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第三章 未来都市の設計図 第三十九話 世界覇権の行方──核三大国と第四国連合

 ──覇権は、力ではなく「構造」で動く──

 覇権は、軍事力だけで決まらない。 覇権は、国家の「構造」、指導者の「性質」、そして世界の「潮流」によって決まる。

 二十一世紀前半の世界は、 核三大国の暗黙の談合、 中規模国家の生存戦略、 移民・資源・技術の再配置、 そして砂漠特区という「新文明の胎動」によって再編されつつある。

 この章は、世界覇権の行方を、 黒田一族の異母妹たちとベスの会話を通して描く。覇権の未来は、力の衰退ではなく、 構造の変化によって決まる。

 ─世界覇権の行方を読む─

 波瑠が仕切る昼食会が始まり、 ベスのテーブル席に四人の異母妹が集まった。

ダイ国、カン国、シンガ国、シャム国── それぞれが自国の未来を背負い、 砂漠特区への産業移転という使命を帯びていた。

 この章は、彼女たちが世界覇権の構造を読み解き、 自国の未来を設計する物語である。


 第三十九話 世界覇権の行方──核三大国と第四国連合──


 覇権は、国力ではなく「判断力」で決まる。覇権国は、最も強い国ではなく、最も「判断を誤らない国」である。核大国三国は、力を持ちながら判断を誤り、中規模国家は、力を持たずとも判断で生き残る。覇権の行方を読むとは、 軍事力ではなく、 判断力の地図を読むことである。


 2026年一月二十日、波瑠の昼食会開始が宣言されると、ベスのテーブル席に義鷹の四つの国籍を持つ異母妹たちが集まって来た。ダイ国、カン国、シンガ国、シャム国の四人。自国の企業・技術者・労働者をこの砂漠地の新産業エリアに移動させる使命を帯びていた。

 

 メイリン:「ニッチ国、エイ国、イ国の次期戦闘機開発は、新たな軍事同盟の始まりですか?」

長女が家裁のベスに質問した。メイリン(四十七歳)は、ダイ国人で黒田長政若頭(次期大頭領候補・五十五歳)の妻だ。

 

 べス:「はい、その三国は、コメット国人の語る安全保障の時代じゃないことに気付いたのです」

 

 メイリン:「自分のことは、自分で守る時代なのですね」


 ベス:「はい。投資責任のように国家間でも自国の防衛は、自己責任の時代になったのです」ベス(五十歳)は、確信している眼差しで明確に応えた。

 

 メイリン:「なぜ、そのようなことが起きたのですか」

 

 ベス:「コメット国は、政治、軍事、経済の三界の覇者に成り上がったことが原因です。時が経ち、ピークアウトの方向のトレンドに入ったのです。

 短期的利益を求める資本グローバル化の行動により他国に製造能力を分散させ、輸入依存で自国の国力を低下させたのです」


 メイリン:「コメット国は、いまや、単独では国土防衛に必要な軍も武器も十分に供給できない体制の国ということですか」

 

 ベス:「はい。その通りです。コメット国人は、自国の利益が絡む戦争はともかく、他国の窮地を救う“正義の味方”には、もうなれないのです」

 

 メイリン:「コメット国には、正義に命を賭ける武人がいなくなったのですね」


 ベス:「えぇ。致命的なのは、コメット国の提供する武器は、高額になり過ぎて、もうコストパフォーマンスが得られない時代なのです」彼女は、一例として戦闘機販売価格が一機百億円を超えたこと、その製品の納期や部品供給の不確実性、運用パフォーマンスの低下を上げた。

 

 メイリン:「ダイ国は、コメット国製の戦闘機を大量に調達しても、すぐに使えなくなるということですか?」

 

 ベス:「はい、航空機のように補修が必要な武器は、そうなります」

 

 メイリン:「ダイ国は、自国で製造できる安価な無人機と長距離ミサイルを大量に備えることが必要なのですね」 

 

 ベス:「はい。この分野は、ウク国から技術者を受け入れて、ダイ国で早急に会社を立ち上げて下さい。これを世界に供給するのです」彼女は、チュン国の先制攻撃に備えたダイ国の地勢を生かした地下鉄トンネル網と東部山地による防衛体制を構築する意義を示した。また、ニッチ国とフィル国と連携してダイ島を防衛する水上、水中無人機の運用体制を整備することを求めた。


 メイリン:「分りました。自国で防衛装備品を製造してダイ国を要塞化するのですね」


 ベス:「はい。ダイ国は、軍装備品を自国で製造する能力は、すでにあります。今ならロ国やウク国から技術者を受け入れることが可能です」


 ベスは、コメット・ロ・チュンの核大国独裁者三人による“暗黙の世界分割取引”が行われ、コメット国は、ダイ国をチュン国の侵略から守ってくれる長距離ミサイルを提供される可能性が低いとした。


