第84話 幹部たちの交流関係を確認した俺は、孤立している部下を心配する
❖
いつも通り繭居迷宮幹部組が全員揃ったタイミングで夕食が始まった。
今更だが繭居迷宮の幹部とは、ゲマトリア十名に加えたシェンルゥやメイハオちゃん、プラスアルファのゲンガー。
最近俺が記憶付与を施したカイムも加え、俺含めて十五名。
割と大所帯になっている夕食の席はいつも騒々しい。 魔造人間であるゲマトリア達は特に食事を必要としているわけではないが、食事を食べられないわけではないししっかり味覚はあるので、一部のゲマトリアは毎日ヴェートの作る絶品料理を楽しみにしている。
特に、ザインなんかは毎回のように食事に酒をぶっかけ、とろんとした目でご馳走を堪能している。
効率重視のアレフやヴァブ以外は基本的に出されたものはきれいに食べるのだ。
中でも、ザイン並みに食事を楽しみにしているのが一名。
「まあ素敵です! さすがはヴェート様! 本日のディナーも非常に美味でございますね!」
「あらあら、ダレットちゃんはいつもいつもママを褒めてくれるのね? こんなに幸せそうな顔で料理を味わってくれるのだもの、毎日お料理を作るモチベーションがあがっちゃうわ!」
嬉しそうにニコニコしているヴェートと、貴族のようなテーブルマナーでぱくぱく食事を進めていくダレット。
黒い修道服に身を包み、白金色のショートヘアを裾の大きい頭巾で隠した、清廉潔白なシスターガール。 第七階層の西洋風教会エリアで怪我をしたゲマトリアや人型魔獣達を治療する、記憶干渉構成式のエキスパート。
「ヴェート様? こちらのソテーは本当に豆腐しか使っていらっしゃらないのですか?」
「ええもちろんよ? シェンルゥ様とダレットちゃんは、お肉類がすきじゃないみたいだからしっかり豆腐しか使っていないわ!」
「豆腐しか使用していないにも関わらずこのボリュームと、食後の満足感。 拙は感激いたしました!」
ダレットはシスターという設定を付与したせいか、シェンルゥと同じく肉類を好まない、と言うか進んで食べようとしない。
別にシスターだからといって肉を食べてはいけないという決まりはなかったはずなのだが、俺の記憶には少し偏見があったようで、ダレットはそのせいか菜食主義になってしまっている。
とは言え、菜食主義だからこそ食にはこだわるのだろう、毎日の食事を美味しくするために、暇を見てはヴェートが料理している光景を見ながらクソ真面目にメモを取ったりしているようだ。
ママ味が強いヴェートとダレットは非常に仲が良く、食事の傾向も相まってかシェンルゥなんかもこの二人と一緒にお菓子を食べたりしている。
このダンジョンに住むことになってから数ヶ月が経過し、ゲマトリアの中でも交友関係が偏り始めているのだ。
「むむむ、今日もテットに勝てなかった。 当方は装備の改善を要求したい」
「呵々! フェイト殿は装備に頼りすぎているからまろに勝てないでござるよ」
例えばこの二人、フェイトとテットなど、戦い好きなゲマトリア同士は日頃から互いを高め合うため組手をしていたりする。
「ユーティ、昨日発見したという盗賊グループは宝州の自警団に預けましたか?」
「ええもちろん。 ヴァブ殿の予想した通り、あの盗賊団はたいして構成人数は多くなかったですし、裏にいたのは予想通りの人物でした」
クソ真面目なユーティとヴァブは、仕事のことしか頭に無いようで、常にダンジョン周辺のパトロールや、お互いが得た情報を交換し合ったりしている。
「ギメル、あなたはまた御主人様にご迷惑をおかけしたらしいですね。 行動を改めなさい」
「ふぇ〜〜〜ん、アレフさんはいっつもぷんすかしててぇ、とっても怖いですぅ」
「笑笑、ギメルは相変わらずポンコツアルね。 酒でも飲んで失敗を忘れるのが吉ネ!」
「こらザイン、あなたまたそんなに酒ばかり飲んで。 周りの迷惑も考えなさい」
アレフなんかは飲んだくれとポンコツの世話に追われているせいで、ふと気がつくと正座しているギメルとザインに説教をしている光景がよく目立つ。
それぞれ仲が良さそうに会話しているゲマトリア達を眺めながら、みんな仲良しでいいなと思いたいのもつかの間。
「ごちそうさまでしたヴェート殿! 将官は整備の仕事が途中でしたので、これにて失礼!」
せっかくヴェートが作ってくれた食事を味わいもせず、喉に流し込むように平らげたぺぺは、他のゲマトリアと会話すること無くそそくさと食堂を去っていってしまう。
仕事熱心なのはいいが、せっかちすぎるせいか他のゲマトリアとの交流を進んでしようとしない。 本人に話を聞いてみたら「話している時間がもったいないのです! ささ、将官はまだ途中の仕事があるので失礼いたします!」と言って、足を車輪のように回しながらダンジョン内を駆け回ってしまった。
