第1話 漂流してきた少年
北は職場に向かって歩いていた。
(なんか電話かかってきそうだな)
この時間の電話は大体北の職場の「水町着弾点」からの物で、漂流物出現エリア内での異常を知らせる内容である。
そうして、北にとっては理想の日常からほど遠い電話が来ないことを祈りながら、北は恐る恐る携帯を取り出した。
ピリリリリリ
「ほれきた」
北は即座に着信拒否を押す。そしてこの忌々しい電話に一矢報いる。
(あーすっきりした)
と思ったのもつかの間、二度目の電話だ。仕方なく、ため息とともにでる。
〔何で即座に着信拒否したんスか?!反射神経テストでもしてんスか?ほんっと毎回毎回やめてください!〕
(うるさい。)
電話の主は後輩鑑定士の東洲 際
だ。(さあ、業務モードだな)
「でぇ~きょーは何ぃ~?何があったのぉ~?」
〔そんなあからさまに嫌そうにしないでくださいよぉ~。まあ、本題です。着弾点に少年が倒れています。〕
「少年?」
〔はい、気を失っているのか観測施設内のベッドでまだ寝たままです。〕
「分かった、五分以内には行くからその少年見張ってて~」
軽口こそ叩くが、北はある可能性に気づき、焦っていた。
漂流物出現エリア内に民間人が入ることはまずできない。エリアの外は有刺鉄線などで頑丈に囲われているうえ、警備システムも強固である。ということは考えられる少年の正体は───
「異世界人。」
北は走り出した。
♢
北が観測施設に着いた時、東洲は少年と強化ガラス越しに面談を行っていた。少年は小中学生のようで、受け答えはこの世界の人そのものであった。
(この少年が異世界人というのは思い違いだ)
そう無理やり思い込もうとしたが目に入る情報に彼の鑑定士脳は正直だった。少年が着ている服に書かれた柄には同じ幾何学模様が多く見受けられるなど、規則性が見受けられた。つまり文字である可能性が高い。しかし、この星のどの地域の文字どころか文法にも当てはまらない。
「ちょっと君、その服の文字読んでみて」
「あんた誰?こいつの仲間?」
少年は敵愾心向きだしの眼差しで北を見る。
「まずここどこだよ。あんたらかよここ連れてきたの」
「君が着弾点に倒れていたからだ。」
「は?倒れてた?嘘つくなよ。まず着弾点ってなんだよ。」
そう言いつつも少年の顔には困惑の色が広がる。そして目の前の大人二人は決して自分を誘拐したわけではないことを悟った。
「分かったよ、服の文字読みゃいいんでしょ?」
なぜ自分がこんなことをしているのか分からないという顔で少年は読んだ。我々の言葉で。
「分かった読んでくれてありがとう」
北は迷った、少年に「おそらくここが君のいた世界ではない」と伝えれば、少年は間違いなく取り乱す。そうなればこの『鑑定』はとてもやりづらくなる。だが、服の文字を読ませるなどという奇行をさせた以上、少年はこちらに何らかの意図があることを恐らく察している。少年は意図を問いただして来て、それもそれで『鑑定』はやりづらい。そんな北の頭の中にはつまらないギャグが思いついた。
───詰み?イッツミー。
ふざけた心をよそに北の思考は加速する。
まず少年が異世界人だとしてなぜこの星の言葉を話せるのだろう。異世界とこの世界は言葉が同じ?そんな馬鹿げたことがあるか?でもそうでないと服の文字について説明できない。
「さて、どうしたものか」
こういうときはまずはタスクフォーカスだ。まずは少年が異世界人であることを確定させよう。
「君はどこから来たの」
「東京」
「苗字は」
「苗字?鈴木」
「好みのタイプは」
「黒髪ロング」
「?」
「何でもねぇよ」
最後の応答は噛み合っていなかった気がするが、『トーキョー』という『都島副県』は無いうえ、鈴木は全国で20人しか居ない名門華族の苗字だ。目の前のやさぐれた少年がそうとは到底思えない。
北はまた暫く考え、少年にここが異世界だと伝えることを決めた。そうして伝えようとした瞬間だった。
ジリリリリリ
警報音。その中でも着弾点に巨大生命体が現れたことを知らせるベルの音だった。