 メイリン:「ニッチ国は、憲法の戦争放棄規定で攻撃を受けない限り、ダイ国防衛に参加できないのですね・・・」彼女は、そのルールを当然知っている。どのように正当化するかが政治だ。

 

 ベス:「ニッチ国は避難民を受け入れることしかできません。自国の防衛は、自国の責任で行う時代です。背景には、コメット・チュン・ロの暗黙の縄張り合意があると思って下さい」

 

 メイリン:「そのような取引は、現代でも許されるのですか?」質問でベスの内面を探る。

 

 ベス:「強い力を持つ者が、領土を決めることができるのです。核三大国は、お互いに縄張りを決めた方が無駄な核の暴力を使わずに『世界の富分割』を自由に出来るからです」彼女は、現実を直視していた。表の社会で生きてきたのに、裏の社会にも詳しい。ベスが特務員としても優秀なことを理解した。

 

 メイリン:「核大国の考え方が正義になる時代ですか・・・私に核大国の行動の読み方を教えて下さい」どのように行動するかを知っていたが、ベスの確認した。


 ベス:「核大国の指導者は、公私区別なく、言葉巧みに国民のためと称して国力を使います。その境界線は、いつも曖昧です。私は、クリミ侵攻を契機に、核大国の指導者たちの反応の鈍さから暗黙合意を察したのです。ロ国は、再びウク国に侵攻しています」


 彼女は、ロ国大統領が「戦争情報の罠」に嵌ったことを知っていた。大国の独裁者は、長期政権を維持するためには、大義名分が必要になる。「真面目な性格な偏執絶対権力者」は、この罠に嵌りやすい。戦争の勝利が権威を高めると信じている。


 メイリン:「世界の政治指導者は、どんな人なのですか」


 ベス:「はい。事実、真実、嘘の三界を操る人たちと思えばよいでしょう。だけど、現在の三大国の政治指導者は、『嘘概念』に操られるレベルにあります」嘘を用いる人は、信頼されないとした。


 メイリン:「具体例を上げて教えて下さい」メイリンは、ベスの見識を探る。


 ベス:「ウク国は、ソ連崩壊時に核兵器保有していました。その放棄を条件に核保有五大国から安全保障を得ていました。ところが、ウク国は、その五国に見事に裏切られました。保障したロ国は、侵略し、他の四国は、兵士を送らず、軍事支援に留めています」


 安全保障条約の危うさの歴史的事実を上げた。

 

 メイリン:「核大国同士は、直接対決を避ける時代なのですね。二十一世紀前半の世界覇権の動きを教えて下さい。2020年代は、独裁者三国軸時代へ対抗する動きになるでしょう」


 メイリン:「この動きに対抗する勢力は、どの国ですか?」


 ベス:「第四国連合です。エイ国連邦とニッチ国が主役です。これに欧州の国々が第四国際連合に参加する国も出れば、核三大国に懐柔されて不参加を表明する『まだら模様』になります」


 メイリン:「世界分割は、一時的な潮流ではなく、本流になるのですか?」


 ベス:「えぇ、三大核兵器大国に独裁者とその傀儡政権が続く限り、『核兵器保有国が支配者権を主張する時代』になります。当然ですが、表側では、そのような取引はないとされます」


 スジン:「そんな時代になるとカン国は、どうなるのですか」

 

 ベス:「地政でみると、カン国は、チュン国貿易に依存するので核武装しない限り、独立は困難です。安全保障を重視すると、いずれチュン国との同盟関係を選択する流れになります」彼女は、カン国はコメット国側から離反すると予測した。どちらにしても、この半島は、長期視点では、したたかに振る舞わないと北と南は、ロ国とチュン国の陣営に分割されると予測した。


 スジン:「コメット国駐留軍は、いつ撤退するのですか」


 ベス:「今は、きっかけを探している状態です。チュン国派とコメット国派の分断が起きて、チュン国派政権誕生を切掛けにコメット国軍隊は、撤退するはずです」


 スジン:「私の任務は、その事態に備えて、権威主義国陣営に入るのを嫌う企業経営者と社員ともども、この地に工場設備を移転させればよいのですね」


 スジン(四十七歳)は、ロボット製造会社を経営する森卓夫(四十八歳)と結婚。カン国で海外進出事業のコンサルティング業を行っている。


 ベス:「はい。その通りです」


 ベスのこの砂漠の未来都市構想は、壮大だ。カン国に変事が起きた場合、オウ国西部でカン国人を最大三百万人の人口移動を考えていた。この計画には、世界から「衣食住医の産業」を同時進行で移動させるが大問題だった。これは、オウ国の移民受け入れ態勢の整備は、ベスの父親で緑の党の後ろ盾の政治家トムの任務だった。


