
















「うげぇ!」


 それからしばらく眠っていると腹部に重たい衝撃を受けて、俺は目を覚ます。


「ちっ、生きてやがったか」


「げほ・・・・安部かよ」


 相手の顔を見て言うと、安部は目を見開いた。


 何か様子が変だなと思っていたら、今度は苛立ちに顔を歪める。


「・・・・今回は覚えてやがったか」


「何か言ったか?」


「別に、それよか、エイレーネさんはなんだって?」


「主犯は死亡という形で処理、伊織は罰則で済むそうだ」


「甘い結果だな」


「そうか?」


――あの場でお前も納得していたじゃないか。


 そういうと安部は舌打ちをした。


「いいか、あの場で反論したら俺の命が危うくなる危険があったまでだ。そもそも俺は肩を撃たれてんだからな」


 安部はギプスで固定されている腕を見せる。


 そういえば、撃たれたの俺だけじゃなかったんだった。


「どーでもいいから忘れていたわ」


「ちっ・・・・それより、あの娘には会ったのか?」


「娘?」


「まさか、忘れたわけじゃないだろうな!?」


 ぎょっ、とした表情で安部が俺へ詰め寄る。


 胸倉を掴まれている為に息がしづらい。


「く、苦しいっての!」


「砂原沙織のことを忘れたのかって聞いてんだ!」


「・・・・なんで彼女のことを忘れないといけないんだよ!?」


「心配させんじゃねぇ!」


 突き飛ばされたばかりか、頭を殴られた。


 理不尽だ。


「あ、そうだった」


 殴られた拍子にエイレーネの伝言を思い出す。


「エイレーネからお前へ伝言」


「教えろ」


「えっと、彼女は正真正銘本物だって」


「・・・・・・・・・・は?」


 伝言を話すと面白いくらい間抜け面になった安部をみて笑いをこらえる。


「どういうことだ?」


「えっと、掴んだ情報は彼女がばらまいたダミーだったそうだ」


「・・・・・はぁあああああああああああああああああああ!?」


 数秒、フリーズした安部が復帰すると大きな声で叫んだ。


 耳元で叫ばれたから鼓膜がぁぁぁぁぁ!?


「ンだそりゃ!掴まれ損じゃねぇかぁぁぁぁぁぁぁ!」


「知るか!あー、耳が」


「くそっ、事情を問い詰めに行くぜ」


「いってら~」


 ずんずん、と靴音を鳴らして安部は出て行った。


 騒がしいヤツだ。


 これで静かになるだろう。


「相馬さん!」


 安部と入れ替わるようにしてうるさくなるかもしれないヤツがやってきた。


 入ってきてすぐ、彼女は俺へお説教を始める。


 あんな無茶をしたのか。


 死んだかもしれないのに!


 本当に殺されたかもしれない!


 無茶をするな!


 同じ言葉を何度も繰り返して彼女は俺へ説教する。


 一応、俺は病人なんだけどなぁ。


「無事で・・・・よかづだぁ」


「お、おい!?」


 お説教が終わったと思ったら涙を零し泣き出してしまった彼女を見て、俺は焦る。


 泣いている女の子とどう接すればいいのかわからない。


 頭をなでれば良いのか!?抱きしめる!?


 俺はしばらく大人しくしていることにした。


「・・・・ぐず」


「落ち着いたか?」


「はい・・・・ん?」


 頷いてから彼女は首をかしげる。


「どうして、私は相馬さんになでられていないのでしょうか」


「知らないし」


「普通、女の子が泣いていたら抱きしめるか頭をなでるかしますよね!?」


「しねぇよ!?どんなイメージ持っているんだ!!」


「俺の前にいる子は泣いたら男が何かしてくれるというイメージでも染み付いているのだろうか?だから、ビッチと呼ばれるのでは?」


「私はビッチではありません!」


「読まれた!?」


「口にだしていましたよ」


「なん・・・・だって」


 驚愕した表情を浮かべると砂原さんははぁーとため息を零す。


「幸せが逃げるぞ」


「相馬さんと出会ってから全速力で逃げられている気がします・・・・」


「そりゃ、大変だ」


「・・・・ふふ」


「今度は何だ?」


「似たような会話を前にもしましたね」


「・・・・そうだっけ」


「はい!」


 自信満々というか輝かしい笑顔を浮かべている彼女へ俺は言葉を飲み込む。


 太陽の輝きによるものか、彼女の笑みは普通の、どこにでもいる女の子の笑みに見えたからだろうか?


