第82話 命濁化の危機に陥った俺は、幸せになるため苦悩する
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命濁化とは、魔術師が闇に堕ちて命濁獣になることを指す単語。
この状態になると魔術師達は負の感情しか抱けなくなり、激しい破壊衝動に襲われる他、悪魔にその体を乗っ取られやすくなるようだ。
悪魔たちは魔界で生活するにあたり、人間たちが生み出す魔力を資源として使っているようで、負の感情に寄って生み出された魔力は悪魔達との親和性が高く、使用効率がいい資源として扱われるという話だ。
要は、悪魔達からすれば命濁化した人間は、俺達で言う原油のようなものなのだろう。 中でも、人間たちの中から稀に悪魔との親和性が高い人材が現れるようで、そう言った人間の体を悪魔が支配することさえできれば半永久的に魔力資源を確保できるようになる。
魔法が得意な悪魔でも、無理やりこの世界に来るには相当な魔力が必要になる。 魔界の長い歴史を辿っても、現実世界への転移に成功したものは数名いたが、帰ってきたものは一人もいなかった。
そのため悪魔達は安全に現実世界へ行く方法を模索しているのだが、今のところ現実世界に行くための有効手段は一つだけ。
自分との魔力適合率の高い人間が生まれた際、その縁を辿って悪魔召喚に応じること。
つまり人間が生息する現実世界で、悪魔召喚という儀式を行わなければならないのだ。 悪魔からは現実世界に行く方法がないのに、現実世界から呼んでもらわないと悪魔は現実世界に行けない。
では、なぜ悪魔達がこの世界にはびこっているのか。 その謎を解いていくのが、本編ストーリー後半の流れだった。
まああれだ、俺達魔術師は体内に流れる魔力のみを使って魔術を使うのに対し、仙術師や精霊術は大気中に漂っている生命力を使う。
圧倒的に違うのは、体内に流れている魔力だけを使うのか、自然の力を借りるかの違いだろう。
本質的な話はこの前カイムにネタバレされた通り。 魔術師たちの祖先は人の皮を被った悪魔だったというオチだった。
俺がこのゲームを進めている間に知った事実よりもとんでもない真実を話され、ここ最近は魔術は本当にいいものなのかと考えてしまう始末。
「おい童、考え事か? おぬしの番じゃぞ」
とまあ、命濁化の危険があるということで俺はひとまず心をハッピーにするために試行錯誤している。
カイムを倒してバットエンドを正式に回避できたかも知れないと息巻いていたのに、俺が命濁化してしまったら元も子もなくなる。 だから俺は、楽しい気持ちで心を満たさなくてはならない。
具体的に何をしているかと言うと、八階層に作成したカジノ施設に足を運び、みんなで楽しくゲーム中だ。
今やっているゲームは華ノ国で大人気のテーブルゲーム、麻雀である。
順番が来たのでツモ切りをして、次の対局者が麻雀牌をツモってくる。 そしてツモった本人は、ウンウン唸りながら首を傾げてしまった。
「うーんとうーんと、これが揃ってて、こっちは真ん中がなくて……」
何やらぶつぶつ言いながら手持ちの牌を並び替えている。 俺達はその様子をじーっと見ながら何を捨てるのかずっと待っていた。
「あれぇ? おかしいな〜。 東って言う牌が三つ揃ったら、一面子に数えていいんですよね?」
麻雀のルールは知っている人が多いと思うが、大まかに言うと四人で遊ぶテーブルゲームだ。
手持ちの牌は十四個まで、念を押して言うが十四個以上になることは絶対にない。 その中で役と呼ばれる決まった形を作らなければならないのだ。
役の種類は確か三十七種だったか? ともかく超簡単に説明すれば、三枚組の牌を四面子——四つ——揃えて、頭と呼ばれる同じ牌を二つ。 これを揃えればアガリ、つまり点をもらえる。
三枚組を揃えるためには同じ牌を三つ、または連続した数字を階段状に揃えれば完成。
つまり三、四、五、とか七、八、九とか連続した数の牌を持っていたら面子一つと数えていい。
まあ、今上がった『東が三つ揃ったら面子に数えていいか』という質問にはもちろんイエスと答えるべきなのだが、
「手の内バレるから牌の名前言うなよ。 あとお前、手持ちの牌数えてみろ」
俺の指摘を受けたバカ(強調)は悠長に手持ちの牌を数え始める。
「わぁ! どうしましょうオーナー! 手持ちの牌が十六個もあります!」
「チョンボだバカタレが! はい振込」
「まぁまぁ童、大目に見てやらんか」
「ふぇ〜〜〜ん、オーナーが怖いですぅ」
「はっ倒すぞこんちくしょう」
「はい、大変申し訳ありませんでした」
ちなみに、チョンボとは麻雀のルールを違反した人物を指す言葉で、本来なら点数を振り込まなければならない重罪。
