第96話 説教された妾は、ゲンガーが妖精の国で過ごした日々を聞くことになる
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説教されたシェンルゥは工房で正座させられており、ゲンガーは精霊術の修業をすると行って森へ向かってしまった。
ひたすらに武器を作り続けていたヴェルグをチラチラ見ているシェンルゥは、その仕事の正確さに息をするのも忘れそうになっている。
静かになったシェンルゥを横目に、ヴェルグは熱した鉄を叩きながらも淡々と口を開き始めた。
「あの坊主は、複製体だとか抜かしてやがったな」
「え? ああ、そうじゃな。 そこにおるダレットと同じで、あやつも童が生成した魔造人間じゃ」
「魔術っつーのは人を作ることも出来ちまうのか。 恐ろしいもんだぜ」
黙々と鉄を叩きながら、ヴェルグは真剣な表情で言葉を続ける。
「あいつぁー随分なひねくれもんでな。 おいらが初めてあいつを見つけたときなんざ、魔物に殺されかけてんのに生きようともしてねー腑抜けだったんだぜ」
そこから、ヴェルグは鉄を打ちながらもゲンガーとの出会いを語り始める。
「あの野郎は、魔獣に殺されかけたところを助けてやったってーのに、『俺みてーな作り物を助けたところでなんの礼もできねーぞ?』なんて生意気なこと抜かしやがった」
「まあ、童の複製体だからのう。 口を開けば生意気なのは仕方があるまい」
「ゲンガー様は、ご自分が魔造人間であることをひどくコンプレックスに感じておりましたからね」
二人の会話に割り込んできたダレットを横目に、ヴェルグはおかしそうに鼻を鳴らした。
「なるほどな、魔術で作られた人形だとか抜かしてやがったのは、そう言う事だったか」
ヴェルグは納得したように鼻を鳴らしたかと思うと、鉄を打ちながらもさらに話を続けていく。
「行き場がねーとか言ってたからな、しばらく家で面倒見てやることにした。 ついでに精霊術も少し使えるだとか言ってやがったから、おいらが教えてやったんだ」
「あやつは必要最低限のカスディム文字しか刻印されておらんかったからな」
「おいらぁ、魔術がどんなもんかは知らねぇが、あいつぁ性格の割にはかなり努力家でな、教えてやったらすぐに色々マスターしてくれたぜ?」
当時のことを思い出したのだろうか、ヴェルグは父親のように優しげな笑みを浮かべたかと思うと、話を聞いていたダレットとシェンルゥは自然と口をつぐんだ。
「だからよぉ、おいらぁは思ったんだ。 あいつを作った魔術師は、誰よりも坊主のことを信頼してたからこそ、あの坊主には必要最低限の力しか与えなかったんじゃねーかってな」
口数が少ないヴェルグが、ここぞとばかりに嬉しそうにゲンガーと出会ったときのことを語りだす。
カイムにダンジョンを攻略され、決死の覚悟で行ったランダム転移でティア・ナ・ノルドに来てしまったゲンガーが送った日々のことを。
転移早々グレイトブリテンから溢れていた魔獣に襲われ殺されかけ、そこをヴェルグに救われ命をつなぎ、繭居迷宮に帰ることを決心した一ヶ月間の記憶を。
シェンルゥとダレットは、珍しく饒舌に語り始めたヴェルグの言葉に静かに耳を傾けているのであった。
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「おいふざけんなよ。 まともな場所に転移できたと思ったらこれか?」
ランダム転移に成功して早々、ゲンガーは高難易度ダンジョンにポップする魔獣、ベヒモスと対峙するハメになった。
ティア・ナ・ノルドの花畑に似つかわしくないほど禍々しい巨体を前に、ゲンガーは一目散に逃走を選択。
元々ゲンガーは必要最低限なカスディム文字しか刻印されていない魔造人間だ。 テオス相手でも手も足も出なかったというのに、高難易度の魔獣となれば対抗するのも難しい。
必死に逃げ続けるも虚しく、彼が向かった先は行き止まり。 逃げ場をなくしてしまったゲンガーはとうとう死を覚悟し、逃げるのを諦めてしまう。
(どーせ俺は、オリジナルの複製体だしな)
襲いかかってくるベヒモスを前に、呆れたように鼻を鳴らしてへたり込んだまま自らの終わりを受け入れる。