 ベス:「私は、昔のコメット国のように、オウ国が世界中の国から移民人材を集めて、『オウ連邦国作戦』を考えているのです」


 彼女は、戦乱や混乱を利用して最大で三千万人を住まわせる西部開拓計画を明らかにした。


 ベス:「オウ国全体では、ニッチ国の技術者による砂漠緑地化と農工場で、ニッチ国民二十一世紀末人口六千万人が安定して自給自足で暮らせるようにしたいのです」


 メイリン:「私の新任務を教えて下さい」


 ベス:「チュン国との統合をめざすダイ国人のA政治家の参謀になって下さい。

政権を得たらチュン国独裁者との対立を避けて2050年チュン国とダイ国を統合する作戦を行います。民主主義国家に変身させるのです」


 メイリン:「なぜ、2050年なのですか?」


 ベス:「『国力温存作戦』を行うのです。チュン国の独裁党政権は、それまでに権力者たちの内乱により弱体化するか、崩壊するからです。昔の事例で言えば、明国の内乱を鎮める『清朝作戦』を行います」

 

 メイリン:「チュンダイ合作は、どのように工作すればよいですか」

 

 ベス:「あなたは、気長にチュン国の清心会の工作員を使い、チュン国東部戦区と南部戦区の上将と中将とのパイプを監視するだけでよいです。彼らの旗揚げを待つのです」彼女は、特務員なので軍事学と地政学も学んでいた。

 

 メイリン:「ダイ国が。後ろ盾を求められたら動けばよいのですか?」


 ベス:「はい。権力者は、時節を見るのは敏感なので、内戦野心を現わしたら、彼らとチュン国の民主化作戦を行うのです。内戦に失敗したときには、ダイ国に逃げることができるので、ダイ国の後ろ盾は有効になります。ショウ総統の遺言任務を果たすのです」


 メイリン:「東部戦区と南部戦区が味方になると、どのような展開が予想されますか」


 ベス:「独裁者がいる中部戦区は、ロ国からの武器の補給がないと政権維持が困難になります。北部戦区か西部戦区には、虐げられた人々がいるので反乱が起き安全地帯ではないのです」


 メイリン:「ダイ国は、チュン国に対抗するには、内戦で疲弊させ、約二百万人の予備役に無線操縦を習わせて、万が一の飛び火に備えて自分では戦わないようにすることですね」


 ベス:「その通りです。チュン国の内戦には、直接参加しないのが基本です。東部戦区と南部戦区の民主主義を求める国民の要請を受けるまでは、ダイ国は傍観者です」


 メイリン:「オウ国は、どの立場ですか」


 ベス:「オウ国は、あくまでも民主主義国の保護者です」彼女は、エイ国・エリザベス一世のように、核大国三国支配構造の欠陥を突いて、海洋国・オウ国をニッチ国の国力を使い、オウ国を世界覇権国にする使命を自覚していた。


 ベス:「私たちは、南半球の砂漠地に未来都市を建設して北半球の独裁者国に侵略される国の後ろ盾になる役割を果します。この西部地域は、新しい文明の『自由の砦』にすることです」


 ジェニー:「オウ国は、資源国からの脱皮できず悩んでいる国ではないですか。そんな国で製造業文化を根付かせることができるのですか。その根拠を教えて下さい」


 ジェニー・タン(四十三歳)は、オウ国の東部地域の人々は、「不動産投資病」と「賭博依存症」に侵されていると指摘した。彼女は、シンガ人で投資ファンドの運用会社を経営している。夫は、黒田真田一族の真田裕樹(四十五歳:弁護士)。

 

 ベス:「はい。その通りです。統計上は、リッチな国民に位置付けられても不動産価格の上昇で家を持たない人の暮らしは容易ではないのです。

 また、オウ国は、資源国なので製造業が育っていません。チュン国との地政学リスクを抱えている国の後ろ盾になることで、この地の製造業を移転することで相互に地政学メリットがあるのです」


 ジェニー:「北半球を危険地帯と考えている人は、多いのですか」


 ベス:「いいえ。現実に起きるまで『核兵器の大量配備時代』の社会の危うさにほとんどの人は、敏感になれないのです。北半球の核兵器数量を計算して核兵器防衛能力を知ると、誰でも核兵器使用リスク地帯に住んでいると分るはずです」


 彼女は、独裁者が活躍する時代は、戦争や内乱が起きると、住民が大きな犠牲者になるのは、歴史的事実だとした。ウクロ戦争では、ウク国人約一千万人が他国に移動した。ロ国人も百万人以上が他国に移動したとの見方があるとした。