俺からすると、ダンジョン全体の作りを見に行っても特にもうやることなんて無いだろうと思うのだが、ぺぺは罠を置く位置や、壁の作りなどを入念にチェックしたり、冒険者たちが戦闘を行い破壊したオブジェクトなどを即座に直しに向かったりしているため、休めと言ってもまるで休もうとしないのだ。
他のゲマトリア達も仕事熱心なぺぺのことを心配しているのか、手が空いたら手伝ったりしようとして声をかけたりしているようなのだが、せっかちなせいで話しかけるタイミングすら無いらしく……
「あれじゃあストレス溜まっちまうんじゃねーかな?」
思わず頭を悩ませてしまう俺。
「おいおいオリジナル、他人の心配してねーで自分の心配したらどうだよ?」
一人でぼやいていたところをゲンガーに聞かれ、呆れたように肩をすくめられてしまった。
「今日は八階層でゲームしたりしてストレスを解消しようとしたんだけどな?」
「ギメルのせいで余計溜まったと?」
「何で知ってんだよ」
「俺を誰だと思ってんだ。 お前の記憶をそのまま植え付けられた魔造人間だぞ? お前の考えが一番読みやすいんだっつーの」
「まあ、それもそうだよな」
もはや俺とまったく同じ顔、まったく同じ声、まったく同じ喋り方をするゲンガーと会話をしていると、双子の弟を持った気分にしかならない。
「とは言ってもな、ストレス解消なんてゲームくらいしか浮かばねーぞ?」
「まあ、俺はお前と違って色んな体験をしてるからな、その体験を下にいいアドバイスをしてやろうじゃないか」
ゲンガーは食事を平らげ、優雅にナプキンで口元を拭きながら得意げに口角を上げる。 たしかにこいつは俺が転生する前の記憶をそのまま植え付けはしたが、生まれたときから今日までの間に経験した内容はまるで別物。
俺の考えを読むことにおいてはこいつが一番得意だろうが、だからといって俺とまったく同じ経験をしているわけでもない。
転生してから歩んできた人生は、同じ場所で過ごしていたとしても、感じたことや思ったことは俺とこいつでまったく違うのだ。
「ここ最近、とあるバカのせいで意図せずこのダンジョンから出るきっかけがあってな」
「いやだから、ごめんってば」
「別に怒っちゃいねーよ。 ただ、このダンジョンを離れることになって一ヶ月。 初めの頃はお前に対して文句の言葉しか出なかったが、ぶっちゃけそう思ってたのも最初の一週間だけだっただろうな」
背もたれに体重を乗せながら、ゲンガーはカイムに襲われランダム転移してからの思い出に浸っているのだろう。
ランダム転移で移動することになったのは妖精の国ティア・ナ・ノルドだったらしい。 聞いた話によるとそこで過ごしたのは三週間、その三週間でゲンガーは精霊術を学んだだけでなく、人型に成長した妖精族達と友好関係を結んでいたらしい。
「妖精さん達は魔術師を嫌ってはいるが、それは妖精の羽をむしり取ろうとするクソ魔術師に限った話だ」
「そう言えば、ティア・ナ・ノルドとジュムフーリヤ帝国は物語後半で戦争してたよな」
「ああ、だから俺もランダム転移したばっかりの時はマジで焦ったぜ?」
控えめに笑いながらも、ゲンガーは礼儀正しく空になった食器を重ねて一つの皿にまとめていく。
「けどなぁ、妖精さん達はみんな、すげー優しかったんだ」
遠くを眺め、名残惜しそうな顔をしながらボソリと呟くゲンガー。 俺は、自分で言うのもなんだが、かなりひねくれている性格をしている。
それもこれも俺を国外追放に追いやったクソ人間どものせいだと言いたいところだが、元々転生前から小言が多かったり、何をするにしてもいちいち文句が多かったりと、友だちが少ないのも当然だろうと言われんばかりの性格をしていた。
その俺の記憶を書き込んだはずのゲンガーが、ものすごく優しい眼差しで北東に視線を向けている。
その視線の先にはティア・ナ・ノルドがある。 まるで思い出のアルバムを眺めているときのような寂しそうでもあり、暖かさを感じる雰囲気をまとったゲンガーは、小さく息を吐いてから重ねた食器を持って立ち上がった。
「命濁化を防ぐためにストレス解消法を探してるんだよな?」
「え、あ、おお」
「だったら、ティア・ナ・ノルドへ旅行に行くことを進めるぜ?」
意味深な言葉だけを言い残し、ゲンガーは重ねた食器をヴェートの下へと運んでいく。 俺なんかいつも食事が終わったら、食器はそのままにしてぷらぷらとダンジョン内に行ってしまうというのに。
なんだか人間味の違いをゲンガーに味合わされたせいで、ティア・ナ・ノルドにものすごく興味が湧いてしまうのであった。




