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第三章 未来都市の設計図 第四十話 核兵器大国による世界分割──三軸覇権の時代

 核兵器は、力ではなく「支配構造」である。核兵器は、戦争を抑止するための道具ではない。 核兵器は、国家を支配し、世界を分割し、人類の未来を縛る「構造そのもの」である。核三大国──コメット・ロ・チュン── 彼らは核兵器を使わずに覇権を握る。使わないことで支配し、使う可能性によって世界を従わせる。

 この章は、核兵器大国の支配構造を、 敏夫と陽子の会話を通して解き明かす。 覇権の本質は、軍事力ではなく、 嘘・真実・幻影の三界を操る者の手にある。

 核兵器三大国による世界分割。敏夫が、陽子・愛菜・美咲のテーブルに現れた。彼らは黒田塾の特務員コースで「賢者の称号」を競う同志。その敏夫が求めたのは、コメット国政治の最新情報だった。陽子は、情報取引に応じながら、世界が「核兵器三大国による分割統治時代」に入ったことを語り始める。


 第四十話 核兵器大国による世界分割──三軸覇権の時代──


 覇権は、核兵器の数ではなく「独裁者の心理」で決まる。核兵器は、数が増えるほど使えなくなる。使えない兵器は、戦争を抑止するのではなく、支配者の心理を歪め、世界を静かに分割する。覇権を決めるのは軍事力ではなく、 独裁者の恐怖、欲望、計算、そして嘘である。


 敏夫:「やぁー、久しぶり」大倉次官が黒田陽子、愛菜、美咲のテーブル席にやってきた。彼らは、黒田塾の特務員コースの塾生で“賢者になる誓い”を立てた第五世代の同志だ。


 陽子:「随分、ご無沙汰ね。敏ちゃん」陽子が、皮肉をいう。


 敏夫は、自分の頼み事があるときだけ会いに来る。他人の力を利用する知恵に長じている。彼らは、様々な事象の内界、境界、外界の三界を生涯に渡り学ぶことで「賢者」という黒田一族内の名誉ある称号を競っている。六十歳までに賢者の称号を得た者は、長老候補や次期大頭領候補になれる。


***賢者認定の項目***


・物事の本質を知る誓いを実践している。

・自由とその責任の重さを知っている。

・思考と行動のバランスを取れる器である。

・失敗の原因を学び、自他の強み弱みを知っている。

・上手に交渉相手と対話ができる。

・物事の分析、判断、計画、準備、決断、行動の達人である。

・相手の言葉や価値観の真意を理解できる。

・変化に適応した生き方を指導できる。

・自分の肉体と精神を制御できる。

・流転する事物の未来を予知した行動ができる。

 

 敏夫:「陽ちゃん、コメット国の政治の動きを教えてくれないか」敏夫は、目的を単刀直入にいう。

 陽子:「代価は、何で支払うの?」陽子は、にこやかに要求する。

 敏夫:「僕の持つ情報との交換でどうか」情報取引を持ち出す。

 陽子:「えぇ、いいわよ。先に教えてくれる」陽子は、慎重だ。

 敏夫:「コメット国の半導体メイカーのベンがこの未来都市でヒトを集めて量子半導体開発に参入することになった。このリストの十人の主要研究者を引き抜いて欲しい」


 大倉敏夫は、ニッチ国政府組織内に同期世代で構成する親睦会を組織している。情報を介して相互の便宜を図るのが目的だ。価値ある情報が彼の組織に集まるようになっていた。


 陽子:「敏ちゃんとベンとの関係は?」

 敏夫:「それは、言えない。ただ、君たちが得た人材を彼に紹介できる」

 陽子:「分ったわ」情報交換で取引が成立した。


 陽子たちの情報ビジネスの一つに、最先端技術研究者の「代理人事業」があった。事業の核になる人材を引き抜き新会社に紹介する。最低金額は、一人一億円になる。未来の兆円産業を築ける人材は、数百億円の投資価値があった。


 陽子:「第二四半世紀世界の現在の方向は、コメット・ロ・チュンの『核兵器三大国による世界分割統治時代』に移行する」


 敏夫:「西側と東側の二軸対立する時代は、終わるのか?」


 陽子:「えぇ。富の奪い合い構造は、核兵器大国三軸を主役に、脇役の核兵器中小国の四軸か五軸が加わり、他国を陣営に加える動きになる」

 

 敏夫:「その変化は、いつ頃から変化したの?」


 陽子:「チュン国が2023年から核弾道数を増やして千発以上を持つことが明確になったときからよ。もう、核三大国間で核兵器を使って争うメリットがない数量になってしまった」


 敏夫:「二軸から三軸の弱い者いじめの時代になったというのか」

 

 陽子:「えぇ。基本戦は相手を戦わせて、自分が静観する構造になる」

 

 敏夫:「四軸以上になったらどうなるの?」


 陽子:「お互いに意地を張り、核戦争を行った方が負け組になるかも」

 

 敏夫:「核大国三国の独裁者破滅リスクを計算した結果なの?」


 陽子:「えぇ。三国の独裁者制度は、戦争と平和の二つを引き起こす」 


 陽子(四十三歳)は、妹の愛菜(四十一歳)、美咲(三十九歳)と共にアメ大陸でアンティーク事業を表看板にしている。彼女たちは、裏側では、価値ある情報売買の仕事をしている。

 

 敏夫:「陽ちゃんは、核兵器の戦争抑止効果をどう見ているの?」

 

