第4話 Standby.
「判決を言い渡します。」
「主文被告人を無罪とします。」
(え?)
「北さん、無罪ですよ!」
(え?)
無罪?
北は無罪になるなど毛頭思っていなかった。その為、この判決には驚いた。
北は静かに退廷していく。その顔はぐちゃぐちゃであった。
♢
「お疲れさまです。北さん」
北は今は伸びて3ヶ月間の療養期間中だ。
(休みも伸びたし、ちょっとだけあの裁判には感謝だな)
「それにしても殺人の容疑をかけておいて控訴しないなんてあるんですね。」
確かに言われてみればそうである。殺人という重大事件の容疑者をこうも軽々しく野放しにするのはおかしい。
「まあ、あの録音機が効いたのでしょう」
それもそうである。検察は裁判中、録音機に対し、有力な弁明ができなかった。そのような状態で控訴をするのも難しいのかもしれない。
ピンポーン
「はーい」
北は玄関に向かい、ドアを開ける。そこには何故か配達員ではなく機動隊がいた。
「北いつき。貴方を国家反逆者として確保する。手を上げろ。」
無数の黒光りする銃口が北に向いている。
銃を向けられてはどうすることもできない。
大人しく手を上げる。
そのまま輸送車に乗せられ、鈍い扉の音がした。
国家反逆者容疑───それは一般に国家に対して著しく害を及ぼす可能性がある者にかけられる容疑だ。例えば国家転覆を企むなどである。この国が200年程前、圧政下にあった頃、頻繁に使われたという。その使用条件の曖昧さから政府が消したいと思った人間を消していたらしい。そしてこの容疑は、かけられるとその他の法的手続きを一切無視し、人権を没収できる。その為今、北は裁判で反逆者ではないと証明することも出来ない。
北は自分がした過去の行動を振り返る。それらしい事は全くしていない。しかし考える内に一つの仮説が浮かんだ。
まず、殺人容疑での逮捕で、北を鈴木から引き離す。次に保護と称し鈴木を管理下に置く。そして検査をし、異世界人である事を確定させ、取り返そうとするなどの邪魔させない為にこうして北を国家転覆容疑で無理くそ拘束する。
これなら、検察が控訴しなかったこと、鈴木が入った保護施設が何故か郊外にあったこと。今捕まっていることにも説明がつく。
連中は異世界産知的生命体がたまらなく欲しくなったのだ。
異世界産物鑑定対処士はその名の通り、必要であれば対処まで委ねられる為、異世界産生命体共に暮らそうとも『対処』と称せば問題を起こさなければ問題ない。その為、連中は北を無理に引き剥がした。大切な友達と。
北は腸が煮えくりかえった。
(だからといって何かできるわけでもないんだがな)
不甲斐なさで心がいっぱいになった。
♤
(何故?)
東洲は分からなかった。北さんが何かするとは思えない。それなのに何故国家反逆者容疑をかけられる?
(そうだ、北尾さんなら)
北尾さんに電話をかける。
〔おお、東洲、どうした〕
「北さんが国家反逆者容疑で捕まりました」
〔・・・は?〕
東洲は事のいきさつをまくし立てる。
北尾は何も言わずただ、静かに聞いていた。
暫くの静寂の後、北尾が口を開く
〔北はGEOに狙われたんだ。いや、正確には鈴木が狙われ北は邪魔だから排除された。〕
東洲の脳内で無数の点が一本の線で繋がった。
「…なら、北さん助けましょう」
〔は?〕
「北さん助けましょうよ!こんなの不当だ!」
〔落ち着け、お前言ってること分かってんのか?相手は機動隊だ。そして今の北に人権は認められてないから裁判で正当性も主張できない。相当な理由でもないと助けるのは無───〕
「尊敬する先輩助けるのに理由が要りますか?」
北尾は何も言わない。正確には何も言えなかった。
「大切な人助けるのに理由が要りますか?」
要らない。理由なんて要らない。北尾だって可愛い弟子を助けたいのは山々である。しかし相手が相手だ。
「今、鈴───北さんの友達にまで危険が及んでいます。だからどうかお願いします北尾さん、手を貸して下さい。」
♤
〔どうか手を貸して下さい。〕
カチッ、カチッ、カチッ
時計の音が北尾をせかす。弟子も弟子を慕う彼も助けたい。しかし、相手は機動隊。正直勝てる確率は30パーセント位だ。
カチッ、カチッ、カチッ、ゴーン
(おいおい、時報まで急かすかよ)
うるさい静寂を過ごした。正直答えは決まっている。
ふう、相変わらず秒針はうるさい。デジタルに買い換えかな。でも覚悟は決まった。
空気を胸いっぱいに吸い込んで言う。
「東洲、決行は3日後だ!集合場所は観測所、遅れんなよ!」
ガチャン!
返答を待たず電話を切る。
「あー」
冷めたコーヒーを啜る。
(とんでもねぇ事になったなぁー)
なら、やる事はただ一つだな。
仲間に電話をかけ、一言。
「Standby.」




