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白の影

殴られた頬に痛みを感じながら源は体を起こして扉へ向かう。


幸いにも娘の伊織汐が扉のパネルを壊してくれたおかげで少しだけだが、開いた。


――終わって堪るか。


源はこの箱庭へ復讐をするまで止まるつもりは無かった。


滅茶苦茶にされて源が苦しんだ分まで、能力者や金十字の娘が絶望するまで止まらない。


やめるつもりなど毛頭ない。


これは正当な復讐なのだ。少なくとも源にとっては聖戦といっても過言ではない。



――全ての能力者に、あの娘に地獄を見せてやる。


 後ろで叫び声が聞こえた。それが自分へ向けられていることに気づき、源が振り返った。


 瓦礫の中で倒れている相馬ナイトと目が合う。


 箱庭の中で最強と歌われる存在、数多くの事件を解決し能力者の平和を守ってきた騎士のような男で自分の計画を壊そうとしている、アイツのために全てが狂った。事故と見せかけて砂原沙織を殺し、後にこの騒動の現況として公表するつもりだった計画が狂った。その元凶が地面に倒れて、血まみれの顔でこちらを見ている。



 何かを叫んでいるが鼓膜が破れている源は聞こえない。


――イ・イ・ザ・マ・だ。


 源は口パクで相馬をののしって扉の向こうへ進む。


 その結果、どうなるか知らずに。


















 ホワイト・セントラルの中は真っ暗で何も見えない。


 源は手探りで壁のパネルを探す。


 壁を叩いたりしてみるが、何も無い。どうやら室内電気などの類が存在しないらしい。


 仕方なく、残っていた古代具の太陽照明を天井へ投げる。


「うっ」


 まばゆい光が発して視界が白に染まる。


 しばらくして目が慣れた源は目を見開いた。


 ホワイト・セントラルの噂を知ったのは偶然だった。


 いわく、ボックスシティができる前から存在していた迷宮の中心地、いわく、第三次世界大戦時に生み出された最終兵器が保管されている危険地帯、開けたら最後、世界が終わるといわれる黄泉の入り口と繋がっている。


 眉唾物と思っている内容だった、だが、これはどういうことだろう。


 目の前には円筒形のカプセルが置かれており、その中で女の子が眠っていた。


 白髪に白い肌、体に纏われているのは白いパーティードレス。


 そして、白い空間


 何もかもが白で統一されている場所で一人の少女がカプセルの中に眠っている。


「なんだ、これは?」


 これが街を崩壊させるといわれる代物?大戦末期の最終兵器がこんな少女だというのだろうか?


 カプセルの中身に混乱し始める源だったが、すぐに思考を切り替えた。


――これは使えるぞ。


 どういう経緯で少女がカプセルの中で眠っているのかわからないが、この事実を箱庭の外へ伝えれば、どのような状況になるだろう。


『だぁれ?』


 その時の光景を思い浮かべて笑っていた源へ声が響いた。


「誰だ!?」


『それはこっちのセリフよ?おじさん。だぁれ?』


「ど、どこにいる!?」


『あなたの目の前よ』


 源はぎょっとした表情でカプセルの中の少女を見る。


 しかし、少女は眠ったままで口もぴくり、と動いていない。


 では、これはなんなんなのか?


『あなたの頭へ直接語りかけているの。それで、あなたはだぁれ?』


「私は、源だ」


『そう、ここへ何の用事?』


「ここにあるものを外へ出すために」


『お外へでれるの!?』


 声の主はとても嬉しそうに尋ねてくる。


 少女は外見で判断するなら十代後半くらいだろう。


 だが、声は明らかに十代前半ぐらいのものだ。


 その矛盾を源は気づいたが特に意識を向けていなかった。彼の頭の中は復讐心で支配されており、周りで起こっている異変に気づいていない。


「外へ出してあげよう。その代わり」


『ドアは開いているの?』


「・・・・あ、あぁ」


 源の話を途中でさえぎる形で声が尋ねる。


 一瞬、苛立ちを感じたが少女を外に出して街を崩壊させる。それが終わるまで我慢、と自分に言い聞かせながら源は頷く。


『そう』


 声が低いものに変わった。


 そして、源の体に異変が起きる。


「んぁ?」


――声が出なくなった。


「ふぁっふぉっはぁ?」


――違う。


 源はぺたぺたと自分の口を触る。


 手にはべっとりと赤い液体がこびりついていた。


『じゃあ、おじさん、いらないね』


 いつの間に現れたのか黒い影が源の舌を切り落として吸い込んでいる。


「ふぁふぁしのしふぁ!」


『うるさいよ』


 叫んだ瞬間、口の中へ影が入り込み、源は喋ることができない。


 いつの間にか白い空間がほとんど暗闇色へ変化している。


『おじさんが扉を開けっ放しにしてくれているおかげで私は外に出ることができるよ。ありがとう、後はカプセルを壊すだけなんだけど、汚い手で触って欲しくないから、おじさんとはここでさよならよ』


