第91話 別行動中の俺達は、鍛冶妖精の家へ向かう
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ティメル達がダナシィの街周辺に出没した魔獣討伐に励むと同時に、ゲンガー達はティア・ナ・ノルドの外れにぽつんと建てられた一軒家を目指していた。
そこにはティア・ナ・ノルドで最も優れた鍛冶スキルを持つ鍛冶妖精、ヴェルグという妖精が住んでいる。
「あそこだな」
「それにしても、本当にこの国は魔獣がうじゃうじゃしておるのう」
「将官は静養中の身であるため、戦闘に参加できず申し訳ありません!」
「ペペよ、うぬはもう少し融通の利いた行動を心がけるのじゃ」
「かしこまりましたシェンルゥ殿! ささ、与太話はこれにて終了し、早速鍛冶妖精の方に会いに行こうではありませんか!」
「背中を押すでないたわけ! こやつは童に押し付けてきたほうが良かったのう」
非常にご立腹な様子のシェンルゥは、ペペに押されるままぽつんと建てられた一軒家に向かって歩き出す。
そんな中、ここに来る前からずっとそわそわしていたゲンガーを横目に、シェンルゥは瞳を鋭くさせて問いかける。
「して、お主の本当の目的はなんなのじゃ?」
「は? いきなりなんだよ」
「ゲンガーよ、お主は童と一緒でものすごくわかりやすいのじゃ。 どうせこの国に転移したお主は、成り行きに任せてあの妖精共を救おうとしたんじゃろ? しかし、お主に書き込まれたカスディム文字だけでは不十分と考え、助けを乞うために繭居迷宮まで戻ったといったところか?」
「いや、別に。 俺はただ、この国は観光にはもってこいのきれいな景色があったから」
「このたわけ。 はっきり言わんか。 お主はこの国に残りたいんじゃろうて」
シェンルゥの言葉に、ゲンガーは思わず口をつぐんでしまった。
「別にダメなことではあるまい? お主はこの国でなにか心変わりするような出来事があったんじゃろ? 童の記憶を引き継いでるお主じゃ。 賢いがゆえに自分の身の上を嘆きやさぐれておったが、この国に住む妖精たちと接する内に心の荷がおりたんじゃろうて」
「それはまあ、あながち間違いじゃないと言うか、なんと言うか……」
「この国に滞在する理由がほしいのなら、わざわざダンジョンを潰すことなどないじゃろ? 普通に家の一つや二つ、童に頼めばすぐに作れると思うんじゃが?」
シェンルゥは、グレイトブリテンを攻略するのが面倒なだけだろうが、言っていることは間違いではない。
わざわざ高難易度ダンジョンを攻略ではなく、ダンジョンの機能そのものを破壊して廃ダンジョンにしようとしてしまっているのだ。
そんなことをすれば、魔界からグレイトブリテンの管理をしている悪魔を怒らせるだけでなく、ひどい場合は敵対して攻撃を受けてしまうかも知れない。
魔術師が来ないはずの妖精の国にダンジョンを作ろうと考えている変わり者の悪魔だ、そんな危険な相手を敵に回すのは非常に危険極まりない。
「別に、シェンルゥが言う通りわざわざダンジョンを潰す必要なんてねーさ。 けどな、それだとまたいつ魔獣が溢れ出てくるか分かったもんじゃねえ」
ゲンガーは皮肉めいた笑みを浮かべながら、遠目に見える一軒家を眺めつつぼそりと呟いた。
「俺はただ、この国の妖精たちを脅かす脅威を根本的に排除して、世話になった恩を返したいだけだ」
ティメルに会うたび文句を言ったり皮肉を言っていた当時のゲンガーと違い、今のゲンガーはマイナスな発言が非常に少なくなっている。
いつもは何も言わずに勝手にティメルへついて行くシェンルゥだったが、今回は珍しくゲンガーに着いていくと前もって言い出している。
理由としては、シェンルゥは何が原因でゲンガーがここまで変わったのかが気になり、自然な流れでヴェルグという鍛冶妖精に会ってみたかったからなのだ。
自然な流れというか、もはや毎日何もしてないと言う印象が定着しているせいで疑われなかったと言っても過言ではないが、本人は上手く行ったと満足しているので誰も指摘はしないであろう。
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緑豊かな草原の丘に、ぽつんと建てられた石造りの一軒家。 屋根を貫通している石積みの煙突からは黙々と黒煙が上がっており、家の中で火を扱っているであろうことが入るまでもなく分かってしまう。
