第92話 幼女達が無双するところを眺めていた俺は、予想外の強敵に手を焼かされる
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ダナシィの街から出て外周をぐるっと回ってきたメイハオちゃんとカイムは、街の反対側で口論を繰り広げている。
「メイハオ、でっかい魔獣ばっかり倒してた」
「ちっちっち、分かっていないっちねメイハオちゃん。 魔獣のデカさなど飾りに過ぎないんだっち。 重要なのは、何体倒したのかということなんだっち」
俺はこの口論を見ながらどうしたもんかと頭を悩ませる。
二人が散歩ついでにギタギタのメタメタにしていた魔獣たちは、間違いなく高難易度ダンジョンで出てくる上に、めちゃくちゃ倒すのに時間がかかる魔獣ばかり。
メイハオちゃん側、左側にいた魔獣はかなり見た目がデカく、小さいものでも全長二メーター弱はあった。 それに耐久力が高いし一撃で倒すだなんてのはほとんど無理とも言えるレベルの魔獣。
にも関わらず、メイハオちゃんが通ってきた左側は氷像になった巨大モンスターや、巨大な氷の剣に貫かれて無惨な姿になっている魔獣ばかり。 見た目的にはかなりグロい。
対して、カイム側には体躯は小さいがすばしっこい上に非常に攻撃力が高い魔獣がわんさかいた。
ノーダメージで倒すのは愚か、少しでも油断すれば一瞬で致命傷を負わされかねない危険極まりない魔獣たち。 例えるなら高難易度ダンジョンにおける暗殺者とでも言ったところだろうか。
そんな危険極まりない魔獣たちが、カイムの歩いてきた道に転がっており、倒れている魔獣たちはすべて首から上がない。
ノーダメージであんな危険な魔獣がはびこっている場所を通ってきたのもすごいが、魔獣たちがすべて自害しているというのも恐怖でしかない。
これは、どっちがすごいかなんて聞かれても、甲乙つけがたいレベルのクオリティである。
「メイハオ、いい事考えた」
「奇遇だっちねメイハオちゃん。 カイムも手っ取り早い作戦を思いついたっち」
嫌な予感を感じたのだが、二人が同時に俺に注目し始めたので嫌な予感は確信に変わる。
「お兄ちゃん!」
「どっちがすごかったっちか?」
究極の選択とはこのことだろう。 恐らくこの選択で、この後の未来が変わる。
「メイハオ、でっかいまじゅーを二十四体やっつけた!」
「カイムは非常に危険な魔獣を三十七体屠ったっち!」
「でもでも、メイハオが倒したのは、ぜーんぶ頑丈な魔獣って、妖精さん達言ってたもん」
「それを言うなら、カイムが倒した魔獣は攻撃を当てることすら難しい魔獣なんだっち」
二人が睨み合い、火花をちらし合う。 その隙に俺はそそくさとその場を去ろうとしたのだが、愛用のポンチョの裾をぎゅっと捕まれ逃げられなくなってしまう。
「お兄ちゃん! メイハオのほうがすごいから、なでなでして!」
「カイムの方がお利口さんだっち! 少年とお手々を繋いでお出かけする権利があるっち!」
いつの間にかカイムも俺に懐いているのはよくわからないが、この二人はどっかの穀潰しと違って雑に扱うのは抵抗がある。
どうしたもんかと悩んでいると、街からかなり離れた場所で轟音が轟くと同時に、もくもくと砂煙が上がった。 二人揃って機敏に反応すると、音がした地点にとんでもなくでかい魔獣が現れたことが確認できる。
「ほほう、あれは凶悪変異魔獣、アダマンタートルだっちね」
「とっても硬そう」
陸が盛り上がったように動いたかと思ったら、ボロボロと木々や大地がめくれていき、下から紫銀色のカクカクとした甲羅が露出していく。
あの色はアダマンタイトという魔鉱石で、基本的にマジフロの強力な装備は魔鉱石製のものとなる。
アダマンタイトを100%使用した甲羅を背負い、マジフロでもトップクラスの耐久力を誇る上に、魔獣のサイズランキングでもトップスリーに入るほどの化け物。
それがアダマンタートルである。
突然起き上がったアダマンタートルの周辺で、妖精たちが悲鳴を上げながら逃げ回っている。
基本的にアダマンタートルは魔術を吸収する。 なんなら仙術や精霊術だって吸収してしまう。
その上俺達プレイヤーから吸収した力を自分の魔力に変換し、大地系の精霊術を使用して足元から強力な攻撃を放つだけでなく、こちらの足場を不安定にして行動速度を制限してくるのだ。
