第95話 意外と早く暇になった俺は、妖精王とお菓子を食べに行く
❖
「グレイトブリテン、廃ダンジョンにしてきました」
「帰って早々酷い冗談なんだぞ?」
「ちっちっち、冗談などではないっち。 最強魔術師に悪魔総裁、加えて仙人と魔導師の隠し子であるメイハオちゃんが挑んだら、過疎化出来ないダンジョンなどないんだっちよ」
「メイハオ、楽しかったー」
「あ、あのダンジョンに挑んだ感想が、楽しい? 信じられないんだぞ?」
妖精王アウベルは、スッキリした顔で帰ってきた俺たちを見て苦笑いを浮かべている。
グレイトブリテンは一回層しかない、高難易度の割には変わった作りになっている。 しかしその面積は広大で、現代知識でわかりやすく言うのなら東京ドームよりも一回り大きいくらいだ。
そんな広大な面積をしているというのに、ダンジョンは複雑な迷路化している。 迷路化しているダンジョンの各所に中ボスレベルの魔獣が配置されており、ダンジョンの最奥にはしっかりとダンジョンボスまでいる始末。
とは言っても、迷路化しているダンジョンなのに壁をぶち壊して直進しかしなかった俺達はほとんど道に迷わずダンジョンボスと遭遇することが出来たため、三人がかりでフルボッコにして攻略RTAを成功させてしまった。※RTAとはリアルタイムアタックの略称
ボスを倒した後も目についた端から破壊に破壊を繰り返していたら、いつの間にか壊した壁が修復しなくなるという現象に陥り、迷路のように入り組んでいた壁を破壊し尽くしていたら気がついたら瓦礫の山になっていたのだ。
思ったよりも早く攻略完了してしまったため、しばらくモンスターがリポップするのを待ったりしてたが、過疎化してしまったダンジョンはモンスターの再生成など行われない。
モンスターもポップしないし破壊した壁も修復されないのを確認して、カイムから過疎化成功だというお墨付きもあったので早々に帰宅してきてしまったわけだ。
なんなら、アダマンタートルを討伐するまでにかかった時間よりも早くグレイトブリテンを過疎化出来てしまっただろう。
「嘘だと思うなら見てきてみろよ、罠もねーし魔獣もポップしねーし、なんなら壁もぶっ壊れたまま治ってねーからな?」
「君たち、もしかしなくても破壊神なんだぞ?」
「ちっちっち! 我が名はピエール・シャルルモニエ・カイム也! 破壊の化身という二つ名が今日この日生まれてしまったんだっち」
カイムがまたしても厨二病ポーズを取っている。 毎回毎回新しいポージングを考えるのは大変じゃないんだろうか?
「それにしても、まさか君たちが来てからたった数日でこの国の問題が解決してしまうとは、さすがはゲンガーちゃんの友達なんだぞ! なんと感謝すればいいのやら」
「確認しにいかなくていいのか?」
「アダマンタートルとの戦いも見てるし、なんなら昨日の魔獣掃討作戦の戦いぶりを見ているから。 納得だと言えば納得なんだぞ」
「お前がそれでいいなら別にいいけど」
呆れたように肩をすくめている妖精王を見て、俺までつられて乾いた笑みを漏らしてしまった。 そんなやり取りをしていると、カイムがニヤリと口角を上げながら妖精王に問いかける。
「ところで妖精王、約束通り廃ダンジョンにしたグレイトブリテンはカイム達がもらってもいいんだっちか?」
「それはもちろん! 我達もダンジョンの扱いなんてよくわからないから、管理してくれるなら大助かりなんだぞ!」
「それなら、ゲンガー達がヴェルグの羽根を治癒するのにはかなり時間かかるだろうし、待ってる間俺達は暇になるから……観光しに行くか?」
「わーい、観光だー!」
「カイムは美味しいお菓子を食べたいんだっち!」
「おいしいお菓子?」
「妖精の国、ティア・ナ・ノルドのお菓子はとっても美味しいと聞いているんだっち!」
「メイハオ、お腹すいた」
俺の提案を聞いたメイハオちゃんとカイムがウキウキしながら話し合いをしていると、妖精王は眉を開きながら二人に歩み寄っていく。
「それなら、ダンジョンを過疎化してくれたお礼に、我自ら美味しいお菓子屋さんに招待してあげるんだぞ!」
「妖精王自ら案内してくれんのか? 随分なVIP対応だな」
「そりゃー、この国の脅威を取り去ってくれた恩人を適当に扱うわけにはいかないんだぞ」