 

 ジェニー:「私は、この砂漠の千平方キロの港湾地域に中東国の資本を使い、シリポーンと組んで富裕層向けの観光リゾート都市機能を持つ、第二のシンガ国を建設すればよいのですね」

 

 ベス:「えぇ、問題は、農業と観光に関わる人々の確保と管理です」


 フィル国、ベト国、インドネ国、シャム国からの労働者を最大でオウ国人百万人に対して九百万人を受け入れることを考えていた。

 

 シリポーン:「オウ国人の保守層は、コメット国と同じように既得権を主張して大量移民の受け入れに反対する者が多いのでは?」

 

 ベス:「はい。今は、人が住んでいない砂漠地ですから、先住民の地権問題はありますが、大勢の人が住めるようになると、必ず自分たちの権利を主張する者たちが出て来るはずです」


 シリポーン:「この砂漠地の価値が上がると、キンブル家の借地権の再配分など法律問題が起きると思いますが・・・どのような対策を考えているのですか?」


 シリポーン・クギミヤ(三十九歳)は、この計画が成功するとオウ国の先住民が住宅と土地の借地権取得を目指して西部に百万人くらい移転して来ると読んでいた。彼女は、アジ人の労働者を各国に派遣する事業を営む。夫は、前田大翔(四十歳:農学博士)でこの砂漠研究所の農業部門の部長をしていた。


 ベス:「私は、権利を独占しないセコイヤリストの掟を守ります。社会問題は、個人や一族に過度な富の集中で起きます。

 私は、彼らにキンブル家の借地権譲渡し、緑の党の賛同者を増やす作戦を行います。個人の土地に対する欲望を活用して国有地を私有地にします。そうすることで安定的に地価が上がります」

 

 シリポーン:「一族の独占は、意味がないのですね。大勢に分け与えることで国家の富が増えるのですね」


 ベス:「はい。人が集まる場所が富の源泉になるのです。黒田一族の富は、一家では小さく、組織では大きくするのが基本です。セコイヤリストの任務は、オウ国民の利益と外国人の利益を上手に和合するように調整することです」


 シリポーン:「この経済特区の借地権は、百年経過すると国家に返還されることになります。私たちは、その前に西部地区十万平方キロの八十%を繁栄させる移民の企業社員と家族五百万世帯に分け与えるようにすれば良いのですね」

 

 ベス:「はい。祖父母夫妻子三人の世帯をモデルにして、ニッチ国にあるあらゆる業種の人材を揃えるのです」

 

 シリポーン:「ニッチ国のトウキョウをモデルに発展させると、我々一族の借地権の二十%の時価は、いくらくらいになるのですか」


 ベス:「理想郷の評価になれば、一京円以上になるはずです」


 メイリン:「私たちは、要はこの地にニッチ国の産業を移転すれば、オウ国人もニッチ国人もリッチになるのですね」

 

 ベス:「はい。残念なことですが、ニッチ国人は、まだ、自分たちの力を結集した場合の恐ろしい力を知らないのです。私たちは、器を作り、彼らの力が砂漠地に機能するようにするだけです」


 ベスの言葉は、砂漠の熱気のように場を支配していた。

 

 メイリン:「分りました」

 

 ベス:「みなさん、自分のテーブル席に戻り、お客様に対応して下さい」

四人は、打ち合わせを終わり、戻って行った。


 世界は、三つの覇権軸へ収束する。二十一世紀前半の世界は、核三大国の「暗黙の世界分割」、第四国連合の「新覇権軸」、そして砂漠特区の「文明軸」へ収束していく。覇権は、軍事ではなく、移民・技術・資源・制度の再配置によって決まる。砂漠特区は、 覇権の外側にある「新文明の創造」となる。


(第四十話 核兵器大国による世界分割─三軸覇権の時代─へ続く)


 覇権の未来は砂漠から始まる。ベスは、核三大国の談合構造を読み、ダイ国・カン国・シンガ国・シャム国の未来を設計した。砂漠特区は、 移民三千万人を受け入れ、製造業・農業・観光・防衛産業を統合する「新文明の母体」となる。覇権の未来は、北半球ではなく、南半球の砂漠から始まる。

 覇権は、国家ではなく「文明」が握る。覇権の本質は、国家の力ではなく、文明の構造である。核三大国は、力を持ちながら文明を持たず、第四国連合は、文明を持ちながら力を持たない。砂漠特区が生み出す新文明── それは、国家を超えた「文明覇権」であり、 世界の構造を静かに書き換える。覇権の未来は、 国家ではなく、文明が握る。


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