第90話 言いくるめられた俺は、重い腰を上げることになる
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ゲンガーが目をキラキラさせながら面白そうなことを言ってくる。
「別荘を……別ダンジョンを作るのか。 なにそれ面白そう」
「お前が住んでる廃ダンジョンは人を寄せ付けないようにしてるだろ? それよりも人が集まるダンジョンを作ったほうがぜってー楽しいじゃん!」
確かに、カイムを倒したことで俺に降りかかる不幸は目を見張るほどに少なくなった。 だからこのままダンジョンに引きこもっていても暇でしょうがないだろう。
だからといって俺はまだジュムフーリヤ帝国からは指名手配されてるから表立って動くわけには行かないし、ティア・ナ・ノルドへの旅行に乗り気だったのも普通の人間は入ってこれないからだ。
まあ、こっちに関してはテオス達が帝国と話してどうにかしてくれるという話だったが、今のあいつらはクソ雑魚だから期待は最初からしていない。
となると、いい暇つぶしとして新たなダンジョン作りに励むのは楽しそうだ。
「なるほど、ダンジョン作りをこだわるとすれば、鍛冶妖精は必須とも言っていいほどの人材だな」
「だからダレットを連れてきたんだろ?」
「まあ、ヴェルグの環境考えたらな、近くによるなら助けてやりたいと思うじゃん?」
「お前ヴェルグ好きだもんなー」
「無口で照れ屋な頑固オジなんて、誰でも好きになるだろ」
俺とゲンガーが二人で盛り上がっていると、妖精王は困った顔で明後日の方向を眺めたかと思うと、
「ヴェルグは羽根をもがれてしまってから、ショックで他の友達とも関われなくなった子なんだぞ。 我達もなんども助けようとはしたんだぞ? だけど、弟子に売られたのが相当ショックだったみたいだったんだぞ」
ヴェルグという鍛冶妖精は、一度妖精攫いにさらわれたことがある妖精で、マジフロストーリー上会った時点で一度羽根をもがれた状態だった。
一度目に拐われた際は自力で逃げることは出来たみたいだが、ティア・ナ・ノルドに帰ってからはずっと国の端に立てた一軒家にこもり、黙々と武器を作り続けている。
恐らく、パンデモニウムが原因で近々魔獣に襲われ、やむなく迷いの森に逃げた才妖精攫いにもう一度捕まってしまうという運命を歩む、不幸の塊のような妖精さんなのだ。
ストーリーでは捕まる前に助けてたので、二回羽根をもがれるという悲劇は阻止できたが。
なんにせよ不幸なキャラってなんかいいよねと思ってしまう俺は、このヴェルグ君はかなり好きなのである。
「じゃあ俺達は二手に別れた方がいいか?」
「そうだな、まずはここ周辺にでてきてる魔獣を狩るチームと、ヴェルグの様子を見に行くチームの二つだな」
「ダレットはヴェルグの治療のために連れてきたからな、そっちを頼めるか?」
「教皇様の仰せとあらば喜んで!」
ヴェルグのもがれた羽根は今の時点では完治していないだろう。 治すのは割と面倒な手順が必要になる。
早くても一週間以上は泊まり込みで治療に専念しないといけない。
理由としては事象回帰を使おうにも、羽根をもがれたのが数年前だからという点だ。
事象回帰は治癒系の魔術の中でもかなり優秀だが、効果があるのは一分以内に負った傷に限る。 となると、体の欠損をしてからしばらく時間がたった部位に関しては使用できない。
有効なのは永続的に掛けることができる治癒の魔術くらい。 そうなると、もがれた羽根を治すのは必然的にかなりの時間を要するのだ。
「ダレットはヴェルグ側で、メンタルを考えるとゲンガーもそっちの方がいいか?」
「高難易度の魔獣と戦うなら俺は足手まといだもんな」
「おいおい、俺は何も言ってないぞ?」
「妾も面倒じゃからダレットに着いていくのじゃ」
「おいふざけんな、お前重要な戦力なんだからこっち来い」
「隊長! 将官も静養しろという命が出ていますので、ダレット殿に着いていきます!」
「お前さっきノリノリでベヒモスと戦ってたよね?」
「あれは勝手に体が動いていたのです!」
