第2話 2人を繋ぐもの
私はユウの女避けだ。
1年前、嫌なことがあった夜。過去を隠すように髪を黒く染めた私は、独りバーで飲んでいた。一つ挟んだ隣の席に座って居たのがユウ。私と同年代のサラリーマンだ。けど、セットされた短い黒髪は少し乱れている。相当飲んでいた彼はバーテンダーに愚痴った。
「肩書で近づいてくる子が多くて。もう、うんざりなんです」
私はグラスの中で仄かに煌めく氷を眺めながら、彼の話に耳を傾ける。だけど、この日の私もかなり酔っていた。
「わかります……一番見て欲しいものを見てくれないって、辛いですよね」
グラスの氷が溶けてカランと鳴る。その音で我に返り、発言を悔いた。
「ごめんなさい。余計な事を……」
気分を害してしまったらどうしよう。しかし、彼は少し驚いたものの、にこりと笑い首を横に振る。
「いえ、言葉をかけてくれて嬉しいです。お礼に一杯奢らせてください」
その後、彼の愚痴を聞きながら何杯か飲んで一緒に店を出た。夜風を浴びながら一緒に駅まで歩いていると、彼が提案したのだ。
「アイさん、俺と契約しませんか? 偽物の恋人になって、お互い必要な時に協力し合いましょう」
馬鹿げた提案の割に彼は真剣だった。男と別れたばかりで恋愛に辟易していた私は、酔いに背中を押されて首を縦に振る。
1、詮索をしない
私達は互いに本名を知らない。「アイ」と「ユウ」の愛称で呼び合っている。出身や職業、相手が話さないことは詮索しない。
2、必要時にお互いを利用する
恋人の存在が必要となった時、私達は恋人の仮面を被る。彼は友人のホームパーティや小旅行に私を連れ出し、私は周囲に男の影を匂す手伝いを彼にしてもらう。
3、キスより先は禁止
ユウは優しく紳士的だった。契約を遵守して、素性の分からない私にも敬意を払ってくれた。彼の恋人役として過ごしているうちに、彼が本当に恋人ならいいのにと、淡い想いが募る……。
4、破ったら即解消
「アイ、好きだ……」
私を抱く彼は熱い吐息交じりに囁いてくれた。嘘でも嬉しくて涙が出る。
この幸せな思い出を抱えて消えよう。
『今までありがとう』
私はテーブルに合鍵と一筆を残し、夜明けと共に彼の家を出た。




