第3話 あの夜の先
「愛梨、久しいな。だいぶ印象が変わったな」
「叔父様、お久しぶりです。はい、渡した写真とはかなり印象が変わってしまったかも。お相手もビックリしちゃいますよね?」
「問題ない、彼はそれくらいで動じる男じゃないよ。それに今の黒髪も似合ってる」
ユウの部屋を出たあと、私は自宅に戻って午後の予定に向けて準備をした。
気持とは真逆の白いワンピースを着て、髪をハーフアップに結う。指定されたホテルのラウンジで叔父と合流した。
私は叔父から見合いを勧められていた。取引先に気に入った男性社員が居るらしく、私に紹介したいと。緩くカールしたブラウンの髪に、丸眼鏡をかけた男の写真を見せられた。
幼い頃から実の娘のように可愛がってくれる優しい叔父。彼の提案を無下にできなかった。会うだけあって、後日断りを入れよう。暫くはユウの思い出を抱いて生きて行きたい。
「杉田専務、お待たせしました!」
思い出の声に話しかけられ、ハッと振り向いた。
そこに居たのは、ユウだった。皺ひとつないスーツを纏い、黒い前髪を上げて眼鏡を掛けている。ユウも私に気付いて言葉を失っていた。そんな私達を尻目に、叔父は優しく笑うと話し出した。
「名取君、紹介するよ。こちら姪の杉田愛梨。兄の会社で社長秘書を務めている。愛梨、こちらは名取悠斗君。名取商事・専務のご子息だ」
その後は上の空で、何を話したかよく覚えていない。叔父が気を利かせて退席すると、名取さんはユウの顔になった。
「何で急に居なくなったんだ? 心配した」
「ごめんなさい。ユウを好きな気持ちが抑えられなかった。それに契約違反だから……」
「……そうだな、契約は解消だ。でも、最後にも一夜の過ちにもしない」
そのセリフを聞いて、弾かれたように顔を上げて彼を見つめる。彼は私の手を両手で包むと真剣な眼差しと共に言葉を紡いだ。
「アイ、僕と結婚を前提に付き合ってほしい」
あの夜を越えた先、2人を繋ぐ契約は消えてしまった。でも私達には新たな関係が生まれた。




