第87話 大荷物を背負わされた俺は、早く妖精の国に行きたいと乞い願う
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「クソ重い」
「隊長! 女性に対して、クソ重いというのは酷いかと思われます」
「じゃあ降りろ」
「僭越ながら、拒否させていただきます!」
結局おんぶするハメになったペペが、俺の首を絞める勢いで引っ付いてくる。
「苦しいからやめろ」
「のうゲンガー、妾もおんぶされたいのじゃ」
「俺は今精霊さん達と交信中だから無理だ」
「ほう、ならばしょうがないのう。 お願い、精霊さん達! 僕を、ティア・ナ・ノルドに連れてって!」
「はっ倒されてーのかシェンルゥ」
さっきのゲンガーのマネをし始めるシェンルゥに、条件反射でツッコミを入れるゲンガー。
迷いの森を進む道すがら、特にやることもない俺達は苔で足元が滑りやすい上に、太い根っこが隆起していてボコボコした道を進んでいる。
やることがない理由としては、近づいてくる魔獣たちをカイムとメイハオちゃんが遊び感覚で瞬殺してしまうからだ。
悪魔であるカイムは魔法を巧みに操るし、仙人であるメイハオちゃんは極寒法印で魔獣をカチンコチンに凍らせてしまう。 よって、俺達は何もすることがないのである。
ゲンガーに案内されるまま歩いているが、とてもではないが道とは思えないほどに歩きづらい道を進むこと数分。
ゲンガーは周囲の大木よりももう一回り巨大な木の根元で足を止めた。 すると、ゲンガーはチラチラと俺やシェンルゥの様子を横目に見てから、わざとらしく周りの様子を確認し始める。
「この辺で精霊さん達の案内が終わるな。 なにか手がかりがあるかも知れないから、この辺を手分けして探索しよう」
「その心は?」
「だから、このへんで精霊さん達の案内が終わっててだな」
「まったく、俺を誰だと思ってるんだゲンガー。 本当はまだ案内は続いてるんだろ?」
肩をすくめながら答える俺を見て、ダレットやペペは首を傾げている。
「つまり、ゲンガーの思惑はこうだ。 本当はそこで精霊術を使えばティア・ナ・ノルドまでの道が拓ける。 だけど俺達に見られるのは恥ずかしいから、手分けしてこのあたりを探索すると言う建前を用意し、俺達がいない隙にちゃちゃっと精霊術を使うって魂胆だ」
「つまり、探索する必要はないのじゃな?」
「見られるのが恥ずかしいから、うまい理由を作って俺達を遠ざけるための理由付けだからな!」
俺がペラペラとゲンガーの思惑を解き明かしていると、黙って聞いていたゲンガーの顔がどんどん真っ赤になっていく。
「お前らが、お前らが馬鹿にしてくるから使いたくねーんだろーがー!」
「偽物お兄ちゃん、カッカしちゃダメだよ」
「落ち着くんだっち、カイムはゲンガーさんの精霊術は素敵だと思うっち」
「ゲンガー様が恥ずかしいと仰せなら、拙も共に祈りましょう! ご安心下さい、拙はゲンガー様と共に祈れることを嬉しいと思います!」
「余計虚しくなるから優しくするなよぉ」
甘やかし勢に励まされたせいで、余計にいたたまれなくなったのだろう。 ゲンガーはしゃがみ込んで顔を両手で隠してしまった。
それを見て大爆笑するシェンルゥ、爆笑するシェンルゥをお説教するメイハオちゃん。
このままでは埒が明かない上に、さっきからずっと気になっていることがある。
「なあ、もう歩いてないんだからいい加減降りろよ」
「いえ、隊長はティア・ナ・ノルドにつくまではおんぶしてくださると仰っておられたので、将官はこのままおんぶを継続させていただきます!」
リュックのように背中にしがみついているペペが、妖精の国に着くまで降りないと駄々をこねてくるせいで、降りろと言っても降りてくれない。
面倒になった俺は仕方がなく魔術大全を開く。
「魔術大全【第558頁】混合式:完全隠蔽」
