第94話 最難関ダンジョンに挑んだ俺は、予想以上の楽しさにトチ狂う
❖
アダマンタートルを討伐するのに五時間以上かかってしまった。 しかもひっくり返した回数は八回。
妖精王アウベル率いる妖精さん達やメイハオちゃん、それにカイムもいたというのにこんなにも時間がかかったのだ。 ゲーム時代はトッププレイヤー三十人がかりで討伐に八時間以上かかったのだから、五時間で倒せたのはまあまあすごいと思いたい。
ひとまずアダマンタートル退治でかなりの魔力を消費した上に、日も落ちてしまっていたため全員ダナシィの街に撤退。
翌日の朝から三チームに分かれて魔獣掃討作戦が行われた。
俺とメイハオちゃん、カイムの三人を主軸にして妖精王が選抜した妖精探検隊を十名ずつ分配。
とは言っても、アダマンタートル級の魔獣はもう現れないため、ほとんど魔獣をぶっ倒してたのは俺達三人だった。 妖精さん達は魔獣を見つけるために飛び回ってくれたり、後は戦闘中の俺達の補佐に回ったり。
結局たった二日でダンジョンから溢れた魔獣たちの掃討が終わり、いよいよ俺達三人はグレイトブリテンの攻略に赴くことになった。
「シェンルゥたちはマジで手伝ってくれねーのかな」
「メイハオ、あんまり人が多くないほうが、戦いやすい」
「ちっちっち、メイハオちゃんの仙法は周りを巻き込みやすいから大変なんだっち」
まあ、魔獣退治の手際を見る限り、俺達三人でもダンジョンの攻略自体は簡単だろう。
問題は、今回の目的はダンジョンを攻略するだけではないということだ。
「ダンジョンの活動を止めるってのがいまいちピンとこねーんだよな」
「それなら簡単だっち。 魔力を大量に使わせて赤字にさせればいいんだっち」
「と、言いますと?」
ダンジョンの作りに詳しいカイムは、できるだけわかりやすく解説を加えてくれる。
「まずダンジョンは挑戦した人間どもから各種生命力を吸収するためにあるんだっち。 そして吸収した生命力でダンジョンの運営を賄っているっち」
以前聞いた話によると、ダンジョンは悪魔達が資源を確保するために作り出したシステムでできており、現実世界に行きている人間たちから生命力を吸収するための施設らしい。
つまり、わかりやすく言ってしまえば俺達人間がダンジョンの中で魔獣を倒すために使ったエネルギーがダンジョンの経営を回しているため、ダンジョンの機能を停止させるためには吸収した生命力より使用する生命力が多くなればいいらしい。
「具体的にどう言う機関に生命力を使ってるんだ?」
「少年、君はダンジョンマスターをしているから分かるはずだっち。 ダンジョンを作る際どう言うときに魔力を使うっち?」
言われてみて考えてみる。
まず、冒険者に倒された人型魔獣を復活させる際、召喚陣で魔力を使用している。 他には罠を作る際、内装をこだわる際、他にもダンジョンを広くしたりする際も魔力を使う。
「つまり、魔力を節約しつつ出てくる魔獣を片っ端から蹴散らしてしまえば、もう復活させられなくなるんだっちよ」
「え? マジで? つーことは今回の攻略は魔術使用禁止な感じ?」
「それだとあの魔獣たちを倒すのははっきり言って難しいんだっち」
「そりゃそうだ。 でも魔術を使うとダンジョンに吸収されるんだろ?」
「いちばん重要なのは、悪魔達がなぜ負の感情を好んでいるのか、を考えることだっちよ」
カイムの人格が破壊される前、ペラペラ喋ってくれた重要情報はいまだに覚えている。
俺達魔術師が負の感情を抱くと生命力が濁り、それが臨界点を突破すると命濁化する。 命濁化した魔術師の魔力は悪魔との親和性が高いため希少なエネルギーとして重宝されやすく、悪魔達は魔術師達に嫌な思いをさせるためにダンジョンを過酷なものにしているようだ。
「メイハオ、分かった!」
「よしよしメイハオちゃん、言ってみるっち」
「みんなで楽しく、ダンジョンをお散歩すればいい」
「あのねーメイハオちゃん、そんな簡単な話で済むんなら俺達そんなに苦労しないんだよ?」
「素晴らしいんだっちメイハオちゃん! まさにその通りなんだっち!」
こいつ今なんて言った?