 黒い影が一斉に源へ襲い掛かる。


 源は絶叫をあげるが瞬く間に影へ飲み込まれた。











 体中が悲鳴を上げている。


 久しぶりに使用した分解の左鎧の代償が俺の体にダメージを与えていた。


 オーパーツの中で、かなり特殊な部類に位置する十代古武具の一つである吸収の左鎧は一度使用すると周囲のもの全てを分解して己の力へ変えるために吸収する。


 吸収した力の大きさに俺の体は悲鳴を上げた。


 足の神経が切れたのがその証拠だ。巨大すぎる力に俺の体が釣り合っていない。


 使い続けたら命は無いだろう。


 だが、それよりも気になる事がある。


「なんだ、今の悲鳴!?」


「扉の向こうからです」


「・・・・」


「来るな!」


 源の悲鳴が聞こえて、扉へ向かおうとするみんなを止める。


 ざわざわと背筋が震えるような感覚、間違いない。


 この感覚が確かなら安部達を今居る場所から先へ行かせてはダメだ。


 不安の色が顔に出ていたのだろう、砂原沙織が尋ねようと口を開く。


「相馬さ――」


『会いたかったわ。ナイト』


 体が凍りついたみたいに動かなくなる。


 それだけの威力を響いた言葉は持っていた。


「今の声は・・・・」


 声の主を探そうとしている安部達は周りを見る。


 俺は扉の前を睨んでいた。


 しばらくして、白い扉が黒に染まる。


 それだけで終わらず空洞の半分以上が黒に侵食されていくように染まっていった。


 体を起こした俺の体に黒い影のようなものがまとわり付く。


 人肌のような温もりの在る影が首元へ迫る。


『ナイトの温もり、感覚だぁ』


 声は嬉しそうに俺の体を這い回るがこっちは気持ち悪さで鳥肌が立っている。


 こちらを見ている安部達へ動くなと目で制した。


 安部が察知して、柱へ走り、体を隠してから様子を伺う。


 おそらく、安部は直感的に体を隠したんだろう。あれの力は恐ろしい。こちらとしては大助かりだ。


 俺の感情を気にしていないのか影が喉元まで迫った。


 体の自由がほとんどとれない。


『久しぶりだね。ナイト』


「俺としては会いたくは無かった」


『酷いぃ、五年以上ナイトと触れ合っていないのに』


「・・・・白衣、なぜ、出てきた」


『だってぇ、あんな狭くて苦しいところにいるよりもナイトの傍で居たいわ。ナイトの傍はポカポカして気持ちいい。それに誰かにとられたくない』


 影の拘束力が増した。


 呼吸がしにくくなって自然と表情が険しくなる。


『ナイト、愛しているわ』


 影に口が現れて、愛をささやき始めた。


『愛しているわ』


                          『愛しているわ』



                   『愛しているわ』


            『愛しているわ』


     『愛しているわ』


『愛しているわ』


       『愛しているわ』


                          『愛しているわ』


                 『愛しているわ』


『愛しているわ』


        『愛しているわ』


                        『愛しているわ』


                『愛しているわ』







 一斉に影達が俺へ愛の言葉をささやき始める。


 普通の人なら怖くてその場から逃げ出すだろう。


 実際のところ、俺も怖くて逃げたい。


 だが、影はそれを許さない。


 逃げれば影は俺を追いかける。そして、道を阻むもの全てを殺す。


「扉の向こうにいた人間はどうした?」


『おじさんのこと?邪魔だったから影に餌として与えたわ』


 当たり前のように影は告げる。


 影は障害物、俺への道を阻むもの全てを殺す。


 俺という存在を見つけるまで全てを殺し続ける。


 そのためにコイツはこんな場所に幽閉されていた。


 塒白衣。


 五年以上、顔を合わせていない幼馴染との再会だ。


「白衣、悪いことは言わない。大人しく影達を扉の向こうへ戻せ。そして眠りに付くんだ」


『いやよ』


                 『ナイトをようやく見つけたのよ?』


  『もう離さない。誰にも渡さない』


       『私だけのナイト、貴方はずぅっと私と一緒にいるのよ?』


『拒否は許されない』


         『だって、運命だもの』



 謳うように影達が一斉に喋り始める。


 それと同時に影が俺を扉の向こうへ、向こうへ連れて行こうと、引き寄せていく。


『さぁ、こっちへ来て』

          


