第6話 そして事態は悪化する
機動隊は前後に2人ずつ展開していた。
北はイメージトレーニングを繰り返す。注意の引き方や、各隊員の僅かな癖から性格を予想し、襲ってくる順番を考える。
(ダメ、これもダメ、あぁ惜しい、違うそうじゃない)
────22回目。これだ。
これであれば、予測不可能な事態にも対応できる。
北は脳内でイメージを再生する。後はこれに従って行くだけだ。
「機動隊さん、ちょっと待って下さい。勝手に爆発したんですよ、これ。ほら、そこに痕があるでしょ」
そう言って爆破痕を指さす。そこには確かに剥き出しになって壊れたガス管があった。
北は爆破痕に歩いて行く。
機動隊が即座に銃を向ける。
「動くn───」
バンッ
大口径弾は前方の隊員を貫く。北は後ろにも二発打ち込み、片割れに殴りかかる。
「『撃て』って言うんだろ?」
「撃て!」
困惑した隙にライフルを蹴り飛ばし、その勢いで一発殴り、距離をとる。
隊員は軍用ナイフを構える。
北は瞬時に右半身を引き、そこにナイフが空気を切って飛んでくる。反動で鞭のようなしなる蹴りを入れるが岩のように屈強な体に防がれる。
ボコッ
「う゛っ」
右フックを両手で防ぎ足を掛け体勢を崩そうとしたが、凄まじい執念でそれを阻む。足めがけて手首のスナップでナイフが飛んでくる。足を引くが、ついでにヤクザキックを一発乱暴に撃つ。
みぞおちに入ったが相手は怯まない。
北が顎を引くと拳が掠める。
「ボディがら空きだぜ兄ちゃん!」
相手は腰を急いで固める、が、
「残念!予測済み!」
アッパー。その拳は顎に吸い込まれる。
ボコッ
「KO!…ってあれ?」
隊員はピンピンして立っていた。
(本気でやったのに)
北は後ろを見る。隊員達は北の放った弾丸が貫き倒れている。居初と滝沢はこちらを体育座りで見ている。
「いつきさんガンバ~」
「隊員さんいっぱーつ!」
何故か敵を応援する滝沢を余所に正面を振り向く。
バコォォン
「ぃいったぁぁ!」
まともに喰らった。そういえば戦闘中だった。
滝沢が「ナイスヒット」と歓声を上げる。
一旦距離をとる。
(まずいな、そろそろ応援が来る)
北は決着を急がなければいけない事に気付く。
北の雰囲気が変わる。
北は隊員を鋭く睨み、ピシッと指を指す。
「テメェは俺を怒らせた」
周りの空気が唸り、ゴゴゴゴとでも言いそうな、そんな圧倒的な雰囲気だ。あと、心なしか輪郭が角張っている気がする。
隊員は身構える。
「右フック」
隊員は困惑する。
「今からお前の左脇原に右フックをぶち込む」
北は歩いて近づいていく。
隊員は左脇原を守る。絶対にこの男なら言った通りやる。何故かそう確信させる雰囲気があった。
「オラァ」
隊員は轟音と共に吹き飛ぶ。
隊員は何故自分が人間のパンチで吹き飛ぶのか分からなかった。そして目の前の男の背後に紫色の肌のムキムキの上裸の戦士が浮いている気がした。
座り込む隊員に北は近づく。
「あ、あんた何もんなんだ?」
北は答える。
「今からぶちのめす奴に名乗る気はねぇ。…呼び方位なら教えてやる。“異常な程情熱家な漢”略してジョジョだ。」
「どこが情熱家だー」
「無理くそにも程があるぞー」
観戦者達が騒ぐ。
そんな野次を無視して北は続ける。
「今から俺がどちらの手で殴るか当ててみろ」
観覧者達はどうするのか分かった。
隊員は恐る恐る言う。
「ひと思いに右でやって下さい」
「「NO! NO! NO!」」
観覧者達が代わりに答える。
「じゃっじゃあ左?」
「「NO! NO! NO!」」
観覧者達が哀れみの目で隊員を見る。
「もしかしてりょーほーですかーーーッ?!」
「「YES! YES! YES!」」
「もしかしてオラオラですかーーーッ?!」
滝沢が心の底から哀れむ顔で言う。
「YES! YES! YES! ‘OH MY GOD'」
北は肺一杯に空気をためる。
「オラオラオラオラオラオラオラオラ!」
すぅーっ!
「オラオラオラオラオラオラオラオラ!」
すぅーっ!
「オラオラオラオラオラオラオラオラ!」
はぁはぁはぁ、はぁ。
流石に息が持たない。北は28歳の例の海洋生物学者の偉大さを実感した。
隊員を見ると気絶していた。
(全部寸止めだったんだけどな)
ふと隊員を見ると、居初が隊員の隊員カードを抜き取っていた。
「何やってるんだ?」
「いやー、なんか使えそうだし?」
居初は他の隊員の物も回収する。
「おいまてぇ」
応援だ。北は急いでギャラリーと共に逃げる。外にはバンが待機していた。
「滝さん、居初、逃げるぞ!」
グラサンのイカツイ男がスライドドアを乱暴にあけ、車を発進させ始める。3人は飛び乗り、扉を急いで閉めた。
応援がゾロゾロ出てくる刑務所を見て、北は呟く。
「じゃあな、グリーン・ドルフィン・ストリート重警備刑務所」
滝沢が噛みつく
「ちげぇよ、ってかネタがバラバラだったぞ、最初2部から入って3部にいったら最後6部て、さてはあんたにわかだな?!」
(異世界産の漫画を真似したの、バレたかな?)
その漫画はある異世界学者が異世界語解読教材にしていて、ふとした拍子に翻訳版を出版社に持って行った所、大ウケして発売されたという伝説がある。
「ってか、滝沢さーん。最後のOH MY GODのノリ知らなかったです。滝沢さん読み込んでるんですね」
「『NO NO NO』知ってたら普通知ってるだろ。」
さっきの緊張した空気と一変、ふざけた会話をしながら車はどんどん郊外へ進んでいく。
♤
時刻は0時22分、東洲達は北が収監された刑務所近くで様子を伺っていた。
刑務所から三人組が走って出てくる。
「北さんだ。北尾さん、あれ北さんです!」
そこには北が知らない女性と男性と共に黒いバンに逃げ込んでいた。
後ろからは看守がゾロゾロ出てくる。
「誰だあいつら」
北尾は困惑する。男性も女性も、知らない顔だった。
そのまま黒いバンは走り去った。
「北尾さん追いましょう」
「いや、あのバンは今から警察の猛追跡を受ける。そこを追うのは危ない」
「オヤジいま、何が起こっているんだよ」
草むらから男が出てくる
「いつきが何者かと一緒に脱獄した」
「はぁ?だからこんな無鉄砲な計画は止めろッつったのに」
東洲が怒る。
「言葉を慎めよ」
「北だっけ?知らねぇ奴の為に命張る覚悟で来て、結果北は知らねぇ奴らと脱獄?ふざけんのも大概にしろよ」
「止めろ京伝」
海東京伝────北尾の息子の長男だ。
しかし実際状況がまずいのは事実だ。
「仕方ない、今日は撤収だ。次は奴らを近いうち追うぞ」
北尾は何かとても嫌な予感がした。