漆黒の箱が現れ、ゲンガーを包み込む。 そして箱がゲンガーを包みこんだ瞬間透明になり、ゲンガーの声や姿が確認できなくなった。
「この魔術はダジージャが使ってた禁書目録第拾の罪、不邪見の下位互換だ。 姿も音も確認はできなくなるが、物理的な衝撃は喰らうし、なんなら領域鑑定や魔力探知ですぐ見つかる」
「本当じゃ、普通に触れるのう。 わぁっ、なんじゃ! おのれゲンガー、妾を叩きおったな!」
俺の説明の最中、シェンルゥが虚空を触りながら感心していたようだが、おそらくゲンガーに触んじゃねえとばかりにひっぱたかれたのだろう。 ガミガミ文句を言いながら怒った子どものように両腕を振り回している。
しかしながら、この完全隠蔽の魔術のお陰でゲンガーは心置きなく精霊術を使えるようになった。
まあ、さっきはさんざんバカにしてしまったが、このままだと埒が明かないし何より早くペペを下ろしたい。
からかうのは後にして今はとりあえずティア・ナ・ノルドまでの道を開いてもらうとしよう。
俺の意図を読んだであろうゲンガーが、見事に精霊術を成功させたのだろう。 巨大な樹の根元に光の球が集合していき、人ひとりが入れそうなくらいの神秘的な光の塊が出現した。
「すっげぇ! リアルファンタジーだ!」
「なんと美しい光景! 拙は感激いたしました」
光の塊を見てはしゃぎ始める俺達。 開いた口が塞がらないとはこの事だ、なんて思っていると、
『サンキューなオリジナル。 もう解いてもらっていいぞ』
おそらく精霊術第十五楽章・思念伝達間奏曲を使用して俺の脳内に直接語りかけているのだろう。 驚くみんなの後ろでしれっと完全隠蔽を解除し、ゲンガーの姿が見えるようになったのを確認。
「これでティア・ナ・ノルドに入れるのか?」
「ああ間違いねー」
「ようやくこの重い荷物を降ろせるのか」
「隊長! 将官は美少女ですので、重い荷物という扱いは改めていただきたい!」
ペペの文句をシカトして、せっせと光の中に足を踏み入れると、メイハオちゃんやカイムも仲良く手を繋いで後ろについて来る。 シェンルゥやダレットは少々もったいぶっていたようだったが、俺達が光の中に姿を消していったのを認識して意を決して飛び込んできたようだ。
真っ白な光の空間をほんのひと時歩き続けていると、目の前に幻想的な景色が入り込んでくる。
「わーお」
「すごーい! メイハオ、ここ好き」
「お花のいい香りがするんだっち!」
視界いっぱいに色とりどりの花々が咲き誇っており、カラフルな絨毯のようになっている。
ゲームでは見たことある景色だったが、生で見るのと画面越しに見るのとでは雲泥の差がある。 空気の綺麗さ、光の差し込み方、風に乗って運ばれてくる様々な花の香り。
はっきり言って俺はきれいな景色を見ても、ああきれいだな……程度にしか感じない人種だったのだが。
「これは、心が洗われるな」
「だから言っただろ? ティア・ナ・ノルドはマジで良い場所なんだぜ?」
得意げな顔で告げてくるゲンガーの言葉に、無言で頷いてしまう。
本当に美しく幻想的な景色を見ると、どんなに廃れた心でも洗われるのだろう。 心を安らがせてくれる花の香り、目に優しい色使いのきれいな花々。
ここは、廃れた心を洗ってくれる場所。 そして、美しいものを好む心のきれいな人達を感動させる場所。
妖精の国ティア・ナ・ノルドには優しさや楽しさ、高揚感や幸福。 ポジティブな感情が幾重にも広がる素晴らしい世界。
いつも人を馬鹿にして喜んでいるシェンルゥですら、この美しい景色を見て固まってしまっている。
いつの間にか背負っていたペペは俺の元を離れており、咲き誇っている花々を見てボロボロ号泣している始末。
「こんなのまだ序の口だぜ? 妖精王アウベルがいるダナシィの街には、優しくて可愛くて、心がきれいな妖精たちがたくさんいるんだからな」
こころなしか、嬉しそうに鼻を鳴らすゲンガーの横顔を見て、俺も期待に胸を膨らませるのであった。