(所詮俺は、使い捨ての駒に過ぎねーんだ。 ……あいつにとって)
ベヒモスが振り上げた巨大な斧が振り下ろされる瞬間、血しぶきが上がる。
何事かと思い視線を巡らせたゲンガーが見たのは、大剣を振り抜いていた小さな妖精の姿。
背中から生えている羽根は半ばからちぎられており、口元に蓄えたヒゲは無造作に伸びっぱなし。
(ドワーフ? ああ、こいつ見たことあるぞ。 オリジナルの記憶にあったな)
身長の低さの割に恰幅の良い姿をした妖精は、いかつい顔をさらに強張らせながらベヒモスの腹に大剣を突き立てる。
武器による攻撃に対して高い耐性を持つベヒモスを串刺しにできる大剣だ、相当な業物なのだろう。
そう思った瞬間ゲンガーは、目の前に現れたその妖精の名前を思い出す。
(ああ、こいつあれだ。 マジフロ本編、後半の方に出てくる妖精鍛冶師、ヴェルグじゃねーか。 確か、妖精攫いにさらわれたところを助けて、主人公たちの武器を作ってくれるようになるやつ。 最強装備はこいつじゃねーと作れないんだったな)
「おい坊主、こんなところで何してる」
ヴェルグは、ボロボロのままへたり込んでいたゲンガーを睨みつけた。 既にベヒモスは切り刻まれ無惨な姿になっており、返り血を浴びているヴェルグは歴戦の猛者を思わせる佇まい。
「つえーなおっさん。 さすがは鍛冶妖精だぜ」
「ヴェルグだ」
無口なヴェルグは必要なこと以外は口にしようとしない。 ひねくれた性格で隙あれば小言しか言おうとしないゲンガーとは正反対だ。
「言っとくけどなおっさん、俺みてーな作り物を助けたところでなんの礼もできねーぞ?」
「おっさんじゃねぇ、ヴェルグだっつってんだろ」
呆れたように言いながら、ヴェルグは大剣に着いていた返り血を振り落とす。 すると、倒したベヒモスの状態を確認しながら、額から伸びている凶悪な角をじっと眺め、腰にさしていたナイフを取り出した。
取り出したナイフをベヒモスの角に当て、根本から刃を入れて切り落とそうと試みているらしい。
「ベヒモスの角はいい武器になるもんな。 俺のお陰で儲けもんかよ」
肩をすくめながら声をかけてくるゲンガーをちらりと伺いつつも、何も言わずに黙々と作業を進めてベヒモスの死体から角を切り落とすヴェルグ。 なんの反応もされないことに苛立ったのか、ゲンガーはわざとらしくため息を付きながら空を仰いだ。
「あーあ、おっさんのせいで無駄に生き延びちまったじゃねーか。 どうしてくれんだよ」
「おいガキ」
ベヒモスの角を切り落としたヴェルグは、ギロリとゲンガーを睨む。
鋭い眼光で睨まれたゲンガーは、思わず体を強張らせながら息を呑んだ。
「おいらはヴェルグだ。 何度も言わせんじゃねー」
「あ、ごめん……なさい」
「それに坊主、おめーどうやってティア・ナ・ノルドに来た」
「え、ああ、ランダム転移で、たまたま」
「おめぇ、魔術師か坊主。 もしかして、この羽根を狙ってんのか?」
ヴェルグが警戒しながら、もがれて半分しか無くなってしまっている自分の背中を指し示した。 すると、ゲンガーはブルブルと首を振り、必死に弁明を試みようとする。
「おいおい変な勘違いすんじゃねぇ、俺は魔術を使えるけど魔術師じゃねーし。 妖精の羽をもぎるのは一部のクソッタレだけだ! あんな奴等と一緒にすんじゃねぇ」
「そうか、なんでランダム転移なんてした?」
「ああ、それか。 話すとなげーんだよ。 とりあえず、俺はお前ら妖精に危害を加えるつもりはねー」
そう言いながらゲンガーは、傷だらけの体に鞭を打って立ち上がる。
「とは言っても、言葉だけじゃ信じれねーだろうな。 俺はとっととこの国から出てくぜ」
「待て」
よろよろしながら立ち上がり、足を引きずりながらその場を去ろうとしていたゲンガーを引き止めるヴェルグ。
ゲンガーはきょとんとした顔で振り返ると、ヴェルグはひらひらと手をこまねいてきた。
「ついてこい」
「え? いや、だから俺はすぐ出てくっていってんだろ」
「傷、治るまでは大人しくしとけ」
そう言って、ヴェルグがジッと凝視してきたため、ゲンガーは勢いに押されて断ることができなくなり、渋々後について行くことになったのだった。