陽子:「ないと見ている」彼女は、過去の事例から使用するためにあると主張。世間でいわれる抑止効果が本筋でない。人間の内界を知れば、方便だと分るとした。


 敏夫:「おい、おい。そんなことは、言わないほうがいい」


 陽子:「えぇ、権力者の闇には知らないほうが良いことが沢山ある」

 

 敏夫:「あぁ。そうだ。核兵器は、核兵器保有国間の戦争抑止力として機能する。つまり、核兵器を無力化できる兵器開発ができるまで、その三国が、世界を支配する」


 敏夫は、核兵器保有国による権力構造について達観した眼差しをする。


 陽子:「えぇ、世界の支配者層は、権力者の癖を知った上で使っている。公益を語り私益を維持する方向で動く。権力者の本質を見抜いている。混乱を引き起こしても、それは、利益を得るための計算内よ」


 敏夫:「支配者層は、権力を維持するため、核兵器廃絶をしないということか」


 陽子:「えぇ。地球生命は、例外なく食物連鎖や自然淘汰の原理で動く。『生き残り競争』に無関心な種は、絶滅する。支配者たちは、自分たちが生き残ることを優先する」


 敏夫:「あぁ、そうだな。君は、その美しい顔で冷酷な事実を語る癖は治らないなぁ。もっと僕のように嘘を使ったらいいよ」


 陽子:「えぇ、だから・・・私たち上手く行かなかったのよ」彼女の顔には、恋人関係にあった二十数年前の思い出がよみがえる。

 

 敏夫:「嘘つきの僕を許してくれれば、上手くいったかも」顔に笑みがある。


 陽子:「えぇ、そうかも? 敏夫さん、結婚は?」二十代モードになる。


 敏夫:「君と同じ、独身だ。僕は、縛られることが嫌いだから結婚できない。仲間内では、そのタイプの烙印を押されている」


 陽子:「あぁ、そうなの。私、敏夫を縛り付けたことないわよ」


 敏夫:「僕たちの関係は、会わなくても終わった訳ではない。会えば昔と同じだ。考え方の重点の違いは、あるけどね」


 敏夫:「君は、事実や真実に重点を置き主張する。僕は、事実や真実よりも人々が信じやすい嘘を活用する。世界は、この三界で成り立っている。人は、嘘の方が信じやすい」

 

 陽子:「えぇ、現実の世界は、九十%は、嘘、幻影で成り立っている。だから、今では敏夫のいうことは理解できる。私、二十代は、十%の事実・真実に拘るので少数派だったのよ」

 

 自戒の念を素直な目で語る。


 敏夫:「あぁ、そうだ。だけど、君は、事実・真実に拘るから世界を支配する支配者層の動きを予測できるのだ。一般のヒトには、彼らの真意は理解できない」

 

 陽子:「えぇ、そうかも。でも、それが男女の関係では欠点になることもある」

 

 陽子と敏夫の関係は、2000年の始めに戻っていた。

 

 敏夫:「僕は、最近、物事にこだわらなくなった。自分の価値観と異なる人でも、それをそのまま受け入れることができる」

 

 陽子:「敏夫さんも、私も、大人になったのよ」 

 

 敏夫:「あぁ、そうかも。君と喧嘩別れした時代が懐かしい」

 

 陽子:「それって、どういう意味?」

 

 敏夫:「これからあの頃に戻るという意味さ」


 愛菜と美咲は、敏夫と陽子の復縁を感じとっていた。

 

 敏夫:「愛菜、カナ国の動きは、どう?コメット国の五十一番目の州になる可能性は、あると思うか?」愛菜も法律上は、独身だ。


 愛菜:「核兵器を持つエイ連邦国の一員なので、それはないと思う」


 敏夫:「美咲、中南アメ国民は、コメット国政府の傀儡政権を支持すると思うか?」


 美咲:「核兵器を持たないのでいいとこ取りされるリスクがある。政権基盤が弱く、治安が悪い。しかし、利害調整のない強引なやり方では、コメット国人はテロの対象になってしまう。これは、コメット国流ではない。ただの略奪者になる」


 四人は、昔に戻り、その会話が弾んでいた。核抑止は幻想であり、核支配は現実である。核兵器は抑止力ではない。核兵器は、支配者が使う「心理兵器」であり、世界を三軸に分割するための道具である。


 核三大国は、互いに戦わず、 中小国を戦わせ、 自らは静観し、 世界の富を分割する。陽子は、その構造を「核兵器三大国の暗黙の談合」と呼んだ。


(第四章 脳力開発訓練法 第四十一話 物語概念視点法を使う、へ続く)



 核兵器三大国の時代は、すでに始まっている。陽子は、核兵器三大国が 二十一世紀前半の覇権を握ることを断言した。敏夫は、核兵器が抑止力ではなく、支配者の計算装置であることを理解する。愛菜と美咲は、 中南アメ国やカナ国の未来を読みながら、 核兵器を持たない国の脆弱性を再確認する。世界は、静かに三つの軸へ収束していく。

 覇権の未来は、核ではなく「賢者」が握る。核兵器は、世界を分割する。 だが、世界を導くのは核ではなく、核兵器の裏側にある「構造」を読み解く賢者である。賢者とは、 事実・真実・嘘の三界を見抜き、 支配者の心理を読み、 未来の構造を予測できる者。核兵器大国が世界を分割する時代── その次の時代を創るのは、 核ではなく、 賢者の思考である。


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