「あの? カイムさん」
「ずばり、ダンジョン形成するために使用している魔力を枯渇させるため、笑顔で楽しく、ウキウキ気分でダンジョンの壁を破壊し、モンスターを蹴散らし、見つけた端から罠を壊しまくればいいんだっち!」
恐ろしいことを言い出すカイムに驚愕し、俺は思わず顔を引き攣らせた。
「なにそのクソ頭が悪い解決方法」
「何言ってるんだっち。 これが最も簡単な解決方法だっち」
「とっても楽しそう!」
「あれ? 何でノリノリなのかなメイハオちゃん?」
ウキウキ気分でバンザイしているメイハオちゃんにドン引いた視線を送る俺。
「さあさあ、そうと決まれば少年。 その微妙な気持ちを改めるんだっち! 簡単なことだっちよ? 好きに壊して好きに暴れて、好き放題力をぶちまけるだけでダンジョンは過疎化するんだっち!」
カイムが声高々と恐ろしいことを言い出した。
「というわけで、みんなで楽しくダンジョンを破壊するために、手を繋いで入っていくんだっち!」
「わーい! お兄ちゃん、おてて繋ごー」
「え、あー、うん、はい」
困りながらも両手を幼女達と繋いだ俺は、メイハオちゃんとカイムに釣られてスキップでグレイトブリテンに入っていった。
俺達はお花畑を探検するような笑顔と歩調でこのダンジョンに挑戦しているわけだが、間違えてはいけない。 このダンジョンはトッププレイヤーも悲鳴を上げる高難易度ダンジョンだということを。
❖
破壊の旋律が、グレイトブリテンにこだましていく。
「極寒法印【氷裁必屈術】氷柱雪崩!」
「ちっちっちっち! そらそらーもっと必死に逃げ惑うんだっち!」
グレイトブリテンは迷宮式ダンジョン。 いくつにも枝分かれした道が複数存在し、ルートを間違えてしまえば入口まで戻ることすら困難になる。
道に迷って出られなくなり、凶悪な罠や魔獣の餌食となり所持アイテムを全ロストすると言うプレイヤー達が続出した最悪のダンジョン。 それがグレイトブリテンだ。
だが、それがどうしたというのだろう。
道が入り組んでいるなら壁を破壊してしまえばいい、魔獣が寄ってくるなら片っ端からぶっ飛ばしてしまえばいい。
「くくく、アーッハッハッハッハッハ! 何もかもぶっ壊してやるぜー! ひゃっほーい!」
「その調子だっち少年! 壊すのはとっても楽しいんだっち!」
「このダンジョンの壁は板チョコで出来てんのか? 脆すぎてまるで止められねーぜ!」
本来、迷宮のように入り組んでいるダンジョンのはずだが、バカ正直に正解のルートを探していれば攻略に時間もかかるし、敵と会敵する回数も増えて消耗してしまう。
なので、道を間違えるたびにフラストレーションが溜まり、敵と会敵するたび緊張感に駆られるグレイトブリテン。
罠も非常に危険なため、一歩歩くだけでも緊張の糸を張り続けなければならない死と隣り合わせの危険なダンジョン。
そんなダンジョンの中で、俺達は花が咲いたようなとは言えないが、大学生が深夜にお酒をがぶ飲みしているようなテンションで進んでいく。
「魔術大全【第966頁】混合式:黒渦!」
漆黒の魔力の塊が、周囲にあるものを片っ端から吸い込み、大爆発を起こす。 ダンジョンの壁は破壊されていき、迷路のはずのグレイトブリテンは更地のようになっていく。
ちなみに、このダンジョンの壁は非常に硬いため、850ページ以降の混合式でないと壁は壊せない。
それに厄介なのは壁の硬さだけではない。 振り返るとダンジョンの防衛機構と呼ばれる機能が仕事をして、俺達が破壊した壁を自動修復していく。
これがこのダンジョンが嫌われる理由だ。
「誰が直していいと言ったんだっち! メイハオちゃん!」
「極寒法印【氷裁必屈術】氷塊隆起」
すぐさまメイハオちゃんが巨大な氷の塊を作り出し、それを遠隔操作してゴロゴロ転がし、目に付く物すべてを破壊していく。
ポップした魔獣たちは意味もわからぬまま氷漬けにされるわ巨大な氷の塊に踏み潰されるわでてんやわんや。
そんな中、勇敢な魔獣は暴れまわる俺やメイハオちゃんに決死の特攻を仕掛けようと、脇目もふらずに突進してくる。
「気安く近づくなっち! “身の程をわきまえて自害するがいいんだっち”」
そんな勇敢な魔獣もカイムの声を聞いた瞬間自らの首を掻っ切り、ボロ雑巾のように床に転がってしまう。
この通り、近づこうとする魔獣はカイムが自害させ、目の前にあるものは俺が高レベル魔術で片っ端から破壊。 俺が破壊した壁やらなんやらを修復するためダンジョンの機構が働けば、今度は最後尾のメイハオちゃんがダンジョンそのものを氷漬けにして妨害。
俺とメイハオちゃんの攻撃をかいくぐってきた魔獣も、カイムによってサクッと始末されてしまう。
破壊された壁を修復するのも間に合わず、魔獣たちの補充も一切追いつかない状態が続くグレイトブリテン。
目についたものを何も考えず破壊し続けていた俺は、いつの間にかテンションが最高潮に達しており……
「なんだよこれ、ぶっ壊すのって……たっのしぃぃぃぃぃ!」
「少年! 命濁化もどんどん収まってるんだっち! これこそ最高のストレス解消法なんだっち!」
狂ったようにダンジョンを破壊し尽くす俺達であった。