          『封印をといて』


                  『私を外へ出すの』


『そして、一緒に愛し合うのよ』

                          『永遠によ』


『永遠に』


 『永遠に』


   『永遠に』


       『永遠に』

                     

              『永遠に』


                    『永遠に』


                           『永遠に』
























「冗談じゃない」


 再びささやき始める影へ俺はうんざりしていた。


『ナイト?』


「俺はお前を愛するつもりなんて毛頭無い、愛するどころかうらんでいるからな」


『恨む?』


『どうして?』


『私はナイトのことが大好きよ』


『それでいいじゃない』


「俺の気持ちは無視かよ」


『愛ゆえに』


「ふざけるなよ。そんな一方的な愛なんて」


 再び左腕を起動させる。


 万力のように絡み付いている影を左手の力が分解していく。


『なにをしているの?』


                        『死ぬつもりなの?』


『そんな力、使っちゃダメだわ』


 影の一部が鋭利な刃物となり、俺の脚や腹部を貫く。


「ぐっ!・・・・うるせぇよ」


 激痛に顔を歪めながらも左手が影を振りほどく。再び影が左手に絡みついて、手の中にある拳銃を抑え込もうとする。


 左腕が押し負けている!?


「カプセルはどうこうするつもりはないし、お前を外に出す気もない。闇の中で眠ってろ・・・・」


『ダメ!』


 拳銃のフレームが歪んで弾が出ない。


 こんな時に!?


 影の拘束力が増して、左手が戻されていく。


「く・・・・そぉ」


 遠くから銃声が響く。


 天井に弾丸がはじける。


 視線を向けると、影の近くで発砲する砂原沙織の姿があった。


 彼女は拳銃を天井に刺さっている照明へ向けて発砲する。


 撃ちなれていないのか中々、照明に当たらない。


『邪魔』


    『私とナイトの邪魔!』


『消えろ!』


 影の一部が動いて彼女へ襲い掛かろうとする。


 だが、影はまったく違う方向に直撃した。


 影の中を真っ直ぐに進んでいるというのに彼女へ当たらない。


 弾が空になって彼女は装填しなおす。


 しつこく影が砂原へ襲い掛かるが、直撃しない。


 砂原沙織の能力か?


 影も当たらないことが偶然ではないと気づいたようで、手段を変える。


 天井の一部を切り落とし瓦礫などを投げた。


 瓦礫は彼女へ当たらないが破片が飛び散る。


 彼女の能力が攻撃する軌道を変えるものなのか俺はわからないが、影は能力を理解して瓦礫などを投げていく。


「おい、危険だから近づくな!」


「相馬さんを助けます!」


「だからって、このままだと相馬さんが殺されてしまいます!」


 飛んでくる影を避けて天井へ発砲する。


「俺はいい!」


「ダメです!!」


叫んで彼女は発砲した。


ようやく、一発が照明へ掠る。


「相馬さんは体を張ってキメラを撃退してくれました。なのに、こんな訳のわからない存在につかまっている貴方を見捨てるなんて事、私にはできません!」


 狙いを定めようとしたところで彼女の足に影が絡みついた。


「う、わ」


 バランスを崩した拍子にトリガーを押す。


 銃口から放たれた弾丸が照明を撃ち抜く。


 照明が砕け散って破片が地面へ降り注ぐ。


 周囲が暗くなっていくと同時に体の拘束も緩くなる。


『ナイトぉ』


『どうして、どうしてぇ』


「言っただろう、俺はお前と愛し合うつもりはない。大人しく眠りにつけ」


 足の拘束がなくなったところで地面を蹴る。


 半開きになっている扉を左手で無理やり閉じていく。


 影が必死に押し戻そうと抵抗を試みるが、暗闇によって力が削らされているため、段々と弱い抵抗になる。


『どうして、どうしてぇ』


「戻れぇええええええ!」


 さび付いた音を立てて扉が閉まる。


『諦めない。諦めないからぁぁぁ』


 怨念めいた声を残して扉が閉じた。


 扉に背を向ける。


 呼吸が荒い。


 体が鉛のように重たく感じる。


 朦朧とする意識の中で誰かが近づいてくるのを感じつつ、俺は意識を手放した。


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