パンデモニウムで出てきている魔獣たちはかなりの高難易度と聞いて、みんな揃ってヴェルグの方に行こうとしている。
俺もぶっちゃけヴェルグの方に行きたいが、ゲンガーに魔獣たちの相手をさせるのは心細いから必然的に俺は魔獣狩りチームになってしまう。
シェンルゥは何か起きたときのために護衛として残ってくれると考えれば心強いかも知れない。
ペペには静養しろと命令した手前魔獣狩りチームに配属できないが、そうなると俺と一緒に動いてくれるのは……
「お兄ちゃん、メイハオ頑張る!」
「くっくっく、カイムの栄光をとくと見るがいいんだっち!」
幼女二人組しか残っていないという結果になってしまうのだった。
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そう言うわけで、妖精の国ティア・ナ・ノルドに旅行に来たはずなのに、成り行きで魔獣退治に駆り出されている。
すべてゲンガーにいいように扱われたせいだ。
「うわ、思った以上にいるじゃねーか」
ティア・ナ・ノルドの首都、ダナシィから一歩出た瞬間、街の周囲で巨大な魔獣たちがわんさか暴れまわっているのが目に入る。
左右に広がる平原で、美しい外観を乱す禍々しい見た目の巨大な魔獣たち。
左側には比較的動きは遅いが、図体がデカい上に攻撃力と耐久力が高めの魔獣。 対して右側には素早い上に攻撃力も高いが、そんなに大きくはないし耐久力も低めの魔獣たち。
小さな妖精たちがその周囲を飛び回りながら、精霊術を駆使して火の玉やら水の弾丸を放っているが、基本的に高難易度の魔獣たちは各種攻撃に対する耐性が非常に高い。
耐久力が高い魔獣はまるで効いてる様子がないし、動きが早い魔獣にはそもそも当たらない。
恐らくあれでは倒すのに数時間かかるだろう。 先が思いやられる光景を前に、足が重くなっていく一方だ。
だがしかし、俺の両隣に立っていたカイムとメイハオちゃんはやる気満々に準備体操を初めていた。
「メイハオ、久しぶりに頑張る」
「よーし、メイハオちゃん。 カイムと勝負だっち! 我が秘めた混沌の力、とくと見せてやるっち!」
なぜか二人共ギラついた瞳をしている。 とは言っても相手は高難易度ダンジョンに出てくる魔獣だ。
さっきはペペとダレットが二人がかりで瞬殺していたが、この二人は見た目的にも幼いから心配でしょうがない。
「極寒法印【氷裁必屈術】氷塊隆起」
メイハオちゃんが極寒法印を発動させた瞬間、まばたきしてる間に遠くで暴れていた魔獣たちが巨大な氷の剣で貫かれる。
突然地面から隆起してきた氷の剣に驚く妖精たち、驚くべきはメイハオちゃんが放った極寒法印は寸分たがわず魔獣たちの胸を無慈悲に貫いている点だ。
改めて仙人の恐ろしさを知ってしまう。
左側で暴れていた魔獣たちは見ての通りメイハオちゃんが瞬殺。
「“ピエール・シャルルモニエ・カイムが勅命を下す。 動くでない、畜生共”」
カイムが声を張った瞬間右側にいたすばしっこい魔獣たちが同時に動きを止めてしまう。
声で敵の動きを制御することが可能なカイムは、動くまでもなく高難易度魔獣たちを無力化。
「“ピエール・シャルルモニエ・カイムが沙汰を下す。 貴様らの首を我に捧げよ”」
カイムの命令に逆らうことすら出来ず、動きを止めていた魔獣たちは命令通りに鋭い爪で自らの首を掻っ切った。
もはやこの幼女達、強すぎてビビる。
「メイハオ、四体倒した」
「くっくっく、残念であったなメイハオちゃん、カイムは五体屠ったっち」
薬指と小指の間からきらりと瞳を光らせるカイムを見て、メイハオちゃんはむっと口を尖らせる。
「あっちから進んで、反対側で会った時の数で勝負する」
「望むところだっち。 ハンデとして、左目に封印している混沌の支配者、ブラッディ・サクリファイスは使わないようにしてやるんだっち」
なんだか知らぬ間に二人揃って魔獣を倒した数で競い合おうとしているようで、俺の許可も待たずにお互い別方向へてくてく走っていってしまう。
困った俺は、ひとまず浮遊の魔術で上空に飛び、二人の様子が見える位置で見守ることになったのだった。




