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バッドエンド回避に失敗した悪役貴族の俺、自作ダンジョンに引きこもる  作者: 【星願大聖】永福
たまには息抜きも必要だよね

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第81話 興味本位でキャラ設定した俺は、思いの外上手く行ったことに驚く

 ❖

 俺が好きな美少女キャラを考えてみた。 そうしてたどり着いた概念はこちら。

 

「カイムとは仮の名に過ぎないんだっち……我が真名を耳にして叫喚せよ。 我が名はピエール・シャルルモニエ・カイム也《なり》! 別名、悪名高き悪魔総裁・カイムなのだっち!」

 

 見事に、ピエール・シャルルモニエ・カイムa.k.a悪魔総裁カイム、が爆誕しましたとさ(笑) 見よこの圧倒的な中二病少女のイタイ姿を!

 

「うん、完全にしくじったなこれは」

 

「ちちち、少年よ。 我が栄光を前に怖気付いてしまったようだっちね?」

 

 腕を組み、いつの間にか作ってもらったであろう眼帯をつけたカイムは、ドヤ顔で俺を見上げてくる。 身長が低いのも相まってか、あの伝説的人気ジャンルのヒロインしか脳裏に浮かばないだろう。

 

「なんじゃこやつ、一体何の概念を書き込んだのじゃ?」

 

「お兄ちゃん、この子ちょっと変だよ?」

 

「メイハオちゃん、間違ってもこういう子に変だとか、変わってるって言っちゃダメなんだ」

 

 俺の書き込んだ概念がしっかり仕事をしているのなら、この後起きるであろうことは想像に難しくない。

 

「ひっく、ひっく……カイム、変じゃないっち」

 

 なるほど、泣いちゃうパターンだったか。 ほらほら謝りなさいメイハオちゃん、と言う思いを込めて背中をポンと優しく押してやる。

 

 すると俺の意図を察したメイハオちゃんは、泣いてしまったカイムの頭をポンポン撫で始めた。 和むなこの光景。

 

「よしよし、ごめんねカイム。 メイハオ、謝る」

 

「別に、泣いてなんかないっち。 我が眼《まなこ》からあふれる雫《しずく》は、聖なる力を帯びた聖水なんだっち」

 

「一体どんな設定なんだ? 悪魔から聖水出ちまったらそれこそカオスだろ」

 

 思わずツッコミを入れてしまうくらいには設定がバグっている。 しかしながら、俺のツッコミを聞いたカイムはケロッとした表情で厨二病特有のあのポーズを取ってしまった。

 

「ちっちっちっちっちっち! 我が眼には混沌《カオス》の力が付与されておるのだよ少年。 さあ恐れ慄け! 我が眼に封印されし力、ブラッディ・サクリファイスの真髄をとくと見るっち!」

 

 薬指と小指の間から右目を光らせている。 ちなみに、眼帯で隠しているのは左目だ。

 

 カイムの痛い設定によると、左目には混沌の支配者ブラッディ・サクリファイスが封印されているらしい。 中二病らしく、それっぽいいい感じの単語を並べてカッコつけているだけだろう。

 

 ちなみに、この前カイムのために作ってやった個室を覗いた時、部屋の真ん中には謎の魔法陣(入念に審査した結果この世界の魔術とは一切関係ない魔法陣)が描かれており、机の上には手書きで『よげんのしょ』と書かれたカイムの設定資料が置いてあった。

 

 つい興味本心で呼んでみたら、左目には混沌の支配者ブラッディ・サクリファイスが封印されているとか、三千年前行われた天魔戦争の生き残りとか、今は力の半分を創造神ジェノサイドに奪われているとかシッチャカメッチャカなことが書かれていた。

 

 なので、夕食の席でカイムに「ジェノサイドって集団虐殺って意味だぞ」ってさり気なく教えてやったら、ご飯を残したままダッシュで自室に戻るという面白い反応を見せてくれた。

 

 創造神の名前が大量虐殺って意味なのは流石にまずいもんね。

 

 そんなほっこりするエピソードを思い出してみて、もしかしたら設定した概念は意外と正解かもしれないと満足気に頷く俺。

 

 目の前ではメイハオちゃんが「かおすって何?」とか「ぶらっでぃさくりぱす?」なんて言いながらちょこんと首を傾げている和やかな風景が広がっている。

 

 どうやら新生カイムちゃんとメイハオちゃんは身長は近いが話は噛み合わないという見ていてほんわかする関係性を築いているようだ。

 

 なにはともあれ、今回カイムに書き込んだ設定は大成功と判断して良さそうだ。

 