魔獣のランク的には麒麟並……いや、麒麟よりも厄介な分類になるだろう。
はっきり言って、倒すのは非常に面倒。
あの魔獣は攻撃的ではないため、どうしてもアダマンタイトが欲しい時に、何十時間も駆けて倒すような魔獣だ。 労力の割にはアダマンタイトしか手に入らないし、経験値もさほど入らないから普通は放置されるはずの魔獣。
放っておいてティア・ナ・ノルドから出ていくのを待つのが英断だろう。
と、思っていたのだが、どうやら様子がおかしい。 アダマンタートルから逃げ惑う妖精たちに狙いを定め、精霊術を使用している。
なぜ臨戦態勢に入っているのか、なんて考えている余裕はなさそうだ。 モタモタしていたら妖精たちが蹴散らされてしまう。
「メイハオ、ちょっと本気だす」
「ちっちっち、カイムの栄光を見せる時が来たんだっち」
二人揃って、狩人のような視線をアダマンタートルに向けたかと思うと、
「え? ちょっと二人共、あの亀さんはめちゃくちゃ強いから……」
「極寒法印【気温操作術】吹雪烈風!」
「“ピエール・シャルルモニエ・カイムが勅命を下す。 跪いて頭を垂れよ”」
二人揃って、我先にとアダマンタートルに向かっていく。 俺は慌てて止めようとしたが走り出した幼女達はもはや制御が効かない。
とは言えアダマンタートルはかなりというか、めちゃくちゃ強い。
メイハオちゃんは極寒法印を巧みに操り、アダマンタートルの表皮温度を低下させ凍死を狙ったようだが……
突然メイハオちゃんの足元が地割れのように裂け、奈落の底へと落っこちてしまう。
「あ、ずるっ子」
「っぶねーマジで!」
即座に超速移動の魔術を使用して、落下する直前のメイハオちゃんを救出。
その様子を横目に見ていたのだろう、背中から生えている翼で優雅に空を飛んでいたカイムは、声高々に笑い声を上げた。
「ちっちっち! 足手まといは下がっているっちね!」
「おいバカ! 前見ろ前!」
そんなカイムに、アダマンタートルが放った岩石砲と言う技が炸裂。 岩石のサイズは非常にデカく、かわすのはほとんど不可能。
小さな城のようなサイズの岩石が弾丸のような速さで飛来するため、カイムはあたふたしながら黒風の魔法を使用するのだが、相性が悪すぎる。
「あーもう!」
慌てて時空断絶の魔術を構成。 カイムの前方に最強の防御魔術を使用して間一髪ぺしゃんこになるのを阻止できた。
「二人共、危ないから下がってて!」
「ごめんなさい……」
「許して欲しいんだっち」
しゅんとしてしまった二人を連れてアダマンタートルから離れ、安全圏に置いておく。 しかし、攻撃しない限り暴れないはずのアダマンタートルが近づくものすべてに牙を剥いている。
何がどうなってアダマンタートルが暴れる原因になったのやら。
この事態に、ダナシィの街にある精霊宮から妖精王アウベルが血相を変えて飛んでくる。
「一体何が起きたんだい? アダマンタートルが暴れ出したって聞いたんだぞ!」
「こっちから手を出さない限り交戦状態には入らないはずなんすけどねー」
「妖精探検隊の報告によると、何者かがアダマンタートルに危害を加えていたと聞いたんだぞ?」
「言っちゃ悪いけど、メイハオちゃんとカイムがちょっかいかけたのはあの亀が起き上がってからだぞ?」
俺はてっきり、メイハオちゃんとカイムが疑われているのかと思い、思わず強めの口調で妖精王に突っかかってしまう。 しかし、妖精王は両手をふるふる振りながら慌てたように弁明を始める。
「違うんだぞ! 我が言いたいのは、あのアダマンタートルを起こした犯人がいるって言いたいんだぞ! そいつの目撃情報は、ティメルくん達とは似ても似つかないんだぞ!」
つまり、俺達以外にティア・ナ・ノルドに侵入してる何者かがいるということか?
なにはともあれ、交戦状態に入ったアダマンタートルを放っておいたらティア・ナ・ノルドは甚大な被害を受けるだろう。
あまり乗り気ではないが、あのデカブツをどうにかしないとどちらにせよ観光は楽しめないらしい。
「とりあえず、なんとかしてやっから妖精王はメイハオちゃん達頼むわ」
「一人で何とかできる相手じゃないんだぞ?」
「分かってるわ、別に倒そうだなんて言ってねーだろ?」
何を隠そう俺にはゲームの知識がある。 何が言いたいかと言うと、アダマンタートルの対処法を、知っているのだ。