家の敷地をわかりやすくするよう石の柵で囲われてはいるが、特に来訪者を拒むような仕掛けや扉などはないため、柵の間をすり抜けていけば普通に鉄製のドアに阻まれた入口までたどり着く。
レンガを積まれた頑丈そうなその一軒家に早足で向かっていくゲンガーに続き、シェンルゥたちも後に続いて行った。
少々そわそわした様子で鉄製のドアの前に立つと、来客用に作られたであろう小さなベルから伸びた紐を、やや遠慮がちに鳴らすゲンガー。
控えめに鈴を鳴らしたゲンガーは、心を落ち着けるように咳払いを挟み、
「お、おい。 オヤ……ヴェルグ、戻ったぞ」
何故か、久々に実家へ帰った思春期の少年のような声を出すゲンガー。 思わずきょとんとした顔をしてしまうシェンルゥたちだったのだが、
「あぁ? なんだ坊主、もう戻ってきやがったのか」
「オメーがダナシィに避難しろって言ってんのに避難しねーから、心配で戻ってきてやったんだろうが」
「生意気なこと言ってんじゃねぇ青二才。 あの程度の畜生共に儂が手こずるわきゃーねーだろがぃ」
「わ、分かんねーだろ。 数が増えればさすがのオヤジでも対抗できねーかも知れなーし」
しれっとヴェルグをオヤジ呼びしたゲンガーの一言に、耳ざとく反応するペペ。
「ゲンガー殿、質問があります! あなたの生みの親は隊長のはずなので、その方をオヤジと呼称するのは——」
「だぁー! そう言えば、ゲンガーのやつから紹介されておらなんだな! 妾はシェンルゥじゃ、こやつらはダレットにペペ、妾達はゲンガーの仲間的なあれじゃ」
慌ててペペの口をふさいだシェンルゥが、わざとらしく自分たちの紹介を始める。 その様子を見て眉をひしゃげたヴェルグは、あからさまに面倒くさそうにため息を付きながらせっせと家の中に戻っていってしまう。
振り返った瞬間、ヴェルグの背中から伸びている羽根が、半ばから虫に食われたように無くなっているのが確認できた。
その翼を見てティメルやゲンガーがボソリと言っていたことを思い出すシェンルゥたち。 しかし、無口で他人と関わろうとしないと説明されていた雰囲気からは想像できないほど、ヴェルグは孫を心配する老父のように、穏やかな声を発してくる。
「ったく、ぞろぞろと連れてきやがって……坊主、適当に客間使って待ってろ」
「わーったよ、ったくしょーがねーな」
しかしながら、挨拶も返さず家の中に入っていってしまったヴェルグを見て、礼儀に厳しいダレットは突然ぷんすかと怒りだした。
「まあ! なんて失礼な御仁なのでしょう! シェンルゥ様がご挨拶召されたと言うのに、名乗り返さないだなんて!」
「たしかにそうじゃな、なんなのじゃあの鍛冶妖精は。 礼儀がなっておらん!」
ダレットの指摘を聞き、思い出したように憤るシェンルゥ。 二人揃って般若面を浮かべながらヴェルグの後ろ姿を睨んでいるが、ゲンガーは眉をハの字にして二人をなだめる。
「許してやってくれ、オヤジはちょっとシャイなんだ」
「ゲンガー殿! ですからあなたの生みの親は隊長のはずです! あの方をオヤジと呼ぶのは少々矛盾するかと思います!」
ようやく開放されたペペが不満たっぷりに指摘すると、ゲンガーは苦笑いしながら後頭部をポリポリ掻き始めてしまった。
「まあ確かに、概念的には俺のオヤジはオリジナルのやつかも知れねーけどな。 けどまあ、何と言うかな……話せば長いんだが、簡単に説明するとオヤジは俺に精霊術を教えてくれた師匠でもあるし、なんと言うかその——」
「おいこら青二才。 客人をいつまで突っ立たせてる気だ。 とっとと客間に案内しろって言ってんだろ」
「ああ、わりぃわりぃ」
奥の部屋から怒鳴られたゲンガーは、慌てたように鉄の扉を開いて家の中へと入っていく。
「まあ、とりあえずオヤジは今武器作ってる途中だと思うから、積もる話は親父の手が空くまで待ってからだ。 客間は地下にあるから案内するぜ?」
そう言って、我が家のように自然な流れで家に入っていったゲンガーは、未だに納得していない様子のシェンルゥたちを半ば強引に案内していくのだった。




