第5話 脱獄しませんか?
2日目。これで北がここに来てから2日目だ。
たかが二日でも、無機質なコンクリートに囲まれていては流石に参ってしまう。
北は通気口とドアしかない監獄にいた。目隠しをして入れられた為、外側がどうなっているかも分からない。
(筋トレしよ)
腕立てから始める。
53回目の時、急に声が聞こえる。
「聞こえますかー」
通気口から聞こえる。落ち着いているがどこか気怠そうな声だ。
「・・・」
「まあ、いいや。いや、よくないな。だいじょーぶですかー」
(あと27回待ってくれ)
北はペースを速める。
98、99、100
ふう。
「済まない、返答が遅くなった」
「おお、喋れたんですね。新しく来た者です。なんでここ居るんですか?」
「国家反逆者容疑」
「ふーん北さん、だっけ?反逆者なんだ」
(何故名前を知っている?)
北は怖くなって黙り込む。
「なんで黙るんですか?あっごめんごめん、看守から名前聞いたんだ。だから怖がらないで。」
「まず誰ですか?貴女」
「いそめ なつ、居間の居に初めの初で居初。なつはsummerの夏。」
国家反逆者容疑者は国営サイトに名前が載るが、居初という人は居なかった。
「なんでここに来た」
「ちょっと、名前聞いたからには名前聞かせてよー」
「嫌だ」
「なんでよー、折角合ったんだし素敵な名前、聞きたいなー」
甘えるように言ってくる。
「断る」
「じゃあ罪名言わない」
(それは困る)
何をしでかしたか分からない奴と会話するのはごめんだ。仕方ない。
「北」
「ん?」
「北いつき。漢字は───」
「北にひらがなの『いつき』でしょ」
(なぜ知っている?)
ここまで来ると怖くなってくる。
北は黙ることにした。
「聞かないんですか?罪名」
「・・・聞く。」
「ええと、私は、知りすぎた罪。」
知りすぎた罪?知らない罪状だ。
「私、GEOで働いてたんすけど、パソコンいじってたら色々知りすぎたらしいです。」
ますますよく分からない。しかもGEO出身、何者なんだ、コイツ?
「あ、だから鈴木君の事も知ってますよ、鈴木信春」
なんだコイツ。でも、何故か面白くなってきた。どこまで知っているか気になる。
「俺の出身地は?」
「東央都 本区 割上水 2-3」
「鑑定士番号」
「№0201305」
「顔面偏差値」
「70.3」
(へぇー)
思ったより高いらしい自分の顔面偏差値値に満足すると同時に、居初が自分の知り得ない情報まで知っていることにとても驚いた。GEOのデータベースにはそんな事も載っているのか。キモ。
「ところで、急なんですけど脱獄しませんか?」
「は?」
いけないいけない。ここに来てから語彙力が著しく低下している気がする。恐らく男子校出身の北には刺激が強すぎるのだろう。
いや、は?
「ええと、貴女、ここ来たのいつですか?」
「昨日」
「俺と話し始めたのは?」
「5分前」
ますます北は混乱した。先程から彼女には振り回されてばかりだ。
「で、するんですか?脱獄」
急に言われても困る。第一、顔も分からないうえ、あの忌々しいGEO出身の奴を信用して着いていって良いのだろうか。
「鈴木、今、人体実験の準備中です、良いんですか?」
は?
本当に色々な情報を頭に流し込んでくる。鈴木が人体実験されるのは予想していたが、今、もしかしたらそれを止められるかもしれない状況にある。しかしその方法は、どこの馬の骨かも分からないGEO出身の彼女に着いていくこと。もう訳が分からない。
「・・・分かった。脱獄する。」
「分かりました。代わりに手伝って欲しい事があるんですけど、それは後で言いますね。」
この際、交換条件などどうでも良い。友達を助けられるなら、それでいい。
「じゃあ耳塞いでください、滝沢さんお願いしまーす」
「え、ちょっちょっと待って下さ────」
「さん、にー、いち」
ドォォォォン!!
北の牢獄に穴が空く。これでコンクリートとも、布団という名のただの布ともお別れだ。
(最近爆発ばっかだな)
さあ
「今助けに行くぞ」
出口の方へ駆け出そうとした。が、後ろから声がする。
「すいませーん、私のこと、忘れてませーん?」
振り返ると女性が瓦礫から這い出る所だった。居初だろう。あたかも研究者、という顔をしている。そして煙の中からもう一人、がたいのいい男だ。滝沢だろう。
「北いつき、あんたを助けに来た」
「あーいっちゃいますかー滝沢さん」
(助けに来た?)
聞くと彼らは元から北を助けに来たようで、居初はデータをいじり収監されたことにしたらしい。
「警報も切っといたので、逃げちゃいましょう」
その時であった。
「動くな、お前ら」
機動隊だ。警報は切っていても、爆発音でバれる。即座に前後を囲まれた。
仕方ない。3人は大人しく手を上げる。そして互いの顔を見る。
北は彼らの言わんとすることが分かってしまった。
(マジでやるのか?できればやりたくない)
そんなこと言ってられるかという、呆れと期待の入り混じった顔で返される。どうやら避けられなさそうだ。
(仕方ない、やるか)
時刻は丁度0時を回った所だ。