そう言って妖精王は、早速とばかりに俺の背中を押して来る。
「え? 俺もお菓子食べに行くの決定なの?」
「保護者は同伴しないとダメなんだぞ!」
「だめなんだぞ!」
「メイハオちゃん、テンション高くない?」
「ちっちっち! あまぁいメープルシロップに侵食されたパンケーキ……カイムの腹が唸りを上げるんだっち」
「腹減ったんだな、分かった分かった早く行くぞ」
こうして俺は、やや面倒なことに巻き込まれはしたが、無事にやることも終わったので観光に勤しむことができるようになったのだった。
❖
ゲンガー達がヴェルグの家に到着してから数日。 ダレットはもがれているヴェルグの羽根を治癒し続けているが、いかんせん欠損部の治癒となるとどうしても時間がかかってしまうため、暇を持て余したシェンルゥは案内された客間でぐでーっと寝っ転がっていた。
「はぁ〜、ひまじゃ」
「三十分に一回は言ってるな。 オリジナルの手伝いに行けばいいじゃねーか」
「高難易度ダンジョンの攻略など、面倒だから嫌じゃ」
「この穀潰しが」
「ゲンガーまで童と似たようなことを言うでない」
ヴェルグは黙々と武器の作成に没頭しているし、そんなヴェルグの側で治癒魔術を展開し続けるダレット。 静養すると気合を入れて、近くの森の中で瞑想をし続けるという奇行を続けているペペ。
シェンルゥも乙女なため、最初の数日は近くのお花畑で花冠を作ったり蝶々を追いかけて走り回ったりと、彼女なりの暇の潰し方をしていたようだが、流石に二日も経ってしまうとどちらもつまらなくなってしまう。
同じくやることがないゲンガーは精霊術の使い方などが記載されている書物を読んだり実際に精霊術の訓練をしていたりと色々しているようだが、シェンルゥがつきまとってくるようになったせいで集中ができなくなってきているようだ。
盛大なため息を付きながら読んでいた本を閉じるゲンガーをちらりと確認したシェンルゥは、待ってましたとばかりに起き上がり、ソファーに座り直してキラキラした目を向ける。
「なんじゃなんじゃ? なにか面白いことを思いついたのか?」
「オメーがうるせーから森に行こうとしてんだよ」
「ペペと瞑想するつもりなのかのう?」
「瞑想って意味あんのか? するわけねーだろ」
「妾は暇なのじゃ、なにか面白い話しの一つもできぬのか?」
「俺が面白い話をできるとでも思ったか?」
「そうじゃなー、この国に転移してからの話でもしてみい」
そう言われた瞬間、ゲンガーは何も返事をせずにささーっと部屋を出ていこうとしてしまう。 しかしシェンルゥはいい暇つぶしができたとでも言いたげな笑顔で立ち上がり、部屋を出ていこうとしていたゲンガーに飛びかかった。
「逃げるでないゲンガーよ! お主がそこまで妖精達をひいきする理由を吐かんか!」
「ヤダって言っただろうが! このくだり何回目だくそったれ!」
ゲンガー達がヴェルグの家についた際、シェンルゥがそれはそれは粘着質にゲンガーが転移してからの出来事を問いただそうとしていたが、ゲンガーは頑なに話そうとしなかった。
一日中騒いだ挙げ句ゲンガーが本気で怒り出したためしばらくは問いただそうとしなかったようだが、退屈さが臨界点を突破した今、シェンルゥの興味はゲンガーの昔話にフルスロットル。
「言わなきゃ離さんぞ!」
「だったら適当に引っ付いてろこの穀潰しが!」
「歩けんように足を極めてくれるわ!」
「おい、やめろ! マッジで面倒くせー女だなお前は!」
しばらく取っ組み合いを繰り広げていると、武器を作るため工房に籠もっていたヴェルグが顔をしかめながら客間に顔を出してきた。
腰にしがみついているシェンルゥを引き剥がそうともがいていたゲンガーは、まずいと言いたげな顔で冷や汗を浮かべながら恐る恐るヴェルグの顔を確認する。
「お前ら、騒ぐんなら外でやれ。 うるさくて集中できねーだろうが」
「こやつが悪いんじゃ!」
「俺のせいにすんじゃねー」
またしても騒ぎ出すシェンルゥとゲンガーを見て、こめかみに怒りマークを浮かべたヴェルグはふるふると右腕を震わせ……
「じゃっかしいわおんどりゃー、いい加減にしねーと頭かっくらすぞ!」
脳天にげんこつを喰らったゲンガーとシェンルゥは、あまりの痛さに涙目でうずくまってしまうのであった。