これが賭け麻雀だったら白い目で見られることであろう。 そんなわけで、俺は少々苛立ちながらチョンボ娘が牌を捨てるのを待っている。
「お兄ちゃん、机揺れてるよ」
「ごめんねメイハオちゃん。 俺の貧乏ゆすりが激しいのは、このバカのせいだから気にしないで」
「ひどいですよぉ、オーナー」
「ギメル、おぬしいい加減麻雀のルールくらい覚えんか」
呆れながらもチョンボ娘こと、ギメルの対面に座っていたシェンルゥが肩をすくめている。
俺の右手側に座っているのはギメルと言う八階層を担当するゲマトリア。 そうです、ゲマトリアの中で最も失敗作としての呼び声が高い娘こそこのギメルさんなのである。
男のあこがれとの呼び声高いバニースーツに、体のラインは細目なモデル体型。
俺好みに設定しているためバストもヒップも控えめに設定してあるのだ。
緩いくせのかかった髪は腰のあたりまで伸びており、白桃髪の頭にはうさ耳つきのカチューシャを装備している。
長い笏状の耳は片方がペコリと折れ曲がっており、困り眉のせいでついついいじめたくなる見た目。
これこそ見た目は抜群に可愛い、だが中身は超絶に残念なギメルちゃんなのだ。
「オーナー、これって捨てていいんですかね?」
「なんで俺に聞くんだよ! マジでバカなの?」
「これこれ童、そうカッカするでない」
「大変なんだっち、このゲームを始めてから少年のストレスが増してるんだっち」
俺達の麻雀を見ていたカイムがあたふたし始める。 ちなみに、カイムは一旦ルールを覚えるためという名目で俺達が打ってるところを見学しているのだ。
結局ギメルは悩んだ末に捨てる牌を決めたようで、よしと気合を入れてその牌を捨てようとする。 がしかし、
「ああ、それは通ってないからダメだっち!」
「え?」
「あ! メイハオ、ロンかも!」
「ふぇぇぇ?」
ルールを覚えたばかりのカイムに注意された挙げ句、ロリババア代表であるメイハオちゃんにまんまと振り込むことになったギメルが、涙目で俺に助けを求めるような目を向けてくる。
ちなみに、麻雀で言う〝通ってない〟と言うワードは、捨てたら危ない牌を捨てたりするときに言う単語である。
こればっかりは相手が何を揃えているのかを予想していないと言えない言葉だが、どうやらカイムちゃん、たった数局の試合を見ていただけで麻雀の打ち方を覚えてしまったらしい。
「すごいなカイム、何でこれが通ってないって分かったんだ?」
「だって、メイハオちゃんここら辺の牌を捨ててないんだっち。 それに、少年やシェンルゥねーちゃんは警戒してるのか、その辺の牌を捨ててなかったんだっちよ」
「すごい、有能。 ギメルさん、チェンジで」
「そ、そんなぁ!」
一人足りなかったから消去法でギメルをメンバーに入れたのだが、この調子ならカイムが打ったほうが絶対楽しいと思い、すぐにギメルにはチェンジを言い渡す。
見事に上がったメイハオちゃんが手持ちの牌を俺に見せてきたので、ギメルが捨てた牌と合わせて役を計算しようと身を乗り出す。
そんな中、チェンジを言い渡されたギメルはおずおずと席を立とうとして……
「っ痛いですぅ!」
ガタンッ! と机が縦に浮き上がり、卓の上に乗っていた牌はグッチャグチャになってしまった。 これではメイハオちゃんがなにを揃えたのか分からない。
「いったたー、お膝ぶつけちゃいました〜」
涙目で膝をスリスリしているギメル。 そして優しいメイハオちゃんとカイムちゃんは痛そうにしているギメルをよしよししている。
メイハオちゃんもカイムちゃんもとっても優しい子になったものだ、これはとても喜ばしいこと。 カイムちゃんなんかは元の人格が完全になくなっていることの証明だ!
だがギメル、貴様は許さん。
「魔術大全【第79頁】物質創造構成式:蔓縛」
「ひやぁあぁぁぁぁぁ! なにするんですかオーナー!」
「魔術大全【第427頁】空間創造構成式:遮音空間」
「え? ちょっ、オーナー? ひどいですよ————! ——————!」
「童、おぬし容赦ないのう」
蔓縛の魔術でイモムシ状態に拘束したギメルを遮音空間の中に押し込め、俺はスッキリした表情でカイムに手を差し伸べる。
「よーし、ルールはそろそろ覚えただろカイム! せっかくだし最初からもう一回やろうぜ!」
「カイムは少年が怖くなってきたんだっち。 でも少年のストレスがとっても緩和されてるのはいいことなんだっち」
俺のストレスも緩和され、うるさいポンコツも気にしなくて良くなったため、俺は気持ちよく麻雀を楽しむことができるようになった。 これはとってもいいことだ!
「|——————《出してくださいよオーナー》!」
スッキリした表情で麻雀を再開した俺に向かい、遮音空間の中で大泣きしているギメルであった。