「・・・・あの、相馬さん」


 笑顔を浮かべていたと思ったら急に手をモジモジと動かして目線が泳ぎ始める。


「なにさ?」


「あ、あの時はありがとうございました」


「・・・・どの時?」


「源管理官に償えといわれていた時に、私を、守ってくれましたよね」


「いいや、守ってない」


 あの時、源のヤツの言葉には同意するところはあった。ただ、全てを砂原沙織へ償えというところが認められなかっただけに過ぎない。


 決して、彼女を守るために動いたとか騎士気取りな理由はなかった。


 どこまでいっても自己満足。


 自己満足のために行動したことに過ぎない。


 それだけの為に俺は源を否定した。


「俺は俺の目的の為にアイツを倒しただけで、目の前にお前がいたに過ぎないんだ。だから、守ってもいないし、助けようという気持ちはこれっぽっちもない」


 淡々と、彼女へ話していると、俯いた。


「・・・・」


「幻滅したか?」


「いえ、決めました!」


 彼女は俺へ近づいた。


 今まで見た表情とはどこか違う気がするし、見覚えがある。しかも嫌な方の意味だ。


「私は相馬さんのパートナーになります」


「・・・・はい?」


 今、なんと仰った。


 パートナー?


「なんで、そうなる!?」


「相馬さんは自己の為に行動するといいました。キメラと生身と戦うほどの無茶をする人です。放っていたら死ぬかもしれない。私は相馬さんを守るためにパートナーとして支えます」


「パートナーなんていらねぇっての」


「それは面白いですね」


「うわ!?」


「お前、なんで!」


 病室の扉が開いて帰ったはずのエイレーネが姿を見せる。


 ニコニコと笑みを浮かべている彼女と目が合い、嫌な予感が体中を走った。


「相馬さんの罰をまだ決めていませんでしたから・・・・砂原沙織さんですね?」


「は、はい!二級捜査官の砂原沙織です!」


「そんな硬くならないでください。知っていると思いますが、管理官を勤めているエイレーネ=K=パネトーネといいます」


 エイレーネの挨拶に余計、砂原さんは固まっていた。


 無理も無いだろう。


 三人いる管理官の中で一級捜査官をまとめている一号とは本局の上層部の中で顔が広いし権力もある、そんな大物が目の前にいたら落ち着かないのは当然か。


「さて、話を戻しますが、砂原沙織さん。あなたの提案はとても素晴らしいものです。私としても相馬さんを一人で行動させることは前々から問題だと思っていたのですよ」


「は、はい!」


「そこで、本日付で相馬ナイトさんの相棒として砂原沙織さん、あなたを指名します。申請書類などはこちらで用意しておきましょう。おめでとう。二人はバディですよ」


「お、おいおい、待てよ!」


 流石にエイレーネへ俺は待ったをかける。


「おや、こんな可愛い子が相棒になることへ不満があるのですか?」


「不満は無い!だが、俺は捜査官としての免停を受けて」


「あれなら既に取り消されていますよ?」


「なに?・・・・」


「免停を下した上司を別の部署へ飛ばした後にあなたの免停を取り消しにしました。おめでとうございます、捜査官復帰ですよ」


「おめでとうございます!」


 呆然としている俺へエイレーネが説明してくれる。


 砂原さんは嬉しそうな目を俺へ向けている。


 まったく嬉しくない!


「ただ、捜査官復帰をすることにおいて上から条件が提示されました」


「条件・・・・ですか?」


「あなた達二人を高校生として、王国学院へ転入させることとなりました」


 エイレーネの宣言に俺達は呆然とするしかなかった。




次回から、第二章です。

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