 満足感に浸りながら今日はどうやって暇をつぶそうか考える俺。 だがしかし、踵を返した瞬間カイムちゃんは慌てて俺の服の裾をつまんで来る。

 

「少年よ、心して聞くっち!」

 

 突然真面目なトーンで声をかけてくるカイム。 俺はまた意味不明な設定を作ったのだろうとたかを括り、少々面倒だったがどうしたのか問いかけてみた。

 

 すると、カイムはまじまじと俺の周囲の空間を見てから、ゴクリと息を呑む。

 

 この子の視線を追いかけてみて思う。 おかしい、霊感設定とかミステリアス少女なんて概念は付与していない。

 

「少年よ、うぬは直近で闇に飲まれかけたっち?」

 

「ああ、この前ブチギレたよ?」

 

 ちなみにブチギレたのはその質問をしてきたカイムちゃんのせいですが? と言いたかったが、今は空っぽになった脳に違う設定を書き込んだ状態のため、それを言ったら面倒なことになるかもしれないと思って言うのはやめた。

 

「やはりか、少々危険な状態だっちね」

 

 カイムちゃんは真剣な顔で顎を撫で始める。 余計な設定を俺に付け加えようとしているのだろうか?

 

「このままだと、次に情緒が破壊されることがあった際、うぬは命濁《めいだく》化してしまう恐れがあるっちよ?」

 

「……え?」

 

 マジフロ本編後半のストーリーでちょくちょく使われる単語、命濁化という言語を聞いた俺は、思わず首を傾げてしまう。

 

 この時命濁化という単語が出たのは中二病設定による偶然か、それともカイムの脳内にわずかに残っていた知識が表に出ただけなのか。

 

 どちらかわからない以上、先ほどとは違って真剣に耳を傾ける俺。

 

「うぬの魔力は半分ほど濁ってるっち。 今はストレスが掛かっていないから命濁化は進んで無いようだっちが、放置するのは非常にまずいっち」

 

 カイムちゃんは真剣な顔で俺の周囲の空間、おそらく悪魔だからこそ可視化できている魔力の流れを見ているのだろう。

 

 となると、今回カイムちゃんに書き込んだ設定はしっかり機能しているが、悪魔として生きてきた知識は引き継がれていると考えていい。

 

 要はあれだ、記憶喪失になった人が文字を読めたり自分の名前を覚えたりしているのと同じで、悪魔としての基本的知識は失われずに済んだのだろう。

 

 脳が破壊されたことに寄って人格は破壊されたが、知識だけは生きていた。 だからきっと、カイムちゃんは命濁化の条件やダンジョン運営におけるポイントなどを知識として覚えている可能性が非常に高い。

 

「命濁化って、阻止できるんすか?」

 

「出来ないことはないんだっち。 ちなみに、うぬは楽しいと思う瞬間や、幸せを実感する瞬間はあるっちか?」

 

「楽しいと思う瞬間? アニメ見たりとかゲームやってる時とかかな? それ以外に幸せな瞬間って……あの、幸せって、なんですか?」

 

「まずいっち、命濁化が少し進んだっち。 ごめんなんだっち」

 

 なるほど、命濁化というのは悲しい思いをしたりすると進むらしい。 四つん這いで地面とにらめっこしている俺に、可愛そうなものをみるような視線を送ってくるカイムちゃんの視線が痛い。

 

「ああヤバいっち、誰か少年を楽しい思考に戻すっち。 命濁化が進むと完全に闇堕ちして命濁獣になるっちよ?」

 

 慌てだすカイムに呼応し、近くにいたメイハオちゃんやシェンルゥがあたふたし始める。

 

「どどど、どうすればいいのじゃ? 童を幸せな気分にすればいいのじゃな? ということは、童が大好きであろう妾が頭をナデナデしてやれば解決するというわけじゃな!」

 

「今の発言で命濁化がさらに進んだっち」

 

「何でじゃ童《わっぱ》ァァァァァ!」

 

 腕まくりして飛びかかってこようとしているシェンルゥを、慌ててカイムが羽交い締めする。

 

 そんな二人を差し置いて、てくてく歩み寄ってきたメイハオちゃんが、心配そうな表情を浮かべながら一生懸命背伸びして、地面に膝をついていた俺の頭をぽんぽん撫でてきた。

 

「よしよし、お兄ちゃんはえらいえらい」

 

「メイハオちゃん……君はなんていい子に成長したんだろう」

 

「あ、命濁化が収まったっち」

 

「ちょぉぉぉ! おかしいじゃろうがぁぁぁぁぁ!」

 

 シェンルゥがまたしても大騒ぎする中、俺はメイハオちゃんによしよしされてほっこりしてしまうのであった。

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