第7話 朝焼け
「眩しっ」
北は目を覚ます。寝てしまっていたようだ。隣では居初が熟睡している。
〔皆さんこんにちは!今日もフレッシュな朝をお手伝い!北陸モーニングレディオ!まずはニュースから!〕
カーラジオが消え入りそうな音で垂れ流されている。車は知らない海沿いに停車していて、波の音が窓ガラス越しに微かに聞こえる。運転席にも助手席にも滝沢は居ない。日は段々と昇りかけていて、朝焼けが綺麗だ。
しかし北の目には始まりの象徴も、今日は何故か夕焼けに映る。
(まあ、色々一段落ついたしな)
この2カ月で本当に様々なことがあった。春信が漂流して来て、デカも来て、逮捕され、勝訴したと思えば国家反逆者容疑をかけられ、見知らぬ人達に助けられ、脱獄した。
〔では、続いてのニュースです。今日未明、国家反逆者の北いつきが脱獄したとのことです。北は現在北上中との事で複数人の仲間と共に行動していると考えられています。今日はは評論家の菱川先生に来て頂いて───〕
ふと窓の外を見る。そこには先程まで居なかった滝沢が居た。
じっと日が昇る海を見ている。
「滝沢さん、おはようございます」
「おお」
滝沢の隣に座る。
「綺麗だろ、一回旅行で来たんだ」
そう言って滝沢は笑い、コーヒーを啜る。しかし、その目はどこか寂しそうであった。
「ここきた時は彼女も居たし、こんな追われる身でもなかった。」
北は黙って聞く。それぐらいしか滝沢を受け止める方法は無かった。
「………俺には恩人が居たんだ。土佐さんっつってな、年は結構いってたんだけど、いつでも俺を受け入れてくれた。」
北は話しの着地点が一気に分からなくなった。
「だけどなぁ、あいつらがある日突然土佐さんを連れて行ったんだ。異世界人だ、とか言って。」
(え?)
異世界産知的生命体は春信が初めての筈だ。政府は隠蔽していたのだろうか。
「だから、俺はあいつらやあいつらの悪行を見て見ぬふりをした政府をぶっ潰す、そう決めたんだ」
その目には恩師と想う寂しさと決意が入り混じっていた。
って、え?
「セイフヲブッツブス?」
「そうだ、俺らは憎き政府をぶっ潰す、反政府同盟だ。北、お前には政府をぶっ潰すのを手伝って欲しい。」
反政府同盟───それは指定国家反逆団体にも登録される国家転覆を企む団体だ。構成員は数千人居ると言われている。
北は悩んだ。もし協力すれば鈴木を助け出せるかもしれない。しかし、助け出した後、さらに指名手配は強力なものになり、結局捕まって振り出し、なんて事は避けたい。
あくまで北は鈴木や仲間、恩師と今まで通り平穏な暮らしがしたいだけであった。
北は悩みに悩んだ、が、一つのシンプルなアンサーにたどり着いた。
(いや、どっちにしろ指名手配はされているし、外国にでも逃げればモーマンタイだな)
「…分かりました、脱獄した時居初に『手伝って欲しい事がある』って言われたんですけど、それって何ですか?」
「あぁ…言ってなかったか…。北、お前には異世界産物の提供や知識を求める。そして、政府をぶっ飛ばすのを手伝って欲しい。」
「……分かりました。でも、異世界産物も、報告書も持っていませんよ?大丈夫ですか?」
「だから、お前の家にこれから行く」
「はい?」
「作戦はこうだ。まず深河にあるアジト兼俺の家に行く。次にお前ん家に行く。この時連盟に協力して貰って、陽動作戦を行って貰うから警備は手薄だ。そして最後に取る物取って即座に立ち去る。いいな?」
北はもう一度滝沢の目を見る。
やっぱり情熱に燃える目をしていた。
(旧友に似ているな)
しかし、北は旧友を思い出せず、ただ漠然とそう感じていた。
(うーん、思い出せない。まあ、後でじっくり考えよう。さて、)
北は率直な疑問をぶつける。
「それは分かりましたけど、何でわざわざ俺にそこまでしてくれるんですか?鑑定士なら他にも居ますよね」
滝沢は困って暫く考え込む。
「それはだなぁ、えーと、うん、それはお前が…いや、うーん、うん
何でもねぇ、忘れろ!」
北は何を言っているのか分からなかったが
(まあ、いっか)
そう思うことにした。
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鈴木はある部屋に居た。保護施設で寝て起きたら居たため、どこなのかも分からない。
部屋は異様なほど綺麗に管理されていて、埃は一つも舞っていない。無機質な白一面の空間は不気味で圧迫感を生んでいた。
「鈴木君、何故受け入れない?」
目の前には白衣の男が困惑した表情で立っている。
「君は、君達は、限りないポテンシャルを秘めている。そして君はそれを受け入れる運命にある!何故ならそれにより世界は、科学は!大きな進歩を遂げるからだ!さあ、分かったら私の言うとおりにしなさい鈴木君!君を完全体にしてあげよう」
そう語る男は自らに、そして科学に、最後にこの二つを生んだこの最高の世界に心酔しているようだった。
「うるせぇ、完全体って何だよこの
マッドサイエンティスト!」
「マッドサイエンティストとは何だ、私は人類、科学、世界の為に言っているのだ!何故分からない?」
「わかんねぇよんなもん」
科学者は呆れた、という風な顔をし、何かボソボソ呟いた。暫く呟くとため息をついてこっちを向いた。
「………分かった。この実験は君にやる意思がないと成功しない。」
不機嫌な足取りで扉へ向かう。
「どうせあともう少しだ」
そう言って科学者は扉を閉め、部屋には鈴木と椅子が一個、寂しく残った。




